114 / 138
114.フェイ
しおりを挟む
「え……? ええ!?」
アデルジェスは目を丸くしてミゼアスを見つめる。
島を出るにはまだしばらくかかるのではなかっただろうか。借金はどうしたのだろうか。アデルジェスの頭を色々なことが駆け巡り、困惑する。
「借金を返すまで島から出られないんじゃ……」
「借金なんて、とっくの昔に返し終わっているよ。僕がどれだけの間、白花の第一位だったと思っているんだい」
「ええ!? そ、そうだ! あの模様は? 白花の第一位だっていうやつ。あれがあると、巨大亀だか何だかに食われるんじゃあ!」
アデルジェスがそう言うと、ミゼアスは手の甲をアデルジェスの目の前につきつけた。
白い手だった。どこにもあのなまめかしい模様がない。
「さっき、消してもらった。もう僕は白花の第一位でも何でもない、ただのミゼアス。……まあ、僕もこんなに早く出てこられると思っていなかったんだけれどね」
ミゼアスは、はにかんだような笑みを浮かべる。
「じゃ……じゃあ、もう自由なの? 俺と一緒に来てくれるの?」
声が震えているのが自分でもわかる。アデルジェスの問いに、ミゼアスは輝くような笑顔を見せて頷いた。
衝動のままにアデルジェスはミゼアスを抱きしめる。周囲に人がいることなど、頭から消えていた。
しばし時の流れすら止まったかのようだった。感じられるのは腕の中にいるミゼアスの温もりだけだ。
今このとき、アデルジェスにとっての世界とはそれだけだった。
「……今度は約束を守れた。ねえ、覚えている? 岩陰の小さな木になっていた、紫色の小さな果実」
腕の中から悪戯っぽい笑みを浮かべてミゼアスが見上げてくる。
「え……?」
アデルジェスは目を見開き、腕の中の愛しい存在を見た。
岩陰の小さな木になっていた、紫色の小さな果実。それは幼い頃、幼馴染のあの子と見つけたものだ。二人だけの秘密だねと言い、また二人で来ようねと約束した。
しかしそこまでは話していないはずだ。ただ、『果実』としか言わなかった。これはあの子と二人だけの秘密なはずだ。
幼馴染のフェイちゃんと、二人だけの。
「きみが島を出るとき、僕の本名を教えるって言ったよね。僕の名前、フェイミゼアスっていうんだよ。幼い頃は女性略称で『フェイ』って呼ばれていたんだ」
アデルジェスは目を丸くしてミゼアスを見つめる。
島を出るにはまだしばらくかかるのではなかっただろうか。借金はどうしたのだろうか。アデルジェスの頭を色々なことが駆け巡り、困惑する。
「借金を返すまで島から出られないんじゃ……」
「借金なんて、とっくの昔に返し終わっているよ。僕がどれだけの間、白花の第一位だったと思っているんだい」
「ええ!? そ、そうだ! あの模様は? 白花の第一位だっていうやつ。あれがあると、巨大亀だか何だかに食われるんじゃあ!」
アデルジェスがそう言うと、ミゼアスは手の甲をアデルジェスの目の前につきつけた。
白い手だった。どこにもあのなまめかしい模様がない。
「さっき、消してもらった。もう僕は白花の第一位でも何でもない、ただのミゼアス。……まあ、僕もこんなに早く出てこられると思っていなかったんだけれどね」
ミゼアスは、はにかんだような笑みを浮かべる。
「じゃ……じゃあ、もう自由なの? 俺と一緒に来てくれるの?」
声が震えているのが自分でもわかる。アデルジェスの問いに、ミゼアスは輝くような笑顔を見せて頷いた。
衝動のままにアデルジェスはミゼアスを抱きしめる。周囲に人がいることなど、頭から消えていた。
しばし時の流れすら止まったかのようだった。感じられるのは腕の中にいるミゼアスの温もりだけだ。
今このとき、アデルジェスにとっての世界とはそれだけだった。
「……今度は約束を守れた。ねえ、覚えている? 岩陰の小さな木になっていた、紫色の小さな果実」
腕の中から悪戯っぽい笑みを浮かべてミゼアスが見上げてくる。
「え……?」
アデルジェスは目を見開き、腕の中の愛しい存在を見た。
岩陰の小さな木になっていた、紫色の小さな果実。それは幼い頃、幼馴染のあの子と見つけたものだ。二人だけの秘密だねと言い、また二人で来ようねと約束した。
