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106.絆
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「え? 本当に?」
アデルジェスは信じられない心持ちで呟いた。ミゼアスが島を出ることができる。自分のところに来てくれるのだ。胸に歓喜がわき上がってくる。
「うん、今日、領主様に会って許しをもらった。まだ色々と残っていることもあるからすぐってわけにはいかないけれど、終わったら島を出ることは許してもらえた。僕は稼ぎ頭だし、あっさり離してもらえると思っていなかったんだけれど……って、痛い! 痛いよ!」
わきあがる喜びに突き動かされ、アデルジェスはミゼアスを抱きしめた。しかし力を入れすぎてしまったようだ。ミゼアスが悲鳴をあげる。
「あ……ごめん……でも、嬉しくて……」
力を緩めてアデルジェスは詫びる。
「もう……僕だって嬉しいけれどさ……。ウインシェルド侯爵も口添えしてくれたみたい。きみと幸せになりなさい、って言ってくれた……」
ミゼアスの瞳がまた潤んできた。
「あのさ、ウインシェルド侯爵のことなんだけれど……ミゼアスにとっては命の恩人ともいえる方だろう? 島を出てからも、例えば楽士として訪れるとかで会ってあげられないかな?」
「え……いいの?」
驚いた顔でミゼアスは問いかけてくる。
「ミゼアスさえよければ。本当にミゼアスのことを大切に思っているようだし……。会えなくなるのがとても淋しいはずなのに、ミゼアスのことを頼むって……俺もいたたまれなくて……」
アデルジェスの言葉に、ミゼアスの瞳から涙が零れ落ちた。
「嬉しい……ありがとう……きみが嫌がるかと思って、島を出たらもう二度と会えないものと覚悟していた……。まさか、きみがそんなことを言ってくれるなんて……」
「まあ、昔からミゼアスを知っていたっていうことに嫉妬はするけれどね。でも、ミゼアスにとっては特別な方なんだろう? 恩人でもあるんだし。だったら俺にとっても敬愛すべき方だよ」
アデルジェスがそう言うと、ミゼアスが涙を流しながら笑う。
「ありがとう……僕、きみのことが本当に大好き……」
ぽつりぽつりとミゼアスがウインシェルド侯爵のことを話し出す。
まだ見習いだった頃から何かと目をかけてくれたそうだった。ミゼアスの奏でる花月琴をこの上なく愛で、色々と支援もしてくれたという。
ミゼアスが大病を患い、医者に見放されたときも手を尽くして救ってくれた。病気の後遺症でまともに客を取れなくなったミゼアスを救った花月琴、『雪月花』を贈ったのもウインシェルド侯爵だ。
ミゼアスにとっては客以上の存在だったという。
「僕に色々良くしてくれたお客はたくさんいたけれど……下心なしで本当に僕を大切にしてくれたのは、ウインシェルド侯爵だけだった。……おじいさまって、こんな感じかなって思っていたよ」
アデルジェスはミゼアスを膝の上に向かい合うように乗せ、髪を撫でてやりながら話を聞いていた。
ミゼアスの温もりを感じながらだと、とても穏やかな気持ちになれる。もし、人づてにミゼアスがウインシェルド侯爵のことをこれだけ大切に思っていると聞かされたのなら、嫉妬に狂っていたかもしれない。
しかし今、ミゼアスは自らの腕の中にいる。穏やかにミゼアスの口から語られる言葉はアデルジェスの耳にも心地よく響き、暗い思いを呼び覚ますことはない。むしろ微笑ましく思えるほどだ。
「きみへの想いとは違う種類だけれど、僕にとってはウインシェルド侯爵のことも大切な存在だ。でも、きみにとっては不愉快なんじゃないかと思っていた。それを受け入れてもらえて、本当に嬉しい……」
髪を撫でられ、うっとりと目を細めながらミゼアスが言う。
「もう、きみのことが好きで好きで仕方ない……」
アデルジェスの首に腕を回し、ミゼアスは口づけをねだるように顔を近づける。
「俺も、好き……」
