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第1章 ふーこ

【旧】第6話 尊厳の音

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【この話は改稿前のものです】
第1章のVer.3.0を全て投稿後しばらくしてから削除します。
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ビルの屋上で男が女を押し倒し腰を必死に振っている。
男は身長は180㎝程だろうか筋肉質で体格が良く顔も整っている。
押し倒されている女の体は上半身は黒いボディースーツを着ていて隠れているが、露出している顔や下半身にはいたるところに傷があり出血している。恐らく上半身もそれなりのダメージを負っていることだろう。



「糞野郎が…。誰もお前を愛さねぇよ。孤独なミスター神様。地獄へ落ちろ。」

女が腰を振っている男に見下すように言い放つ。その瞬間、男の拳が女の顔面を数回殴りつける。

「あなたは馬鹿なのですか?私についてくれば、みんな幸せになれるんです。私が間違ったことをいいましたか?嘘をついたことがありますか?」

殴りつけられた女の目と口から血が流れ出る。痛みに耐えるように低いうなり声を少し上げてから女は言った。

「従わないやつは徹底的に殴っていじめて、時折優しく声をかけて持ち上げて…それでも従わないやつは殺して…どこかで聞いたような理屈ばかり並べて、本で勉強したんでちゅか?えらいでちゅねー。」

男は無言で女の腹を何回も殴る。女の呼吸が弱くなる。

「お前は――に騙されてるんだよ。あいつは狡猾なんだ。あいつのせいで何人もの人達が命を落としたことか。あいつの提案は罠だった。あいつは敵と通じている。あんなに都合よくあそこにあいつらがいるものか。あいつが悪いんだ。あいつが。」

「そのさくせんは…おまえが最初に提案したんだろうが…。」

「はぁ?それお前嘘つかれてるよ。あれは最初からあいつが指揮ってたんだ。馬鹿だなぁ。騙されちゃって。騙されなければこんな目にあってないのになぁ。」

「お前はびょうきだよ…。自分でついた嘘を自分で本気で信じてやがる…。さぞお前にはこのせかいが…。」

女が言いかけたところで、男が女の首を絞める。

「良いねぇ。とってもしまる。気持ちいいよ。すっごくね。」

この安いエロゲーの1シーンみたいなやりとりを、俺は近くで見ていた。
指一本も動かせない。
熱いものが顔を流れている。頭から出血しているようだ。
あばらも何本か折れてるのかもしれない。
何かの内臓が破裂しているかもしれない。それくらい全身が痛い。重い。
もうこのまま眠るように死んで終わりにしたい。
もう全てがどうでもいい…。

俺と女が一瞬目が合う。

わかってるよ。やれっていうんだろう。
わかってましたよ。これで終わりにするなんて虫が良すぎるよな。

痛いのは気のせい。
苦しいのは気のせい。
骨が折れてるのも気のせい。折れてない。
悔しいだろ?
むかつくよな?
殺してやりたいよな?

じゃあ

殺りますか。

あいつは俺が死んだと思って油断している。

さぁ、立ち上がって。
後ろからそっと近づいて。

火事場の馬鹿力だろうか?俺があいつの頭に振り下ろした金槌はパキッっと小さな音を立てて頭蓋骨を割り、脳みそのかけらをいくらか周りに散乱させた。
ゾンビならもっと徹底的に頭を破壊しなければ死なないが、人間なら…。
男は呻きながら頭を抱えこちらを振り向いた。
男の目には一瞬驚きが、そして激しい憎しみに染まった。
俺を殴ろうと腕を動かしたところで、白目をむきその場に崩れ落ちる。

そこで世界は暗転する。





「重い…。」

昔のことを夢に見ていた。眠りが浅くなり意識が浮き上がってくると、身体をずしりと何かがのしかかっているのに気が付いた。
金縛りだろうか。
目が覚めるにつれ、胸のあたりに柔らかい何かがあたっていることにまず気が付く。
意識の中でだんだんとそれがヒトの形をつくっていく。
目を開けると赤いルビーのような瞳が2つ俺の顔を覗き込んでいた。

