58 / 138
58.手紙
しおりを挟む
少々早めの時間に夕食が運ばれてきた。
一番大きな皿には、きのこのチーズ焼きが乗っていた。
今日の昼過ぎ、ブラムに好きな食べ物は何かと聞かれて答えた料理だ。
「ブラムがきのこのチーズ焼きを食べてみたいと言い出してね。厨房に頼んでみたんだけれど、すぐに出てくるとは思わなかったな」
ミゼアスが感心したように呟く。
アデルジェスの好きな食べ物を聞いたとき、美味しそうだと思ったのだろうか。
「妙に真剣な様子で言ってきたんだけれど……何かあったのかなぁ。あの子が自分から何が食べたいなんて言うの珍しいんだよね」
ミゼアスの言葉にアデルジェスは首を傾げる。
それほど食べたいと思ったのだろうか。
アデルジェスは昼過ぎにブラムから好きな食べ物を聞かれ、きのこのチーズ焼きと答えたことをミゼアスに話してみる。するとミゼアスも首を傾げた。
「それを聞いて食べたいと思ったのは確かみたいだけれど……そんなに気になったのかなぁ。よくわからないや」
とりあえず食べようと促され、アデルジェスも食べ始めた。
久しぶりに食べるきのこのチーズ焼きは美味しかった。兵舎で食べたものよりも上質の材料を使っているようだ。上品な味がした。
食べ終わると、ミゼアスは仕事に行ってくると言って出て行った。
アデルジェスの唇に、そっと触れるだけの口づけをして『後で、いっぱい可愛がって』と言い残して。
顔を赤くしたアデルジェスは、ミゼアスを見送った後もしばらく茫然としていた。
ようやく気を取り直して、本でも読もうかと思ったとき、扉を叩く音がした。何事かと思って扉を開けると、見知らぬ子供がいた。見習いの一人らしい。
「アデルジェスさんに、お手紙をお届けにきました」
子供はそう言って手紙をアデルジェスに渡すと、一礼して去っていった。
この島に知り合いなんていないはずだ。いったい何だろうと訝しく思いながら、アデルジェスは中身を取り出し、読んでみる。
『お話したいことがあります。裏口で待っています。 エアイール』
アデルジェスは驚いて文面を読み返す。しかし、書いている内容が変わるわけがない。
どうすればよいものかアデルジェスは迷ったが、ミゼアスに相談することもできない。少し迷った末、アデルジェスは裏口へと向かった。
外はまだ小雨がちらついている。そこに雨をしのぐためか、外套のフードを深くかぶった姿があった。
「来てくださいましたか。ありがとうございます」
アデルジェスに気づくと、フードを少しあげて礼を述べる。穏やかに微笑みを浮かべるその顔は、しっとりとした色気のあるエアイールのものだった。
「話って何だろう? あの子供のこと?」
アデルジェスの問いにエアイールは首を傾げる。
「子供? 何のことですか? それよりここでは雨も降っていますし、少しだけお付き合い頂けませんか?」
そう言ってエアイールは歩き出す。一瞬の逡巡の後、アデルジェスは後を追った。
一番大きな皿には、きのこのチーズ焼きが乗っていた。
今日の昼過ぎ、ブラムに好きな食べ物は何かと聞かれて答えた料理だ。
「ブラムがきのこのチーズ焼きを食べてみたいと言い出してね。厨房に頼んでみたんだけれど、すぐに出てくるとは思わなかったな」
ミゼアスが感心したように呟く。
アデルジェスの好きな食べ物を聞いたとき、美味しそうだと思ったのだろうか。
「妙に真剣な様子で言ってきたんだけれど……何かあったのかなぁ。あの子が自分から何が食べたいなんて言うの珍しいんだよね」
ミゼアスの言葉にアデルジェスは首を傾げる。
それほど食べたいと思ったのだろうか。
アデルジェスは昼過ぎにブラムから好きな食べ物を聞かれ、きのこのチーズ焼きと答えたことをミゼアスに話してみる。するとミゼアスも首を傾げた。
「それを聞いて食べたいと思ったのは確かみたいだけれど……そんなに気になったのかなぁ。よくわからないや」
とりあえず食べようと促され、アデルジェスも食べ始めた。
久しぶりに食べるきのこのチーズ焼きは美味しかった。兵舎で食べたものよりも上質の材料を使っているようだ。上品な味がした。
食べ終わると、ミゼアスは仕事に行ってくると言って出て行った。
アデルジェスの唇に、そっと触れるだけの口づけをして『後で、いっぱい可愛がって』と言い残して。
顔を赤くしたアデルジェスは、ミゼアスを見送った後もしばらく茫然としていた。
ようやく気を取り直して、本でも読もうかと思ったとき、扉を叩く音がした。何事かと思って扉を開けると、見知らぬ子供がいた。見習いの一人らしい。
「アデルジェスさんに、お手紙をお届けにきました」
子供はそう言って手紙をアデルジェスに渡すと、一礼して去っていった。
この島に知り合いなんていないはずだ。いったい何だろうと訝しく思いながら、アデルジェスは中身を取り出し、読んでみる。
『お話したいことがあります。裏口で待っています。 エアイール』
アデルジェスは驚いて文面を読み返す。しかし、書いている内容が変わるわけがない。
どうすればよいものかアデルジェスは迷ったが、ミゼアスに相談することもできない。少し迷った末、アデルジェスは裏口へと向かった。
