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113.島からの船出
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アデルジェスは石畳で舗装された大通りを歩いていく。
たった数日間だけだったが、ずいぶんとこの街並みにもなじんだように思えた。懐かしさすら感じる。
大きな門をくぐり、島に入るときに預けた短剣を返してもらう。
短剣を受け取りながら、預けるときに違和感を覚えたことを思い出す。よく見てみると、真新しいように思えた。鞘から少しだけ刃を出してみるが、やけに輝いている。やはり戦場で取り違えでもしてしまったようだ。
しかしたいした問題ではない。そう思い、アデルジェスは船着場にたたずむ船を見上げた。
この船に乗って帰るのだ。もうあと少しで出航の時間となる。
周囲には結構な数の人たちがいた。白花や赤花らしき姿もある。客との別れを惜しんで見送りに来ているようだ。
見回してみるが、ミゼアスらしき姿は見当たらない。
だんだんと時間も近づき、客たちは船に乗り込んでいった。涙ながらに別れを惜しみ、再会の約束を交わす姿も見かけられる。
それでもアデルジェスはミゼアスを待っていたが、とうとう乗り込むように促されてしまった。仕方なく乗り込む。
少しでも長く別れを惜しもうと、甲板に人が集まっている。アデルジェスもそこからミゼアスの姿を探すことにした。
しかし、やはりあの可愛らしい姿は見当たらない。
見えるのは涙ながらに手を振る人々だ。ぶんぶんと振り回すのではなく、ゆったりとした上品な動作なのはさすがというべきだろうか。
ここで、今までいくつ再会の約束が交わされてきたのだろうか。そしていくつ裏切られたのだろう。
約束など、朝露のようなもの。朝になれば儚く消えてしまうと言った人を思い出す。
ミゼアスは島を出て自分のところに来てくれると約束した。その約束は消えないはずだ。たとえ自分が島を出ても。
アデルジェスは鼻につんとくるものを感じた。涙が瞳に滲むのがわかったが、こんなところで泣き出すわけにはいかない。涙がこぼれないように空を見上げる。
しばし涙をこらえていると、周囲がざわめくのが聞こえた。ざわめきの中に『ミゼアス』という言葉を聞きつけ、アデルジェスは甲板から身を乗り出して愛しい姿を探す。
船着場に黄金色の髪が見えた。アデルジェスの胸に温かいものが満ちていく。見送りに来てくれたのだ。
ここまで走ってきたらしい。肩で息をしているのが甲板からでもわかる。間に合わないと思って急いで来てくれたのだろう。今すぐ抱きしめたいくらいだったが、触れることすら叶わない距離だ。
せめて声だけでもと思い、息を吸い込む。そしてありったけの声で叫ぼうと思ったそのとき、ミゼアスが船に乗り込んできた。あっけにとられ、アデルジェスは一瞬息をすることを忘れる。
周囲も唖然としているようだ。ミゼアスは優雅に堂々と船に乗り込んでくる。そしてアデルジェスの元に向かってきた。
客たちが気圧されたように道をよけ、アデルジェスの元までミゼアスのための道が出来上がる。茫然とするアデルジェスの前まで、ミゼアスは流れるような足取りでやってきた。
ミゼアスがアデルジェスを見上げてにっこりと笑う。
「来ちゃった。僕をもらってくれるんだよね?」
たった数日間だけだったが、ずいぶんとこの街並みにもなじんだように思えた。懐かしさすら感じる。
大きな門をくぐり、島に入るときに預けた短剣を返してもらう。
短剣を受け取りながら、預けるときに違和感を覚えたことを思い出す。よく見てみると、真新しいように思えた。鞘から少しだけ刃を出してみるが、やけに輝いている。やはり戦場で取り違えでもしてしまったようだ。
しかしたいした問題ではない。そう思い、アデルジェスは船着場にたたずむ船を見上げた。
この船に乗って帰るのだ。もうあと少しで出航の時間となる。
周囲には結構な数の人たちがいた。白花や赤花らしき姿もある。客との別れを惜しんで見送りに来ているようだ。
見回してみるが、ミゼアスらしき姿は見当たらない。
だんだんと時間も近づき、客たちは船に乗り込んでいった。涙ながらに別れを惜しみ、再会の約束を交わす姿も見かけられる。
それでもアデルジェスはミゼアスを待っていたが、とうとう乗り込むように促されてしまった。仕方なく乗り込む。
少しでも長く別れを惜しもうと、甲板に人が集まっている。アデルジェスもそこからミゼアスの姿を探すことにした。
しかし、やはりあの可愛らしい姿は見当たらない。
見えるのは涙ながらに手を振る人々だ。ぶんぶんと振り回すのではなく、ゆったりとした上品な動作なのはさすがというべきだろうか。
ここで、今までいくつ再会の約束が交わされてきたのだろうか。そしていくつ裏切られたのだろう。
約束など、朝露のようなもの。朝になれば儚く消えてしまうと言った人を思い出す。
ミゼアスは島を出て自分のところに来てくれると約束した。その約束は消えないはずだ。たとえ自分が島を出ても。
アデルジェスは鼻につんとくるものを感じた。涙が瞳に滲むのがわかったが、こんなところで泣き出すわけにはいかない。涙がこぼれないように空を見上げる。
しばし涙をこらえていると、周囲がざわめくのが聞こえた。ざわめきの中に『ミゼアス』という言葉を聞きつけ、アデルジェスは甲板から身を乗り出して愛しい姿を探す。
船着場に黄金色の髪が見えた。アデルジェスの胸に温かいものが満ちていく。見送りに来てくれたのだ。
ここまで走ってきたらしい。肩で息をしているのが甲板からでもわかる。間に合わないと思って急いで来てくれたのだろう。今すぐ抱きしめたいくらいだったが、触れることすら叶わない距離だ。
せめて声だけでもと思い、息を吸い込む。そしてありったけの声で叫ぼうと思ったそのとき、ミゼアスが船に乗り込んできた。あっけにとられ、アデルジェスは一瞬息をすることを忘れる。
周囲も唖然としているようだ。ミゼアスは優雅に堂々と船に乗り込んでくる。そしてアデルジェスの元に向かってきた。
客たちが気圧されたように道をよけ、アデルジェスの元までミゼアスのための道が出来上がる。茫然とするアデルジェスの前まで、ミゼアスは流れるような足取りでやってきた。
ミゼアスがアデルジェスを見上げてにっこりと笑う。
「来ちゃった。僕をもらってくれるんだよね?」
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