ふーこだ。



「寝ている顔を見つめているのはいつものことだが、こうやって密着して覗き込んでくるのは初めてだな。」

ふっと、ふーこが女ゾンビを捕食した時の冷たい笑顔がフラッシュバックする。
今、目の前のふーこがあんな顔をするなんて想像もできない。
でもよく見れば、全くの無表情だったふーこが、今こうやって覗き込んでいる顔は「キョトン」と音がしそうなわかりづらいが、今まで0だった表情が0.1くらいになった感じがする。

「ど・い・て・く・れ。」

ふーこの目を見ながらゆっくり命令する。

ふーこはこちらの顔を見つめながら、ゆっくりと体を起こし俺から身体を離していく。
俺の胸にあたっていた柔らかな感触が離れると共に、ふーこのつぶれていた胸の形が綺麗な円を描いた。
それを見て、ぐにっと胸を揉みしだく。
ふーこは変わらず無表情だが、あの笑顔を見てからふーこには表現ができないだけで何かしら感情が残っている?生まれた?ように思えた。それが人間の感情が残っているのか。ゾンビとして新しい感情が生まれているのかはわからない。ただ、俺の中でもしかしたらふーこは感情を持っているかもしれないという想いからだろう。こうやって胸を揉んでる間も、ふーこは変わらず無表情だが、なんだか「こんなもの揉んで何が楽しいの?」と言われているように感じた。
まぁ、たぶん、にっこりしている人形を可愛いと思えば嬉しそうな笑顔に見え、怖いと思えば不気味な笑顔に見えるのと同じなんだろうけど。

そのままぐいっと押し倒し、ふーこの膣にローションを塗るとモノを突き入れた。



腰を振りながらふーこの胸を揉みしだく、ふーこの口から「――ね。――デショ」と言葉が漏れる。
言葉が漏れるというよりは、所々言葉っぽいが大部分が言葉として成立していなかった。ふーこは出会ったとき言葉らしきものを発したが、一緒にいてみると1日に何度もつぶやくわけではなく、大半は無言だった。
出遭ったときの炎の中、こうして押し倒している時…シチュエーションで発生率は高まるのか?それとも完全にランダムなのか?しかし、女ゾンビを喰い殺した後の笑顔は、ふーこの内側から漏れ出た確かなもののように見える。
シチューエーションによる可能性が高いだろう。

腰を振りながらなんとなくキスをしたくなる。しかし、キスをしてしまうとなんだか自分がふーこに危険なまでにはまりこんでしまいそうで躊躇いやめた。
ふーことしっかり対話を試みるべきだろうか?と考えがよぎったところで、限界を迎え果てた。

「俺はオモチャが欲しいのか?ヒトの代用が欲しいのか?」

呟きながらふーこの体にぐでっと体を預け休憩する。ふーこがゾンビでなければ、「重たい!」と突き飛ばされそうだ。火照った体にふーこのひやっとした体が気持ちいい。
昨日女ゾンビを捕食したからか?肌艶がいつもより良い気がした。




昼下がり。
ふーこを連れて街に出る。
今まで連れ出さなかったのは、ゾンビから逃げる際に足手まといになりそうで、折角のレアものをバラバラにされたくなかったからだ。
しかし、ふーこはエネルギーたっぷりのゾンビだという当たり前のことを痛感させられた。恐らく自分の身は自分で守れるだろう。少なくとも俺には、素手でヒトの体から腕をもぎ取ったりはできない。

「ふーこ、だっしゅ!」

俺が突然走り出すと、ふーこもしっかり走ってついてくる。走るスピードも速い。最初もたついたから距離が開いたが加速が凄まじく、あっという間に追いつかれてしまった。
これなら撤退時も大丈夫そうだ。

「ふーこ、これを背負っていろ」

ふーこにリュックサックを背負わせる。ふーこの性能なら荷物持ちも問題ないだろう。
白いドレスシャツにジーンズ、サイズが良いのがなかったため、ややぶかぶかのローカットブーツにカーキのリュックを背負わされた姿でふーこは健気に俺を追いかけ続けた。