外はまだ小雨がちらついている。そこに雨をしのぐためか、外套のフードを深くかぶった姿があった。
「来てくださいましたか。ありがとうございます」
アデルジェスに気づくと、フードを少しあげて礼を述べる。穏やかに微笑みを浮かべるその顔は、しっとりとした色気のあるエアイールのものだった。
「話って何だろう? あの子供のこと?」
アデルジェスの問いにエアイールは首を傾げる。
「子供? 何のことですか? それよりここでは雨も降っていますし、少しだけお付き合い頂けませんか?」
そう言ってエアイールは歩き出す。一瞬の逡巡の後、アデルジェスは後を追った。
4
あなたにおすすめの小説
【完結】抱っこからはじまる恋
* ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。
ふたりの動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵もあがります。
YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。
プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら!
完結しました!
おまけのお話を時々更新しています。
BLoveさまのコンテストに応募しているお話を倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
氷の支配者と偽りのベータ。過労で倒れたら冷徹上司(銀狼)に拾われ、極上の溺愛生活が始まりました。
水凪しおん
BL
オメガであることを隠し、メガバンクで身を粉にして働く、水瀬湊。
※この作品には、性的描写の表現が含まれています。18歳未満の方の閲覧はご遠慮ください。
過労と理不尽な扱いで、心身ともに限界を迎えた夜、彼を救ったのは、冷徹で知られる超エリートα、橘蓮だった。
「君はもう、頑張らなくていい」
――それは、運命の番との出会い。
圧倒的な庇護と、独占欲に戸惑いながらも、湊の凍てついた心は、次第に溶かされていく。
理不尽な会社への華麗なる逆転劇と、極上に甘いオメガバース・オフィスラブ!
【完結】「奥さまは旦那さまに恋をしました」〜紫瞠柳(♂)。学生と奥さまやってます
天白
BL
誰もが想像できるような典型的な日本庭園。
広大なそれを見渡せるどこか古めかしいお座敷内で、僕は誰もが想像できないような命令を、ある日突然下された。
「は?」
「嫁に行って来い」
そうして嫁いだ先は高級マンションの最上階だった。
現役高校生の僕と旦那さまとの、ちょっぴり不思議で、ちょっぴり甘く、時々はちゃめちゃな新婚生活が今始まる!
……って、言ったら大袈裟かな?
※他サイト(フジョッシーさん、ムーンライトノベルズさん他)にて公開中。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
愛を知らない少年たちの番物語。
あゆみん
BL
親から愛されることなく育った不憫な三兄弟が異世界で番に待ち焦がれた獣たちから愛を注がれ、一途な愛に戸惑いながらも幸せになる物語。
*触れ合いシーンは★マークをつけます。
優しい檻に囚われて ―俺のことを好きすぎる彼らから逃げられません―
無玄々
BL
「俺たちから、逃げられると思う?」
卑屈な少年・織理は、三人の男から同時に告白されてしまう。
一人は必死で熱く重い男、一人は常に包んでくれる優しい先輩、一人は「嫌い」と言いながら離れない奇妙な奴。
選べない織理に押し付けられる彼らの恋情――それは優しくも逃げられない檻のようで。
本作は織理と三人の関係性を描いた短編集です。
愛か、束縛か――その境界線の上で揺れる、執着ハーレムBL。
※この作品は『記憶を失うほどに【https://www.alphapolis.co.jp/novel/364672311/155993505】』のハーレムパロディです。本編未読でも雰囲気は伝わりますが、キャラクターの背景は本編を読むとさらに楽しめます。
※本作は織理受けのハーレム形式です。
※一部描写にてそれ以外のカプとも取れるような関係性・心理描写がありますが、明確なカップリング意図はありません。が、ご注意ください
借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる
水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。
「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」
過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。
ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。
孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる