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105.朗報
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アデルジェスがウインシェルド侯爵との話を終えてミゼアスの部屋に戻ってくると、すっかり日が暮れていた。
かなり長い間話していたようだ。小腹が空いてきたアデルジェスは、昼に屋台で買ってきた残りの焼き菓子をつまむ。
すると扉を叩く音がした。今度はいったい誰だとアデルジェスは軽く息を吐く。
「開けて」
聞こえてきたのは愛しい相手の声だった。
アデルジェスは慌てて扉を開ける。
そこにはミゼアスが盆を持って立っていた。盆の上にはパンとスープ、果物が載っている。
「待たせてごめん。夕食を持ってきたから、食べよう」
そう言ってミゼアスは中に入り、盆を卓の上に置く。
話したいことはあったが、確かに空腹だ。アデルジェスは先に食べることにしようと思い、椅子に座る。
二人で食事に手をつける。柔らかいパンや具沢山のスープは美味しい。アデルジェスにとってはミゼアスと一緒に食べているということが、何よりの味付けだ。
しかしミゼアスは言葉もなく、どこか元気がないようだった。その姿にアデルジェスは不安を感じたが、何も言わずに食べ続ける。
ややあって食事をすべてたいらげる。ミゼアスも食欲はそれなりにあるようだったので、アデルジェスは少し胸を撫で下ろす。
「……ウインシェルド侯爵に会ったんだって?」
ようやくミゼアスが口を開いた。
「うん。お話ししてきた」
「……僕のこと、聞いた?」
「うん、色々聞いたよ。昔のこととか、たくさん」
「その……僕がどうしてきみに近づいたかも?」
「ん? ……ああ、見張っていたっていうやつ?」
アデルジェスが首を傾げながらそう言うと、ミゼアスが身をすくませるのがわかった。
「それで……きみはどう思ったんだい?」
「え? うーん、納得したかな。ミゼアスのような素晴らしい人がどうして俺なんかを拾ったんだろう、って思っていたから」
「そう……」
「でも、そのおかげで俺はミゼアスと会えたんだもの。感謝しないと。こんなに好きになる相手と出会えた」
アデルジェスの言葉にミゼアスが目を大きく見開く。
「……僕のこと、まだ好きでいてくれるの?」
目を潤ませ、震える声で尋ねてくるミゼアス。その姿を見ると、アデルジェスはミゼアスに捨てられるかもしれないと恐れていた自分をばかばかしく思う。
ずっと不安だったのは、ミゼアスなのだ。
「もちろん。ミゼアスは? 俺のことなんか、本当はどうでもいい?」
「まさか! 好き、きみのことが好き。きみだけが好き……」
アデルジェスの胸に顔を埋め、しがみついてくるミゼアス。震える背中をアデルジェスはそっと撫でた。
ミゼアスが落ち着くまで、アデルジェスはずっと優しく背中を撫でていた。ややあって、ミゼアスが涙に濡れた顔を上げる。目元はうっすらと腫れてしまっていたが、嬉しそうで幸せそうな表情だった。
「もしかして、嫌われてしまっていたらどうしようと思っていた……約束もなかったことになっちゃうのかなって……。すごく嬉しい」
そう言って、ミゼアスは輝くような笑顔を見せる。
「あのね、僕、島を出て行けることになったの。いつになるかははっきりしないけれど……でも、そんなにかからないと思う。きみを追っていくから、待っていて」
かなり長い間話していたようだ。小腹が空いてきたアデルジェスは、昼に屋台で買ってきた残りの焼き菓子をつまむ。
すると扉を叩く音がした。今度はいったい誰だとアデルジェスは軽く息を吐く。
「開けて」
聞こえてきたのは愛しい相手の声だった。
アデルジェスは慌てて扉を開ける。
そこにはミゼアスが盆を持って立っていた。盆の上にはパンとスープ、果物が載っている。
「待たせてごめん。夕食を持ってきたから、食べよう」
そう言ってミゼアスは中に入り、盆を卓の上に置く。
話したいことはあったが、確かに空腹だ。アデルジェスは先に食べることにしようと思い、椅子に座る。
二人で食事に手をつける。柔らかいパンや具沢山のスープは美味しい。アデルジェスにとってはミゼアスと一緒に食べているということが、何よりの味付けだ。
しかしミゼアスは言葉もなく、どこか元気がないようだった。その姿にアデルジェスは不安を感じたが、何も言わずに食べ続ける。
ややあって食事をすべてたいらげる。ミゼアスも食欲はそれなりにあるようだったので、アデルジェスは少し胸を撫で下ろす。
「……ウインシェルド侯爵に会ったんだって?」
ようやくミゼアスが口を開いた。
「うん。お話ししてきた」
「……僕のこと、聞いた?」
「うん、色々聞いたよ。昔のこととか、たくさん」
「その……僕がどうしてきみに近づいたかも?」
「ん? ……ああ、見張っていたっていうやつ?」
アデルジェスが首を傾げながらそう言うと、ミゼアスが身をすくませるのがわかった。
「それで……きみはどう思ったんだい?」
「え? うーん、納得したかな。ミゼアスのような素晴らしい人がどうして俺なんかを拾ったんだろう、って思っていたから」
「そう……」
「でも、そのおかげで俺はミゼアスと会えたんだもの。感謝しないと。こんなに好きになる相手と出会えた」
アデルジェスの言葉にミゼアスが目を大きく見開く。
「……僕のこと、まだ好きでいてくれるの?」
目を潤ませ、震える声で尋ねてくるミゼアス。その姿を見ると、アデルジェスはミゼアスに捨てられるかもしれないと恐れていた自分をばかばかしく思う。
ずっと不安だったのは、ミゼアスなのだ。
「もちろん。ミゼアスは? 俺のことなんか、本当はどうでもいい?」
「まさか! 好き、きみのことが好き。きみだけが好き……」
アデルジェスの胸に顔を埋め、しがみついてくるミゼアス。震える背中をアデルジェスはそっと撫でた。
ミゼアスが落ち着くまで、アデルジェスはずっと優しく背中を撫でていた。ややあって、ミゼアスが涙に濡れた顔を上げる。目元はうっすらと腫れてしまっていたが、嬉しそうで幸せそうな表情だった。
「もしかして、嫌われてしまっていたらどうしようと思っていた……約束もなかったことになっちゃうのかなって……。すごく嬉しい」
そう言って、ミゼアスは輝くような笑顔を見せる。
「あのね、僕、島を出て行けることになったの。いつになるかははっきりしないけれど……でも、そんなにかからないと思う。きみを追っていくから、待っていて」
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