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95.噂話
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アデルジェスが悶々としていると、ヴァレンがくすっと笑った。
「あっはっは、ジェスさん、暗くならないでくださいよ。確かにウインシェルド侯爵はミゼアス兄さんにとっても特別な存在ではあるみたいですけれど、もう七十過ぎですよ。恋愛感情なんてありませんって。祖父と孫みたいなもんですよ。お茶すすりながらお話するとか、楽器演奏するだけの関係ですよ」
ヴァレンの言葉に、アデルジェスは胸を撫で下ろす。
「……そうなんだ。でも、どうしてそんな方が俺を?」
「さあ、娘をさらわれそうになる父親の気分なんじゃないですか? さらおうとする男の見極めをわしがしてやろうではないか、って意気込んでいるんじゃないですかね」
「え……!?」
アデルジェスは硬直してしまった。逃げたい。どこかに逃げてしまいたい。頭にはそれしか浮かばない。
するとヴァレンがにやりと笑う。
「いやー、ジェスさんって面白いですねー。そんなわけないじゃないですか。昨日、ジェスさんに大変なことが起こりましたよね。それ関連ですよ」
からかわれたようだ。昨日のことといえば、フェリスに関わることだろう。
ウインシェルド侯爵とどう関連があるのかはわからなかったが、そういうことならありえるはずだ。
「……わかったよ。どこに行けばいいんだろう?」
「俺がご案内しますよ。どうぞこちらへ」
ミゼアスの部屋を出て、ヴァレンの案内で歩いていく。
「一人で散歩に行ってこられたんですよね。変な連中に声をかけられたりしませんでした?」
歩きながらヴァレンが尋ねてくる。
「うん……少しかけられた。変な噂があるみたいで……」
「ああ、凄腕の色事師ですか?」
ヴァレンにあっさりと言われてしまう。
「なっ、なんで……」
「そんな今一番有名な話題、知らないわけないじゃないですか。俺はこの島の噂は大体知っています。ミゼアス兄さんが不感症だっていう噂だって知っていますよ」
「そっ、それは……」
「ちなみにそれ、本当ですよ。不感症だっていうの。信じられないでしょうけれど」
「え……?」
思わずアデルジェスは耳を疑う。
「刺激を与えられれば反応はするそうですが、快楽はほとんど感じないと言っていました。大病を患う前はそうではなかったみたいですけれどね。これも病気の後遺症みたいですよ」
「そんな……」
「あと、体力……というか精力というべきかもしれませんが、とにかくそれが激減したそうです。性交すると、半日は寝込みますよ。相手に好き勝手されたら死にかねないので、主導権は絶対に自分が握るようですね」
ヴァレンの言葉が信じられなかった。
あれだけ淫らにアデルジェスを求めて甘い声をあげていたのは、いったい何だったのだろう。あれが演技とは思えなかった。
それに最初はミゼアスが主導権を握っていたが、何回か肌を重ねるうちにアデルジェスが組み敷くようになった。ミゼアスもそちらのほうが好みのように思えた。
一日に何回も交わりもしたが、それでもミゼアスが半日も寝込んだことはない。せいぜい寝起きが悪かったくらいだ。それだって最初に迎えた朝だけだったように思う。
「ジェスさんには信じられないでしょうけれどね。いやー、昨日はすごかったですね。まっ昼間からあんな盛大に励んじゃって。うっかりミゼアス兄さんの部屋に入ってしまった見習いの子たちが、隣の寝室から聞こえてくる声で錯乱状態になったみたいですね。そりゃあ、あんあん鳴いてよがるミゼアス兄さんなんてありえませんからねー」
からかうようなヴァレンの言葉に、アデルジェスは足を止めてしゃがみこんでしまった。頭を抱える。恥ずかしい。とにかく恥ずかしい。
「あー、ジェスさん、しっかりしてくださいよ。こんな廊下で。さ、立ち上がって歩いて歩いて」
