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47.憂慮

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「騒がしいね。どうしたんだい」

 寝室と繋がる扉が開き、そこからミゼアスが姿を現した。
 前開きの緩やかな長衣を纏い、足は裸足だった。眠たそうな目をしているが、声の内容はしっかりしている。

「ミゼアス兄さん、もうお目覚めですか?」

 アルンが驚いた声をあげる。

「うん、きみたちの話し声で目が覚めた」

「あ……ごめん……」

 アデルジェスが詫びると、ミゼアスは軽く首を左右に振る。

「いや、構わないよ。今日は目覚めが良い」

「珍しいです……ミゼアス兄さんがこんなに早く起きてくるなんて……」

 すでに早いとは言い難い時間だけれど、とアデルジェスは思うが口にはしない。
 昨日の朝のミゼアスはかなり寝起きが悪かった。今日はしっかりしてるようだ。

「昨日、床入りはしていませんでしたけれど、アデルジェスさんとなさったんですよね?」

「うん、三回ほど」

「それも珍しいですね……。それだけしたら、今日一日寝ていそうなのに……」

「そういえばそうだね。でも今日は体調が良いよ」

「昨夜は良かったですか?」

「うん、良かった。だからかな」

 二人の会話にアデルジェスは頭を抱えたくなった。あどけなさの残る少年といたいけな子供のする会話ではない。ついていけない。

「ところで、何を話していたんだい?」

 ミゼアスに促され、はっと我に返る。

「実は……」

 気を取り直し、アデルジェスはアルンの物言いたげな視線を感じながらミゼアスに説明を始めた。

「ふぅん……さすがエアイール、素晴らしい鬼畜っぷりだ。僕には到底真似できないね」

 話を聞き終えると、ミゼアスはそう感想を漏らした。

「お金を与えたのがエアイールじゃなきゃ放っておいてもいいんだけれど……あいつじゃまずいだろうなぁ。さすがにその子もかわいそうだし、調べてみるよ。……さ、アルン。そろそろ学校に行かないと昼食が当たらなくなるよ。僕に任せて、心配しないで行っておいで」

 アルンが心配しているのは違うことなのだが、ミゼアスはそう言ってアルンを送り出す。
 少々不満げな顔をしていたアルンだったが、口答えはせず、『行ってきます』と学校に向かった。

「じゃあ、ちょっと娼館主にでも聞いてくるかな。昨日の失態をやらかした子をどうしたかも聞いてみたいし」

「そういえば昨日、かばっていたよね」

「ああ……さすがにあれはあの子じゃどうしようもなかったからね。いつもなら空いている別の連中に振り分ければいいんだけれど、昨日は間が悪くてあの子も運がなかったよ。あれで裏の店に下げ渡されたりしたらかわいそうだしね」

 ミゼアスは軽く肩をすくめる。

「……昨日の願掛けしていた子もさ、僕はやろうと思えばどこかの店にでも連れて行って食べさせてやることもできるんだよ。でも、それじゃあずっと施しを待ち続けるだけの子になって、自分で歩くことができなくなってしまうかもしれない。見習いはお金を持ってはいけないという規則がなかったとしても、エアイールのやったことは僕には賛成できない」
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