ある程度物資を集めながらぼんやりと考え事をする。
ふーこについてルーツを調べる、例えばふーこを見つけた付近で手掛かりを探すとか、ふーこと言葉遊びをして関係しそうなワードを拾い上げるとか、ふーこについて深入りするべきだろうかということだ。
ぼんやり考えながら歩いていると、何度か道でつんのめりそうになる。道のあちこちに瓦礫が散乱している。

「ふーこ、こっちにこい」

ふーこがついてきていないことに気が付いた。
視線はある一点に集中している。
美容院だ。
店構えはまるでお洒落なカフェみたいだった。ドアは壊され脇に落ちていて中も物資を漁られた形跡があったが、全体としては綺麗な一戸建ての美容院だった。

「ふーこ、来い。」

ふーこの目の前に割り込んで目を見て命令する。

「――カナ―。」

ふーこが何かを呟いた。

あらためてふーこを見つめる。お尻まである波打った栗毛は個人的に好きだったが、拾ったときはぱっつんと綺麗に揃っていた前髪は長さがばらばらになり始めていたし、後ろ髪もお尻まであるのは洗髪のとき大変すぎて嫌だった。
無言でふーこの手を引いて中に入る。

一番綺麗そうな椅子にふーこを座らせて、店内の物資を漁る。
誰か美容師が置いていったであろうシザーバッグが見つかった。
道具は一式あるようだが、俺は美容師じゃない。
山の中に逃げた際に仲間の髪を切ったことはあるものの、とりあえず短くするというだけで綺麗には仕上げることはできなかった。

「まぁ、失敗してもまた伸びるしな。」

椅子に座っているふーこの後ろにまわって、ふーこの髪にハサミを入れる。

まずは後ろ髪から。
ばっさり切って肩までの長さにしようかとも思った。洗髪の時楽になるからだ。でも一瞬考えただけですぐやめた。
ふーこの長い髪が結構気に入っていたからだ。くせのある波打った髪も、ふーこが人間だったときはもしかしたらストレートパーマをかけていたのかもしれないが、俺としては波打った長い髪が風になびくのが見ていて好きだった。

ちょきちょきちょき

俺には髪を梳くとかそんな高度なテクニックはできない。
お尻まであった後ろ髪を、腰のラインよりやや上あたりで切り揃える。

ちょきちょきちょき

どうせやるならと素人ながら綺麗に整うよう色々工夫しながら、時折髪を持ち上げてみたり束ねてみたり、色々髪を動かしながら切っていく。

ちょきちょきちょき

ふと鏡を見るとふーこが微笑んでいるように見えた。
人形の話のようなものかとも思ったが、全くの無表情ではないように見える。口端がほんのわずか動いてるような…いや、気のせいかもしれない。俺が苦労しているからそういう風に見えたいと思っているからかもしれない。
後ろ髪を整えおわったので、前にまわって前髪の長さを揃えるようにハサミを入れる。

「――カラ――ダ」

ふーこが何かを呟いた。
ふーこが笑っている。
ほんのわずかだが、俺の思い込みでもなく本当にわずかだが笑っている。
人間だったころのふーこは、1か月に1回くらい休みの日にこうやって髪を整えてもらって、お気に入りの服と靴、バッグで友達とどこかに出かけたのかもしれない。
そして、それがふーこにとって気持ちを整える大切な儀式だったのかもしれない。

ふーこの赤いルビーのような瞳が「ありがとう」と言っているように見えた。
人間が最期の最期まで失わない機能は聴覚だという。
ふーこにとってこのハサミの音は、ふーこという存在を維持する大切なもののひとつだったのだろう。

「無理だな。」

俺は呟いた。
ふーこをオモチャとして使い潰して捨てるのは無理だ。
女ゾンビを捕食した時の冷たい笑み、そして今の表情。
ゾンビなので人間扱いするわけにもいかないが、ふーことあらためて向き合う必要があると俺の心の奥で何かが発している。

「どこまでも半端やろうだよ。俺は。」

狂気に染まりきることもできず、だからといってヒトを愛することもできず、ゾンビパニックの最中で欠けてしまったナニカをずっと埋めようともがいている。
人間ではないがヒトの形をしているふーこ。俺には丁度良い存在なのかもしれない。
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