「う……うう……」
しくしくと、引っ立てられる罪人の気分でアデルジェスは再び歩き出す。
「あっはっは、ジェスさん、暗くならないでくださいよ。確かにウインシェルド侯爵はミゼアス兄さんにとっても特別な存在ではあるみたいですけれど、もう七十過ぎですよ。恋愛感情なんてありませんって。祖父と孫みたいなもんですよ。お茶すすりながらお話するとか、楽器演奏するだけの関係ですよ」
ヴァレンの言葉に、アデルジェスは胸を撫で下ろす。
「……そうなんだ。でも、どうしてそんな方が俺を?」
「さあ、娘をさらわれそうになる父親の気分なんじゃないですか? さらおうとする男の見極めをわしがしてやろうではないか、って意気込んでいるんじゃないですかね」
「え……!?」
アデルジェスは硬直してしまった。逃げたい。どこかに逃げてしまいたい。頭にはそれしか浮かばない。
するとヴァレンがにやりと笑う。
「いやー、ジェスさんって面白いですねー。そんなわけないじゃないですか。昨日、ジェスさんに大変なことが起こりましたよね。それ関連ですよ」
からかわれたようだ。昨日のことといえば、フェリスに関わることだろう。
ウインシェルド侯爵とどう関連があるのかはわからなかったが、そういうことならありえるはずだ。
「……わかったよ。どこに行けばいいんだろう?」
「俺がご案内しますよ。どうぞこちらへ」
ミゼアスの部屋を出て、ヴァレンの案内で歩いていく。
「一人で散歩に行ってこられたんですよね。変な連中に声をかけられたりしませんでした?」
歩きながらヴァレンが尋ねてくる。
「うん……少しかけられた。変な噂があるみたいで……」
「ああ、凄腕の色事師ですか?」
ヴァレンにあっさりと言われてしまう。
「なっ、なんで……」
「そんな今一番有名な話題、知らないわけないじゃないですか。俺はこの島の噂は大体知っています。ミゼアス兄さんが不感症だっていう噂だって知っていますよ」
「そっ、それは……」
「ちなみにそれ、本当ですよ。不感症だっていうの。信じられないでしょうけれど」
「え……?」
思わずアデルジェスは耳を疑う。
「刺激を与えられれば反応はするそうですが、快楽はほとんど感じないと言っていました。大病を患う前はそうではなかったみたいですけれどね。これも病気の後遺症みたいですよ」
「そんな……」
「あと、体力……というか精力というべきかもしれませんが、とにかくそれが激減したそうです。性交すると、半日は寝込みますよ。相手に好き勝手されたら死にかねないので、主導権は絶対に自分が握るようですね」
ヴァレンの言葉が信じられなかった。
あれだけ淫らにアデルジェスを求めて甘い声をあげていたのは、いったい何だったのだろう。あれが演技とは思えなかった。
それに最初はミゼアスが主導権を握っていたが、何回か肌を重ねるうちにアデルジェスが組み敷くようになった。ミゼアスもそちらのほうが好みのように思えた。
一日に何回も交わりもしたが、それでもミゼアスが半日も寝込んだことはない。せいぜい寝起きが悪かったくらいだ。それだって最初に迎えた朝だけだったように思う。
「ジェスさんには信じられないでしょうけれどね。いやー、昨日はすごかったですね。まっ昼間からあんな盛大に励んじゃって。うっかりミゼアス兄さんの部屋に入ってしまった見習いの子たちが、隣の寝室から聞こえてくる声で錯乱状態になったみたいですね。そりゃあ、あんあん鳴いてよがるミゼアス兄さんなんてありえませんからねー」
からかうようなヴァレンの言葉に、アデルジェスは足を止めてしゃがみこんでしまった。頭を抱える。恥ずかしい。とにかく恥ずかしい。
「あー、ジェスさん、しっかりしてくださいよ。こんな廊下で。さ、立ち上がって歩いて歩いて」
「う……うう……」
しくしくと、引っ立てられる罪人の気分でアデルジェスは再び歩き出す。
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