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96.呼び出し
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「ミゼアス兄さんはジェスさん相手だと感じるし、平気なんですよ。好きな人となら大丈夫なんて、ありえない純愛体質で可愛いでしょう?」
「え……あ……まあ、うん……」
「まあ、あまり言うとミゼアス兄さんが怖いんで、これくらいにしておきますね。ミゼアス兄さんのお仕置きはきっつくて、えげつないんで」
「は……はあ……」
ふと気づいたが、ヴァレンはミゼアスに対してかなり格下として振る舞う。いくらミゼアスが五花で特別とはいっても、ヴァレンだって上級の四花だという話だ。それならばここまで恐れる必要はないような気がする。
「ヴァレンって、四花なんだよね。ミゼアスがいくら五花っていっても、そんなに開きがあるものなの?」
アデルジェスが尋ねてみると、ヴァレンは軽く首を傾げた。
「聞いていません? 俺、もともとミゼアス兄さん付きだったんですよ。見習い時代の話ですけれどね。見習いと五花様なんて天地の開きですし、上下関係はそのときの名残ですね。もう身体に刻み込まれちゃって」
「え? ミゼアス付きだったの?」
「ええ、俺が十二歳になるまで。歴代のミゼアス兄さん付きの中で、一番迷惑かけたのが俺でしょうね。今の子たちなんてお行儀がよくて、あのえげつないお仕置きを経験していないそうですよ。あれは一度喰らっておくと、店でどんなに嫌なことがあってもあれよりはマシと思えるようになるんで、通過儀礼としておすすめなんですけれどね」
「…………」
そのお仕置きというのが何なのかは気になる。気になるが、聞けば後悔するのは間違いないだろう。
「でも、何だかんだ言って俺はミゼアス兄さんにとてもお世話になりました。近くにいたから、ミゼアス兄さんが無理しているのも知っていますし……。ミゼアス兄さんには幸せになってもらいたいんですよ。ジェスさん、ミゼアス兄さんを大切にしてあげてくださいね」
にっこりと笑ってヴァレンは歩き続ける。
ややあって、一つの扉の前にたどり着いた。ヴァレンは扉を叩く。
「入れ」
一拍置いて、中から声がする。
「失礼します」
それからヴァレンが扉を開いた。
有無を言わさぬ笑顔を浮かべて、ヴァレンはアデルジェスを中へと押しやる。
戸惑いながらも中に入ると、さほど広くない部屋に一人の老人が座っていた。
見事な純白の髪を持ち、顔には皺が刻まれているものの肌つやは良い。目元の笑い皺が特に深く、灰色がかった青色の瞳も優しそうな輝きをたたえていた。
アデルジェスはその老人に見覚えがあるような気がした。記憶を手繰り寄せてみると、初日に船から降りるとき、ミゼアスと一緒に歩いていった老人だったような気がする。
「突然お呼び立てして、すまないね。私はウインシェルドという。きみがアデルジェス君だね?」
目を細めてウインシェルド侯爵が口を開く。穏やかで堂々とした声だった。
「え……あ……まあ、うん……」
「まあ、あまり言うとミゼアス兄さんが怖いんで、これくらいにしておきますね。ミゼアス兄さんのお仕置きはきっつくて、えげつないんで」
「は……はあ……」
ふと気づいたが、ヴァレンはミゼアスに対してかなり格下として振る舞う。いくらミゼアスが五花で特別とはいっても、ヴァレンだって上級の四花だという話だ。それならばここまで恐れる必要はないような気がする。
「ヴァレンって、四花なんだよね。ミゼアスがいくら五花っていっても、そんなに開きがあるものなの?」
アデルジェスが尋ねてみると、ヴァレンは軽く首を傾げた。
「聞いていません? 俺、もともとミゼアス兄さん付きだったんですよ。見習い時代の話ですけれどね。見習いと五花様なんて天地の開きですし、上下関係はそのときの名残ですね。もう身体に刻み込まれちゃって」
「え? ミゼアス付きだったの?」
「ええ、俺が十二歳になるまで。歴代のミゼアス兄さん付きの中で、一番迷惑かけたのが俺でしょうね。今の子たちなんてお行儀がよくて、あのえげつないお仕置きを経験していないそうですよ。あれは一度喰らっておくと、店でどんなに嫌なことがあってもあれよりはマシと思えるようになるんで、通過儀礼としておすすめなんですけれどね」
「…………」
そのお仕置きというのが何なのかは気になる。気になるが、聞けば後悔するのは間違いないだろう。
「でも、何だかんだ言って俺はミゼアス兄さんにとてもお世話になりました。近くにいたから、ミゼアス兄さんが無理しているのも知っていますし……。ミゼアス兄さんには幸せになってもらいたいんですよ。ジェスさん、ミゼアス兄さんを大切にしてあげてくださいね」
にっこりと笑ってヴァレンは歩き続ける。
ややあって、一つの扉の前にたどり着いた。ヴァレンは扉を叩く。
「入れ」
一拍置いて、中から声がする。
「失礼します」
それからヴァレンが扉を開いた。
有無を言わさぬ笑顔を浮かべて、ヴァレンはアデルジェスを中へと押しやる。
戸惑いながらも中に入ると、さほど広くない部屋に一人の老人が座っていた。
見事な純白の髪を持ち、顔には皺が刻まれているものの肌つやは良い。目元の笑い皺が特に深く、灰色がかった青色の瞳も優しそうな輝きをたたえていた。
アデルジェスはその老人に見覚えがあるような気がした。記憶を手繰り寄せてみると、初日に船から降りるとき、ミゼアスと一緒に歩いていった老人だったような気がする。
「突然お呼び立てして、すまないね。私はウインシェルドという。きみがアデルジェス君だね?」
目を細めてウインシェルド侯爵が口を開く。穏やかで堂々とした声だった。
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