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59.エアイールの誘い

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 無言のまましばし歩き、案内されたのは喫茶店のようだった。客のいない店内に入り、個室へと連れて行かれる。
 席につくと店員が温かいお茶を運んできた。店員は一礼して部屋を出て行く。

「今日はあいにくの雨模様ですね。外出はされなかったのですか?」

 微笑をたたえつつ、エアイールが話しかけてくる。

「今日は出ていない……雨が降っていたから」

 警戒しつつ、アデルジェスは答える。

「そうですか。それでは、部屋でミゼアスとのんびりされていたのですか?」

「そうだけれど……それより、話って何だろう? 俺に何か言いたいことがあるんじゃないのかな?」

 アデルジェスが問いかけると、エアイールは口元を軽く覆って上品に笑う。

「せっかちな方ですね。早い方は嫌われますよ。……まあ、お望みのようなので単刀直入にお伺いいたします。あなた、ミゼアスを抱いているのでしょう? どのように抱いていらっしゃるのですか?」

「は!?」

 思わずアデルジェスは間の抜けた声をあげた。

「あなた、逞しい身体していらっしゃいますものね。年配のお客が多いミゼアスにとって、若く逞しい身体はたまらなく魅力的なのでしょう。一晩に何回もこなすことだってできるでしょうしね」

「な……」

 アデルジェスは目を白黒させてエアイールを見ることしかできなかった。

「あの女好きのフェリスも、あなたのことが気になっているそうですね。ミゼアスが側に置いて離さないのですから、気になるのは当然ですよね。わたくしも気になっております」

 エアイールはゆっくりと、絡みつくようにしなだれかかってきた。アデルジェスの首に腕を回し、顔を近づけてくる。
 ミゼアスの鮮烈な美貌とは違う、艶めいた色気のある顔が目の前に広がる。

「わたくしも、お情けを頂戴できませんか?」

 肌が粟立つほど色気の滲んだ声と共に、唇が重ねられた。
 アデルジェスは蛇ににらまれた蛙のように動くことすらできなかった。ただ目を見開くだけだ。

 それでもエアイールの舌がアデルジェスの唇をなぞり、侵入しようとしてくるといくらか正気が戻ってきた。慌ててエアイールの肩をつかみ、引き剥がす。
 力ではアデルジェスのほうがずっと勝っている。あっさりと引き剥がすことができた。
 肩で息をしながら、信じられないものを見る目をエアイールに向ける。

「少しくらい、よいではありませんか。楽しませてさしあげますよ。わたくしだって五花の端くれです。むしろ、あまり床入りしないミゼアスよりも上手かもしれませんよ」

 しかしエアイールは余裕を見せて微笑みを絶やさない。

「な……なに……を……」

 アデルジェスは声が震えているのが自分でもわかった。

「どうせミゼアスとの関係だって、刹那的なものでしょう? あなたはあと何日かで島を去ってしまうのですものね。ミゼアスにとっても、あなたは後腐れのない遊び相手というだけですよ」
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