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46.戸惑い
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「ミゼアス兄さんは色々抱え込んでしまう方です。身勝手だとか自由奔放って言われていますけれど、そう振る舞っているだけで本当はそうじゃないんです。昨日の予約漏れ騒ぎだって、一人で背負ってしまいました」
「あぁ……」
「ミゼアス兄さん付きになってから、僕の待遇はそれまでと比べ物にならないくらい良くなりました。食事はきちんと当たるし、睡眠も取れるし……ミゼアス兄さんが守ってくれるからです。見習いの生活なんて、本当はろくなものじゃありません。無報酬でこき使われるのが本当なんです」
「そうなんだ……」
「店に出て客を取るようになっても、下っ端の生活なんで酷いものだそうです。当然客の選り好みなんてできず、一日に何人もの客を取ることだってあるといいます。それでいて稼ぎが悪ければ外側の下位の店へと格下げになっていって、場合によっては裏の店行きだそうです。最後は身体を壊して、海に投げ込まれることだってあると聞きます」
「そんな……」
アデルジェスは愕然とする。綺麗に見えるこの島にも、そのような恐ろしい面があったのか。
「……僕も、この先のことを考えると恐ろしくなります。でも、ミゼアス兄さんは僕に『上に行きなさい』と言いました。上に行けば、それこそ五花にでもなればかなり自由な振る舞いが許されて、良い暮らしもできます。ミゼアス兄さんのように……」
泣きそうな顔になりながらアルンは話し続ける。
「ミゼアス兄さんは白花の頂点にして五花の筆頭、この島の覇者です。僕たちの目標です。いつか自分もああなるんだという希望なんです。だからこそミゼアス兄さんはあえて奔放に振る舞っているんじゃないかと思います」
確かにミゼアスは好き勝手やっているように見えて、実はきちんと考えているように思える。責任感も強い。アルンの言うとおりなのかもしれない。
「だから……これ以上、負担をかけたくありません。ミゼアス兄さんはお優しいから、その子のことも抱えてしまうと思います。でも、その子に何かあっても自業自得だと思います。ミゼアス兄さんがわざわざ抱える必要はないはずです……」
「うん……確かに、ミゼアスが抱える必要はないかもしれない。でも、ミゼアスとエアイールは仲が悪いんだろう? エアイールがその子にお金を渡したのって、ミゼアスに対するあてつけなのか、それとも別の意図があるのか……それが怖いなと思って」
アデルジェスがそう言うと、アルンはしばし無言でアデルジェスを見つめた。
「……そうですね。あの方なら何かとんでもないことを考えているかもしれません」
「やっぱりミゼアスに話してみたほうがいいんじゃないかな」
アデルジェスの言葉にアルンはため息を漏らし、寝室の方向を見る。
「……仕方ありませんね……。でも、昨日はお疲れでしたし、まだもうしばらく寝ていると思います。それでも床入りはしていないから、昼前には起きてくると思いますけれど」
「床入り?」
「はい、ミゼアス兄さんは床入りした次の日は昼過ぎまで寝ています」
「その床入りって、つまり、その……あのことだよね?」
「性交のことですが、それがどうかしましたか?」
あまりにあっさりと口にするアルンに、アデルジェスは絶句する。あどけない子供の声で発するような言葉ではない。しかし、ここがどこかを考えれば当たり前なのだろう。
「もしかして、昨夜はミゼアス兄さんと性交したんですか?」
「せっ……いや……その直接的すぎる言葉は……」
「じゃあ、お楽しみでしたか?」
「お楽しみ……いや、それもどうかと……確かに楽しんだけれど……」
しどろもどろになるアデルジェスを見て、アルンは不思議そうに首を傾げる。何にこだわっているのかわからないようだ。
「あぁ……」
「ミゼアス兄さん付きになってから、僕の待遇はそれまでと比べ物にならないくらい良くなりました。食事はきちんと当たるし、睡眠も取れるし……ミゼアス兄さんが守ってくれるからです。見習いの生活なんて、本当はろくなものじゃありません。無報酬でこき使われるのが本当なんです」
「そうなんだ……」
「店に出て客を取るようになっても、下っ端の生活なんで酷いものだそうです。当然客の選り好みなんてできず、一日に何人もの客を取ることだってあるといいます。それでいて稼ぎが悪ければ外側の下位の店へと格下げになっていって、場合によっては裏の店行きだそうです。最後は身体を壊して、海に投げ込まれることだってあると聞きます」
「そんな……」
アデルジェスは愕然とする。綺麗に見えるこの島にも、そのような恐ろしい面があったのか。
「……僕も、この先のことを考えると恐ろしくなります。でも、ミゼアス兄さんは僕に『上に行きなさい』と言いました。上に行けば、それこそ五花にでもなればかなり自由な振る舞いが許されて、良い暮らしもできます。ミゼアス兄さんのように……」
泣きそうな顔になりながらアルンは話し続ける。
「ミゼアス兄さんは白花の頂点にして五花の筆頭、この島の覇者です。僕たちの目標です。いつか自分もああなるんだという希望なんです。だからこそミゼアス兄さんはあえて奔放に振る舞っているんじゃないかと思います」
確かにミゼアスは好き勝手やっているように見えて、実はきちんと考えているように思える。責任感も強い。アルンの言うとおりなのかもしれない。
「だから……これ以上、負担をかけたくありません。ミゼアス兄さんはお優しいから、その子のことも抱えてしまうと思います。でも、その子に何かあっても自業自得だと思います。ミゼアス兄さんがわざわざ抱える必要はないはずです……」
「うん……確かに、ミゼアスが抱える必要はないかもしれない。でも、ミゼアスとエアイールは仲が悪いんだろう? エアイールがその子にお金を渡したのって、ミゼアスに対するあてつけなのか、それとも別の意図があるのか……それが怖いなと思って」
アデルジェスがそう言うと、アルンはしばし無言でアデルジェスを見つめた。
「……そうですね。あの方なら何かとんでもないことを考えているかもしれません」
「やっぱりミゼアスに話してみたほうがいいんじゃないかな」
アデルジェスの言葉にアルンはため息を漏らし、寝室の方向を見る。
「……仕方ありませんね……。でも、昨日はお疲れでしたし、まだもうしばらく寝ていると思います。それでも床入りはしていないから、昼前には起きてくると思いますけれど」
「床入り?」
「はい、ミゼアス兄さんは床入りした次の日は昼過ぎまで寝ています」
「その床入りって、つまり、その……あのことだよね?」
「性交のことですが、それがどうかしましたか?」
あまりにあっさりと口にするアルンに、アデルジェスは絶句する。あどけない子供の声で発するような言葉ではない。しかし、ここがどこかを考えれば当たり前なのだろう。
「もしかして、昨夜はミゼアス兄さんと性交したんですか?」
「せっ……いや……その直接的すぎる言葉は……」
「じゃあ、お楽しみでしたか?」
「お楽しみ……いや、それもどうかと……確かに楽しんだけれど……」
しどろもどろになるアデルジェスを見て、アルンは不思議そうに首を傾げる。何にこだわっているのかわからないようだ。
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