しかしそこまでは話していないはずだ。ただ、『果実』としか言わなかった。これはあの子と二人だけの秘密なはずだ。
幼馴染のフェイちゃんと、二人だけの。
「きみが島を出るとき、僕の本名を教えるって言ったよね。僕の名前、フェイミゼアスっていうんだよ。幼い頃は女性略称で『フェイ』って呼ばれていたんだ」
4
お気に入りに追加
146
あなたにおすすめの小説
白い部屋で愛を囁いて
氷魚彰人
BL
幼馴染でありお腹の子の父親であるαの雪路に「赤ちゃんができた」と告げるが、不機嫌に「誰の子だ」と問われ、ショックのあまりもう一人の幼馴染の名前を出し嘘を吐いた葵だったが……。
シリアスな内容です。Hはないのでお求めの方、すみません。
※某BL小説投稿サイトのオメガバースコンテストにて入賞した作品です。
潜入した僕、専属メイドとしてラブラブセックスしまくる話
ずー子
BL
敵陣にスパイ潜入した美少年がそのままボスに気に入られて女装でラブラブセックスしまくる話です。冒頭とエピローグだけ載せました。
悪のイケオジ×スパイ美少年。魔王×勇者がお好きな方は多分好きだと思います。女装シーン書くのとっても楽しかったです。可愛い男の娘、最強。
本編気になる方はPixivのページをチェックしてみてくださいませ!
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=21381209
【完結・BL】DT騎士団員は、騎士団長様に告白したい!【騎士団員×騎士団長】
彩華
BL
とある平和な国。「ある日」を境に、この国を守る騎士団へ入団することを夢見ていたトーマは、無事にその夢を叶えた。それもこれも、あの日の初恋。騎士団長・アランに一目惚れしたため。年若いトーマの恋心は、日々募っていくばかり。自身の気持ちを、アランに伝えるべきか? そんな悶々とする騎士団員の話。
「好きだって言えるなら、言いたい。いや、でもやっぱ、言わなくても良いな……。ああ゛―!でも、アラン様が好きだって言いてぇよー!!」
子悪党令息の息子として生まれました
菟圃(うさぎはたけ)
BL
悪役に好かれていますがどうやって逃げられますか!?
ネヴィレントとラグザンドの間に生まれたホロとイディのお話。
「お父様とお母様本当に仲がいいね」
「良すぎて目の毒だ」
ーーーーーーーーーーー
「僕達の子ども達本当に可愛い!!」
「ゆっくりと見守って上げよう」
偶にネヴィレントとラグザンドも出てきます。
意中の騎士がお見合いするとかで失恋が決定したので娼館でヤケ酒煽ってたら、何故かお仕置きされることになった件について
東川カンナ
BL
失恋確定でヤケを起こした美貌の騎士・シオンが娼館で浴びるほど酒を煽っていたら、何故かその現場に失恋相手の同僚・アレクセイが乗り込んできて、酔っぱらって訳が分からないうちに“お仕置き”と言われて一線超えてしまうお話。
そこから紆余曲折を経て何とか恋仲になった二人だが、さらにあれこれ困難が立ちはだかってーーーー?
螺旋の中の欠片
琴葉
BL
※オメガバース設定注意!男性妊娠出産等出て来ます※親の借金から人買いに売られてしまったオメガの澪。売られた先は大きな屋敷で、しかも年下の子供アルファ。澪は彼の愛人か愛玩具になるために売られて来たのだが…。同じ時間を共有するにつれ、澪にはある感情が芽生えていく。★6月より毎週金曜更新予定(予定外更新有り)★
獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果
ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。
そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。
2023/04/06 後日談追加
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる