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サンダーランド王国編

フェリックス・トラジェット

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 とりあえずボクは健康体らしい。
 あれから医者を呼んでもらって診察を受けた。
 脈と心音を確認しただけだった。そんなんで何が分かるんだ?と思っちゃった。
 この世界は医療は発達していないみたいだ。
 ちょっとした体調不良でも致命傷になる可能性があるみたいだ。
 傷の治療に使うポーションは色々な種類あるのに。病気については病人次第だし。
 だからボクの母上も死んでしまった。
 どんな病気で死んでしまったのか、父含めて誰も答えてくれない。
 もっとも僕も3歳くらいまでしか母上と生活していない。どうして病気になったのか未だに分かってない。
 
 分かっている事は一つ。
 病気にならないよう注意しろって事だ。
 折角健康な体があるんだもの。二度とベットから出れない生活はコリゴリだ。僕は人生を楽しむんだ!

 ん?それはなんでだっけ?
 ・・・またこれだ。
 頭の中にもう一人がいる感覚。分かれているんじゃなくて・・混ざっている感覚。
 考えている事がぐちゃぐちゃに混ざっていく。奇妙で落ち着かない感覚。
 
 慣れないといけないな。
 まだコントロールが難しい。
 
 2日寝込んだ時からボクは変わってしまったのかもしれない。
 
 
「・・・坊ちゃま?どうされました?」

 あ。
 
「クレア。・・ん?なんにもないよ」

 ビックリした。いつのまにか考え込んでいたみたいだ。

「そんな事ありませんよ。こう、なんというか”ぼ~~”っとしてましたよ。やっぱりどこか異常あるんじゃありません?他の人ならいざしらずクレアには正直に言ってくださいね」

 クレアのグリーンアイはボクの嘘を見抜く力がある。絶対そうだ。いつも誤魔化せない。
 後が怖いから正直に答えたいのだけど。・・・どう伝えればよいのか分からない。
 何故かクレアも思案顔だし。一体何考えているんだろうか?
 ボクのほうもいずれなにかの形で表現できるようにならないといけないのかも。
 
「どう言えばいいのか分からないんだよ。突然髪や目の色が変わったんでしょ?そんな事ってあるのかなって?」
「え?そちらですか?そちらでしたら・・・クレアはお会いした事はございませんが、稀にいらっしゃるようですよ。先祖帰りみたい・・な。ええ、そうなんです」

 先祖帰りって。無理やりだな。
 ホントか?

 色々と混乱してばかりだ。
 気を失っていた間に、こっちの世界の体の髪と目の色が変わるなんて。
 ボクの記憶だとそれまでは髪の色はブラウンで瞳はヘーゼルだったはず。
 今は髪はプラチナブロンド、瞳はアイスブルーに変わってしまったんだ。
 ボクも実際に鏡で見てびっくりだ。
 それまでは髪の色は父、瞳は母上の色を受け継いでいたんだ。弟は全部父だったかな。

 でも、なんか気になるんだよね。
 どうにもクレアはボクがそうなる事を最初から予測していたんじゃないかと思う。
 だってブラウンの髪色のかつら、グリーンの瞳に見た目を変える?目薬。瞳の色はちょっと違うけど。
 一応ギリギリ大丈夫らしい。と、クレアは言うけど。本当に大丈夫か?

 これをいつの間に準備していたんだ?かつらはともかく目薬はすぐ準備できないよね?なんで持っているのさ。
 どっちにしても今の変わってしまった髪と目の色を他の人達に見せるのはマズイらしい。これもクレアは説明を濁してくる。
 はっきりいって変だ。先祖帰りならいいんじゃなのか?
 だから不安になる。でも・・なんとなくだけどボクを気遣ってくれているのは表情から分かる。
 だから信じるしかない。クレアをそんな風に疑う事はしたくない。
 
「はぁ、分かったよ。かつらと目薬はずっと使わないといけない事も。納得いかないけどさ」
「そこはクレアを信じてくださいまし。これは坊ちゃんのためなんです」

 力強くボクの手を握りながらボクに迫って来るクレア。
 冷たくひんやりとした手は気持ちいい。
 でも・・ち、近いよ。
 控えめにいってもクレアは綺麗だ。
 ムッチリとした脂肪に包まれたアスリート体型。当然出る所は出ている。身長も他の侍女達より頭ひとつ以上高い。だから着ているお仕着せも特注だ。
 その上顔は小さく、やや彫りの深いグリーンアイはアーモンドくらい大きい。艶やかなブルーブラックの髪は普段はおろしているけど今は綺麗にまとめている。
 美少女という表現が適切だと思う。
 そんなクレアがお互いの息使いが感じられるまで近づいてきたら・・・そりゃドキドキするよ。
 母上の実家であるフォレット家では一番母上の若い頃と似ているらしい。母上の美少女だったという事か。
 
 クレアは表情を隠すのが上手いがボクはなんとなく分かる。
 やっぱりクレアは何かを隠している。じ~っと疑いの目をクレアに向ける。
 クレアはやや焦ったみたい。そんな表情だ。だからか、さりげなく話題を変えてきた。
 
「そ、そういえば坊ちゃんの外見もそうですが内面も変わられていませんか?今までの坊ちゃんとどことなく違う気がしますわ」

 ドキリ。

「へ?どういう事?そ、そんなにボク変わってるの?」
「ええ、なんと申しますか・・雰囲気ですね。少し大人びられた感じがします」

 す、鋭い。そこまで察知できるのか。クレア・・・怖い。

 見知らぬ世界の記憶だと僕は20歳で死んだ。幼い頃よりずっと病院で生活していたものだ。
 その記憶が混ざりこんでいる。
 
 ボクはボクであるのは間違いない。
 でも僕が混ざりこんでいる。
 ボクにも分からないけど。いずれボクはこれまでと違うボクになるのだろう。
 でも、それは普通に人が成長する過程でも変わるモノだろうと僕は思う。
 
 僕・・・ボク、フェリックス・トラジェットはこの世界を楽しみたい。
 ボクのままで僕のために楽しみたい。生きていきたい。
 そのためにはボクはこの世界を色々知らないといけない。
 
「2日気絶していたせい・・・なのかな?今は上手く説明できないや。いつか上手く説明できるかもしれないけど。今のボクとこれまでのボクと変わってないと思っているよ」

 ボクの言葉を聞いたクレアは微笑んでいた。疑いも不安も何もない笑顔だ。
 思わず綺麗だと思ってしまった。
 それはいつもと違う微笑みだ。
 その表情の意味するところを・・・今の僕はまだ理解できないようだ。
 これも成長すればいずれ理解できるのかもしれない。
 僕もニッコリと笑ってみる。ぎこちない表情をしていないだろうかと思ったけどクレアには変に取り繕う必要は無い。
 クレアもいつもの笑みを返してくれる。
 
「はい。クレアは待ちます。それまではずっと側におります。いつか教えてくださいまし」

 その言葉の意味する事はさすがにボクでも分かる。

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