そう囁き、アデルジェスはミゼアスの顔を引き寄せて唇を奪った。
アデルジェスは信じられない心持ちで呟いた。ミゼアスが島を出ることができる。自分のところに来てくれるのだ。胸に歓喜がわき上がってくる。
「うん、今日、領主様に会って許しをもらった。まだ色々と残っていることもあるからすぐってわけにはいかないけれど、終わったら島を出ることは許してもらえた。僕は稼ぎ頭だし、あっさり離してもらえると思っていなかったんだけれど……って、痛い! 痛いよ!」
わきあがる喜びに突き動かされ、アデルジェスはミゼアスを抱きしめた。しかし力を入れすぎてしまったようだ。ミゼアスが悲鳴をあげる。
「あ……ごめん……でも、嬉しくて……」
力を緩めてアデルジェスは詫びる。
「もう……僕だって嬉しいけれどさ……。ウインシェルド侯爵も口添えしてくれたみたい。きみと幸せになりなさい、って言ってくれた……」
ミゼアスの瞳がまた潤んできた。
「あのさ、ウインシェルド侯爵のことなんだけれど……ミゼアスにとっては命の恩人ともいえる方だろう? 島を出てからも、例えば楽士として訪れるとかで会ってあげられないかな?」
「え……いいの?」
驚いた顔でミゼアスは問いかけてくる。
「ミゼアスさえよければ。本当にミゼアスのことを大切に思っているようだし……。会えなくなるのがとても淋しいはずなのに、ミゼアスのことを頼むって……俺もいたたまれなくて……」
アデルジェスの言葉に、ミゼアスの瞳から涙が零れ落ちた。
「嬉しい……ありがとう……きみが嫌がるかと思って、島を出たらもう二度と会えないものと覚悟していた……。まさか、きみがそんなことを言ってくれるなんて……」
「まあ、昔からミゼアスを知っていたっていうことに嫉妬はするけれどね。でも、ミゼアスにとっては特別な方なんだろう? 恩人でもあるんだし。だったら俺にとっても敬愛すべき方だよ」
アデルジェスがそう言うと、ミゼアスが涙を流しながら笑う。
「ありがとう……僕、きみのことが本当に大好き……」
ぽつりぽつりとミゼアスがウインシェルド侯爵のことを話し出す。
まだ見習いだった頃から何かと目をかけてくれたそうだった。ミゼアスの奏でる花月琴をこの上なく愛で、色々と支援もしてくれたという。
ミゼアスが大病を患い、医者に見放されたときも手を尽くして救ってくれた。病気の後遺症でまともに客を取れなくなったミゼアスを救った花月琴、『雪月花』を贈ったのもウインシェルド侯爵だ。
ミゼアスにとっては客以上の存在だったという。
「僕に色々良くしてくれたお客はたくさんいたけれど……下心なしで本当に僕を大切にしてくれたのは、ウインシェルド侯爵だけだった。……おじいさまって、こんな感じかなって思っていたよ」
アデルジェスはミゼアスを膝の上に向かい合うように乗せ、髪を撫でてやりながら話を聞いていた。
ミゼアスの温もりを感じながらだと、とても穏やかな気持ちになれる。もし、人づてにミゼアスがウインシェルド侯爵のことをこれだけ大切に思っていると聞かされたのなら、嫉妬に狂っていたかもしれない。
しかし今、ミゼアスは自らの腕の中にいる。穏やかにミゼアスの口から語られる言葉はアデルジェスの耳にも心地よく響き、暗い思いを呼び覚ますことはない。むしろ微笑ましく思えるほどだ。
「きみへの想いとは違う種類だけれど、僕にとってはウインシェルド侯爵のことも大切な存在だ。でも、きみにとっては不愉快なんじゃないかと思っていた。それを受け入れてもらえて、本当に嬉しい……」
髪を撫でられ、うっとりと目を細めながらミゼアスが言う。
「もう、きみのことが好きで好きで仕方ない……」
アデルジェスの首に腕を回し、ミゼアスは口づけをねだるように顔を近づける。
「俺も、好き……」
そう囁き、アデルジェスはミゼアスの顔を引き寄せて唇を奪った。
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