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89.沈んだ考え
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アデルジェスは一人で広場までやってきた。
部屋でただ待つよりも、外を歩いたほうがまだ少しは気もまぎれる。
それでも一人で見る街の様子は色あせて見えた。ミゼアスと一緒に歩いていたときはあんなに楽しく、輝いて見えたものだったのに。
しかし、この島に来たときは一人だったのだ。わずか数日前と同じ状況になっただけだというのに、この喪失感はいったい何なのだろう。
軽くため息を漏らしながら、アデルジェスはすり鉢状になった広場の石畳に腰掛ける。初日と同じだ。
「そういえば……」
あのとき、フェリスを見かけたのだった。幼馴染のあの子かと思ったのだが、実際は違った。
彼女には殺されかけたはずなのだが、アデルジェスにはあまり実感がわかないせいか、憎しみもなかった。むしろ、ほとんど錯乱したような状態で『裏切り者』と繰り返していた姿が痛々しく、ただ哀れだった。
約束を何度か裏切られ、ああなってしまったのだろう。
花街での約束など、朝露のようなもの。朝になれば儚く消えてしまう。彼女自身そう言いながら、それでもすがりたがったのだろう。
そう思うと、彼女に悪い感情を抱くことができない。
ミゼアスとの間で交わした約束。もしそれを破られたら、アデルジェスだって正気でいられるかわからない。
フェリスは裏切るのは客の側だと言っていた。エアイールですらそのような言い方をしていた。確かに、狭い島に縛り付けられている側と、自由に訪れる側ではそうなるのだろう。
しかし、アデルジェスにとってはミゼアスに捨てられるのではという思いのほうが強かった。
そもそもほとんど出会い頭にさらわれ、部屋に連れ込まれたのだ。そこから流されるがまま関係を持ち、いつのまにか想い合っていたという、考えれば考えるほどわけのわからない展開だ。
アデルジェスがミゼアスに惹かれたのは当然ともいえる。ミゼアスはとても綺麗だし、何より可愛らしい。
普段は毅然としていて、凛とした気品すら漂うくらいなのに、二人きりのときに甘えてくる姿などたまらない。とてもいやらしく、淫らにアデルジェスを求めてきながらどこかに品があるところも素晴らしい。
だがミゼアスの側はどうだろうか。
アデルジェスは自身が平凡であるという自覚がある。かろうじて体格は良く、腕っぷしにも多少の自信はあるが、それだけだ。しかもそれだってより上がいくらでもいるだろう。
それに対してミゼアスは上級貴族ばかりを相手にする白花の第一位だ。容姿から知性、教養まですべて一流の高嶺の花。アデルジェスが釣り合うとは思えない。
もしかして、からかわれているのではないだろうか。そんなことすら思えてくる。とはいえ、そのようなことをしてもミゼアスに利点はないだろう。
となれば考えられるのは高貴な方々ばかり見てきたので、物珍しさから庶民のアデルジェスに惹かれたのだろうか。それならば新鮮さが薄れると共に、想いも失われていくのではないかと思えた。
部屋でただ待つよりも、外を歩いたほうがまだ少しは気もまぎれる。
それでも一人で見る街の様子は色あせて見えた。ミゼアスと一緒に歩いていたときはあんなに楽しく、輝いて見えたものだったのに。
しかし、この島に来たときは一人だったのだ。わずか数日前と同じ状況になっただけだというのに、この喪失感はいったい何なのだろう。
軽くため息を漏らしながら、アデルジェスはすり鉢状になった広場の石畳に腰掛ける。初日と同じだ。
「そういえば……」
あのとき、フェリスを見かけたのだった。幼馴染のあの子かと思ったのだが、実際は違った。
彼女には殺されかけたはずなのだが、アデルジェスにはあまり実感がわかないせいか、憎しみもなかった。むしろ、ほとんど錯乱したような状態で『裏切り者』と繰り返していた姿が痛々しく、ただ哀れだった。
約束を何度か裏切られ、ああなってしまったのだろう。
花街での約束など、朝露のようなもの。朝になれば儚く消えてしまう。彼女自身そう言いながら、それでもすがりたがったのだろう。
そう思うと、彼女に悪い感情を抱くことができない。
ミゼアスとの間で交わした約束。もしそれを破られたら、アデルジェスだって正気でいられるかわからない。
フェリスは裏切るのは客の側だと言っていた。エアイールですらそのような言い方をしていた。確かに、狭い島に縛り付けられている側と、自由に訪れる側ではそうなるのだろう。
しかし、アデルジェスにとってはミゼアスに捨てられるのではという思いのほうが強かった。
そもそもほとんど出会い頭にさらわれ、部屋に連れ込まれたのだ。そこから流されるがまま関係を持ち、いつのまにか想い合っていたという、考えれば考えるほどわけのわからない展開だ。
アデルジェスがミゼアスに惹かれたのは当然ともいえる。ミゼアスはとても綺麗だし、何より可愛らしい。
普段は毅然としていて、凛とした気品すら漂うくらいなのに、二人きりのときに甘えてくる姿などたまらない。とてもいやらしく、淫らにアデルジェスを求めてきながらどこかに品があるところも素晴らしい。
だがミゼアスの側はどうだろうか。
アデルジェスは自身が平凡であるという自覚がある。かろうじて体格は良く、腕っぷしにも多少の自信はあるが、それだけだ。しかもそれだってより上がいくらでもいるだろう。
それに対してミゼアスは上級貴族ばかりを相手にする白花の第一位だ。容姿から知性、教養まですべて一流の高嶺の花。アデルジェスが釣り合うとは思えない。
もしかして、からかわれているのではないだろうか。そんなことすら思えてくる。とはいえ、そのようなことをしてもミゼアスに利点はないだろう。
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