不夜島の少年～兵士と高級男娼の七日間～

90．今評判の

　一人で考えると、どうも暗い方向に向かいがちだ。これがもし、ミゼアスを膝の上に乗せて髪でも撫でてやりながらだとすれば、こうも沈んだ考えにはならないだろうに。
　ミゼアスの温もりが恋しかった。
　昨日、あれだけ散々交わったというのに、まだ足りない。あのまま身も心も溶け出して、二人で混ざり合ってしまうことができたら、どれほどの幸福だろう。
　そうすればミゼアスを繋ぎとめることができるのかもしれない。アデルジェスはぼんやりとそう思う。

　アデルジェスの心など知らず、さわやかな風がそっと頬をかすめる。情けないアデルジェスを風の精がからかっているかのようだ。
　アデルジェスは空を見上げ、大きなため息を漏らした。
　青空が目に眩しい。目を細めるアデルジェスの視界を一人の影が遮った。

「ジェス？　お久しぶり。元気……そうじゃないわね」

　燃えるような赤毛と心配そうな茶色の瞳が、アデルジェスの目に入ってくる。数日ぶりに見るネリーの姿は、やけに懐かしく感じられた。

「やあ、ネリー。久しぶりだね……って、四日ぶりくらい？」

「そうねー。それくらいかしら。ジェスはずっとミゼアスのところにいたんでしょう？」

「え……あ、うん。そうだね」

　どこか苦い思いをかみしめながらアデルジェスは答える。
　先ほどまでの沈んだ物思いがアデルジェスの心に影を落としていた。

「あなたのこと、今評判になっているわよ」

「え？　俺のこと？」

　思わずアデルジェスは聞き返す。ミゼアスならばわかるが、自分のことなど話題になるとは思えなかった。
　あるとすれば、五花のミゼアスに分不相応な凡人がつきまとっているが、何と身の程知らずなことだろうと、嘲笑われているのだろうか。

「ええ、あの五花の筆頭、白花の頂点に長年君臨し続けるミゼアスをたらしこんだ、凄腕の色事師だって」

　ところが、ネリーの口から出てきたのは、かけらも予想しなかった、とんでもない内容だった。