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50.少年の悔悟
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ヴァレンはぐるりと部屋を見回してみる。花月琴は三つとも絨毯の上に置かれたままで、変わっていない。特に何も変化はないようだ。
続いて、窓を開けてみる。見上げれば、空は白んできていて、もう夜明けだ。トゥルーテスとの約束の時間まで、残りわずかしかない。
しかし、次に窓から見下ろした光景を見て、ヴァレンはつい口元がゆるんでしまう。
屋敷を囲む塀が、窓のすぐ近くにあったのだ。ヴァレンならば十分に飛び越えられる距離である。しかもここは二階だ。三階からも飛び降りられるヴァレンにしてみれば、高さも問題ない。
ヴァレンを閉じ込めておくには、この部屋では不足だったようだ。
しかし、不安そうにヴァレンの様子をうかがう少年を見て、ヴァレンは軽く唸る。
一人で逃げ出すのは簡単だ。だが、この少年を残していった場合、責任を問われることになるのではないだろうか。八つ当たりの対象としては、打ってつけだ。
あの残忍な男だ、少年に対しても暴虐の限りを尽くすことは想像に難くない。まして、ヴァレンはここから『風月花』を持ち出すつもりだ。激昂した男にどのような仕打ちを受けるかなど、考えたくもなかった。
となれば、何らかの手は打っておく必要がある。
「ねえ、ちょっと聞いてみたいんだけどさ。もしかしたら……ネヴィルって知っている? 不夜島の白花を引退して、娼館とかを経営しているんだけど」
「え!?」
まずは疑問に思っていたことを投げかけてみれば、少年はびくりと跳ねるように身を震わせた。驚愕と共に、後ろめたそうな表情が浮かび上がってくる。
「当たりか。ああ、別にどうこうしようってわけじゃないから。俺はネヴィルの友達で、ちょっと話を聞いていたから、確認してみただけ」
安心させるように微笑みかけ、片手をひらひらさせると、少年は長めの息を吐いた。
「そ、そうですか……僕は、確かにネヴィルさんのところから逃げ出しました。仕込みが厳しくて……そこまでしなくても僕ならやっていけるって、いい気になっちゃったんです……ごめんなさい……」
「えっと、『ミゼアス』を名乗っていたのも、きみだよね?」
「はい……ネヴィルさんが、僕は不夜島のミゼアスに似ているって言っていたんで、そのふりをすれば稼げるかなって思って……でも、後悔しています。名前を騙ったせいで、こうしてあんな残忍な男に捕まってしまいました……」
「不夜島での作法も、ネヴィルから教わったの?」
「はい、そうです。どうして、逃げ出してしまったんだろう……今にして思えば、ネヴィルさんは僕がきちんと稼げるよう、いろいろと教えてくれていたのに……大変でも、我慢して頑張ればよかった……」
ぽとり、と涙が少年の瞳から零れ落ちる。
続いて、窓を開けてみる。見上げれば、空は白んできていて、もう夜明けだ。トゥルーテスとの約束の時間まで、残りわずかしかない。
しかし、次に窓から見下ろした光景を見て、ヴァレンはつい口元がゆるんでしまう。
屋敷を囲む塀が、窓のすぐ近くにあったのだ。ヴァレンならば十分に飛び越えられる距離である。しかもここは二階だ。三階からも飛び降りられるヴァレンにしてみれば、高さも問題ない。
ヴァレンを閉じ込めておくには、この部屋では不足だったようだ。
しかし、不安そうにヴァレンの様子をうかがう少年を見て、ヴァレンは軽く唸る。
一人で逃げ出すのは簡単だ。だが、この少年を残していった場合、責任を問われることになるのではないだろうか。八つ当たりの対象としては、打ってつけだ。
あの残忍な男だ、少年に対しても暴虐の限りを尽くすことは想像に難くない。まして、ヴァレンはここから『風月花』を持ち出すつもりだ。激昂した男にどのような仕打ちを受けるかなど、考えたくもなかった。
となれば、何らかの手は打っておく必要がある。
「ねえ、ちょっと聞いてみたいんだけどさ。もしかしたら……ネヴィルって知っている? 不夜島の白花を引退して、娼館とかを経営しているんだけど」
「え!?」
まずは疑問に思っていたことを投げかけてみれば、少年はびくりと跳ねるように身を震わせた。驚愕と共に、後ろめたそうな表情が浮かび上がってくる。
「当たりか。ああ、別にどうこうしようってわけじゃないから。俺はネヴィルの友達で、ちょっと話を聞いていたから、確認してみただけ」
安心させるように微笑みかけ、片手をひらひらさせると、少年は長めの息を吐いた。
「そ、そうですか……僕は、確かにネヴィルさんのところから逃げ出しました。仕込みが厳しくて……そこまでしなくても僕ならやっていけるって、いい気になっちゃったんです……ごめんなさい……」
「えっと、『ミゼアス』を名乗っていたのも、きみだよね?」
「はい……ネヴィルさんが、僕は不夜島のミゼアスに似ているって言っていたんで、そのふりをすれば稼げるかなって思って……でも、後悔しています。名前を騙ったせいで、こうしてあんな残忍な男に捕まってしまいました……」
「不夜島での作法も、ネヴィルから教わったの?」
「はい、そうです。どうして、逃げ出してしまったんだろう……今にして思えば、ネヴィルさんは僕がきちんと稼げるよう、いろいろと教えてくれていたのに……大変でも、我慢して頑張ればよかった……」
ぽとり、と涙が少年の瞳から零れ落ちる。
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