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47.戻ってきた日常(完)
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ヴァレンはとっておきの酒が並ぶ棚から一本を取り出し、二人の杯に注いだ。
「じゃあ、乾杯!」
「乾杯」
二人で杯を軽く触れ合わせる。こくこくと飲み出すヴァレンと、唇を触れてわずかに含むエアイール。
するとエアイールがだん、と音を響かせて杯を卓に置き、口を押さえた。身体が小刻みにぷるぷると震えている。
「あ……これ、純度の高い蒸留酒だった。ごめん」
杯の中身を飲み干し、ヴァレンは詫びた。数十回の蒸留を繰り返し、純度を極めたという強い酒を出してしまったのだ。
「舌が……痺れ……」
「ごめん、口当たりのいい果実酒あたり持ってくるよ」
ヴァレンは慌てて、酒を置いている棚へと向かう。
「……どうして、あなたは平気なのですか……」
「え? 俺、これくらいなら飲める。この焼け付くような熱さがたまらないんだよなー」
「……化け物……」
「えー? 何か言ったー?」
「……何でもありません」
水と果実酒を持って、ヴァレンは戻ってくる。
「まずは水のほうがいいだろ。はい、どうぞ」
新しい杯に水を注ぎ、エアイールに手渡す。しかしエアイールは受け取ろうとはしない。
「……まず、あなたが飲んでください」
「俺は別に飲まなくても……」
「いいから」
「はあ……」
悪いことをしてしまったという負い目もあり、ヴァレンは言われたとおりに水を飲んだ。飲み終えると、エアイールは満足げに頷く。
「では、次に飲ませてください」
ヴァレンが水を入れた杯を差し出すと、エアイールは顔をしかめた。
「……あなた、その頭は飾り物ですか?」
ため息を漏らしながら呟き、エアイールは身振りでもう一度ヴァレンに水を含むよう促す。
仕方なくヴァレンがもう一度水を口に含むと、エアイールが口づけてきた。舌を差し入れ、水を奪っていく。
思わず水を噴き出しそうになってしまったヴァレンだったが、どうにかこらえた。
口の端からわずかに漏れる程度に留まったものの、傍から見れば激しい口づけの後にも見えそうだ。
「……ごちそうさま」
最後にちゅ、と音を立てて唇を吸い上げると、エアイールは離れていった。
「おまえ、なあ……」
呆れたように口を開きかけたヴァレンだったが、楽しそうにくすくすと笑うエアイールの姿を見て、口を閉ざした。
ここ最近の憂いがすっかり晴れたような、満ち足りた笑顔だ。エアイールがここまで喜色をあらわにするのは珍しい。
せっかく無邪気にはしゃいでいるのだ。わざわざ水を差すこともないだろう。ヴァレンはそっと息を吐いて、口元を苦笑の形に歪めた。
見習いたちも、ちゃっかり菓子をねだってくるくらい元気になったようだった。ただ、お使いという名目だったが、購入してくる菓子にヴァレンとエアイールの分もあるのだろうか。
ちらり、と疑問が頭をよぎったが、すぐにどうでもよいことだとヴァレンは考えを打ち消す。
何はともあれ、平穏な日常が戻ってきたのだ。
また普通の日々を謳歌しよう。
目の前で上機嫌に笑うエアイールに向け、ヴァレンも苦笑を打ち消して笑いかける。今度はしっかりと果実酒の瓶であることを確かめてから、杯に注いだ。
「じゃあ、乾杯!」
「乾杯」
二人で杯を軽く触れ合わせる。こくこくと飲み出すヴァレンと、唇を触れてわずかに含むエアイール。
するとエアイールがだん、と音を響かせて杯を卓に置き、口を押さえた。身体が小刻みにぷるぷると震えている。
「あ……これ、純度の高い蒸留酒だった。ごめん」
杯の中身を飲み干し、ヴァレンは詫びた。数十回の蒸留を繰り返し、純度を極めたという強い酒を出してしまったのだ。
「舌が……痺れ……」
「ごめん、口当たりのいい果実酒あたり持ってくるよ」
ヴァレンは慌てて、酒を置いている棚へと向かう。
「……どうして、あなたは平気なのですか……」
「え? 俺、これくらいなら飲める。この焼け付くような熱さがたまらないんだよなー」
「……化け物……」
「えー? 何か言ったー?」
「……何でもありません」
水と果実酒を持って、ヴァレンは戻ってくる。
「まずは水のほうがいいだろ。はい、どうぞ」
新しい杯に水を注ぎ、エアイールに手渡す。しかしエアイールは受け取ろうとはしない。
「……まず、あなたが飲んでください」
「俺は別に飲まなくても……」
「いいから」
「はあ……」
悪いことをしてしまったという負い目もあり、ヴァレンは言われたとおりに水を飲んだ。飲み終えると、エアイールは満足げに頷く。
「では、次に飲ませてください」
ヴァレンが水を入れた杯を差し出すと、エアイールは顔をしかめた。
「……あなた、その頭は飾り物ですか?」
ため息を漏らしながら呟き、エアイールは身振りでもう一度ヴァレンに水を含むよう促す。
仕方なくヴァレンがもう一度水を口に含むと、エアイールが口づけてきた。舌を差し入れ、水を奪っていく。
思わず水を噴き出しそうになってしまったヴァレンだったが、どうにかこらえた。
口の端からわずかに漏れる程度に留まったものの、傍から見れば激しい口づけの後にも見えそうだ。
「……ごちそうさま」
最後にちゅ、と音を立てて唇を吸い上げると、エアイールは離れていった。
「おまえ、なあ……」
呆れたように口を開きかけたヴァレンだったが、楽しそうにくすくすと笑うエアイールの姿を見て、口を閉ざした。
ここ最近の憂いがすっかり晴れたような、満ち足りた笑顔だ。エアイールがここまで喜色をあらわにするのは珍しい。
せっかく無邪気にはしゃいでいるのだ。わざわざ水を差すこともないだろう。ヴァレンはそっと息を吐いて、口元を苦笑の形に歪めた。
見習いたちも、ちゃっかり菓子をねだってくるくらい元気になったようだった。ただ、お使いという名目だったが、購入してくる菓子にヴァレンとエアイールの分もあるのだろうか。
ちらり、と疑問が頭をよぎったが、すぐにどうでもよいことだとヴァレンは考えを打ち消す。
何はともあれ、平穏な日常が戻ってきたのだ。
また普通の日々を謳歌しよう。
目の前で上機嫌に笑うエアイールに向け、ヴァレンも苦笑を打ち消して笑いかける。今度はしっかりと果実酒の瓶であることを確かめてから、杯に注いだ。
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