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4.出戻り男と眼鏡女子*

お互い同じ日に用があるなんてすっげぇ縁を感じね?

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「今週末の土曜ね、職場で催し事があってお休みじゃないの」

 この所、時間が合えば土曜の夜は我が家でおうちご飯をする様になっていた私達なんだけど。

 この土曜は勤め先の小学校で運動会がある。

 別に私自身が外へ出て駆け回る訳ではないけれど、本部席すぐ横に設営の来賓席らいひんせきへのお茶出しや、プログラムが予定通り進行しているかストップウォッチでタイムを測ったりしなきゃいけない。
 閉会後には児童らと一緒に後片付けだって待っている。

 きっと疲れまくって帰宅後は廃人。とてもじゃないけれどご飯を作るとか無理なはず。

 外での催事なので雨で順延になる可能性はあるけれど、どうなるか分からない以上、一応動けない前提で彰久あきひささんにお話しておかなきゃって思った。

 例によって水曜の夕方。
 彰久さんのお店で買ったクレープを閉店時間頃に受け取りに行って。
 照子おばあちゃんがアルンでお買い物をしている間、店舗入口のベンチに腰掛けて彰久さんと束の間の逢瀬おうせ

「その日は俺も丁度予定が入ってっから実迦みかちゃんに言わなきゃって思ってたんだ。お互い同じ日に用があるなんてすっげぇ縁を感じね?」

 申し訳なさに眉根を寄せて言ったら、期せずして彰久さんからもそんな返事。

「良かったぁ~。何かホッとした」

「俺も」


 今日はシンプルに(?)シュガーバターをチョイス。
 グラニュー糖のチャリチャリした食感と、バターの風味がすっごく美味しい。

 いつものフルーツ+ホイップクリーム入りと違って、厚みもそんなにないから食べやすいかと思いきや、クタッとなるから逆に食べ難い。

 前に彰久あきひささんに言われた様に、包み紙を破らずに、かといって素手で触るのも何だか気が引けたから生地に噛み付いてグイーッと引っ張り出そうとしたら失敗して噛みちぎってしまった。

「あっ」

 思わず声を出したら「どした?」と彰久さんがこっちを向いて。

「あひゃっ」

 余りの顔の近さにドギマギしてしまう。

「『あひゃっ』って」

 彰久さんが私の間の抜けた悲鳴にクスクス笑って。私は恥ずかしさにうつむいた。

 実は未だ深い……いわゆる男女の関係にはなり切れていない私達。

 うちで散々密室に二人きり体験を経験しているはずなのに、キスまででその先に進めないのは……私に色気が足りないのかな?

 先日は寝室まであと一歩の所まで行ったのに。リビングとの境の引き戸を開けただけで、彰久さんはベッドまで私を連れて行ってはくれなかった。

 きっと私が何か、彼を萎えさせる様な粗相をしたんだと思う。

 今の悲鳴にしたってもっとこう、お色気ムンムンなのとかなかったですかね⁉︎

 でもそこで思いつくのが「うっふぅ~ん♡」や「あっはぁ~ん♡」な時点でダメだ!って痛感して。

 結局恥ずかしさを誤魔化すみたいにいつも通り包みをビリビリと破り開けてクレープにかぶり付いた。


***


 運動会の日。
 予定通りの土曜日。晴天に恵まれて延期になる事もなく、無事に開催の運びとなった。

 地元特産品のトマトキャラが背中にプリントされたターコイズブルーのTシャツに黒のジャージズボンという姿で、私は朝から校内を走り回っている。
 足元は動き易さ重視でスニーカー。

 因みにトマプリTシャツは教職員一堂お揃いの、いわゆるスタッフユニフォームだ。

 来賓席の隣には敬老席も設けられていて、地べたにレジャーシートで観覧するのが困難な方々のために、テント内にパイプ椅子がズラリと並べられている。

 来賓らいひんの方々へのお茶出しもひと段落。
 ほっと息をつきながら、帽子を脱いで首に掛けていたタオルで軽く汗を拭う。
 そうしながら手にしたクリップボードでハタハタと顔を仰いだのは、汗で眼鏡がズリ落ちてくるのがすごく鬱陶しかったから。

「……みぃーちゃん?」

 「暑っ」と独りごちたと同時、すぐ横からそんな声を掛けられて、「え?」と声が漏れる。

「照子おばあちゃん……⁉︎」

 まさかアルン以外で彼女に会えるなんて思っていなかった私はびっくりしてしまう。
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