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12.もしかして変ですか?*
修太郎さんの紋付羽織袴姿、物凄く楽しみなのですっ
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「とても似合っていらっしゃいますよ? ですが、そうですね。ここのところは蝶々結びより――」
日織の腰の紐をスッと解くと、一文字結びに結い直してやる。
前に職場でイベントをした際にこの手の前掛けをつけたことがある修太郎は、袴や浴衣などの帯には、リボン結びより一文字結びの方がキッチリとして美しく見えるというのを、年配の同僚から教えてもらったことがあったのだ。
一度習得したことは滅多なことでは忘れない性質なのが幸いして、久々だったにも関わらず難なく日織の腰紐の結び目を直してやることが出来た。
折りたたんだ紐の上に反対側の紐をグルグルと三回巻き付けて、それでも残ったピロンと長い部分を前掛けの内側に入れ込んで体裁を整えてやる。
無意識に、紐とともに彼女の肉付きの薄い腹付近に手指を差し込んだら、日織が「修太郎さっ、くすぐったいですっ」とクスクス笑いながら身をよじって。
「日織さん……っ」
その仕草のあまりの愛らしさに、思わずギュッと日織を腕の中に抱き寄せてから、〝結局どんなものを身に付けたとしても僕の奥さんは凶悪に可愛い〟という結論に達した修太郎だった。
***
「それでね、一斗さんが……」
「――一斗さん?」
「あ。羽住くんのお兄さんのお名前なのですっ。……その彼が和装でいらしたんですけど――」
そこで、同じ枕に頭を乗せた、すぐ横の修太郎を至近距離で見詰めてくると、
「私、彼のお着物がすっごくすっごく修太郎さんに似合いそうな気がして……思わず見惚れてしまったのですっ」
無意識だろうか。
言い終わるか終わらないかのタイミングで、小さな手が布団の中から伸びてきて、頬に沿わせるように修太郎の輪郭をやんわりと撫でてくる。
そのせいで、日織が見知らぬ男の名を呼んだことを問いただす機会を逸してしまった修太郎だ。
「あの、日織さんさっきの――」
それでも何とか言い募ろうとしたら、今度はシーッと言いながら修太郎の唇に触れてきた日織に、チュッと触れるか触れないかの軽いキスを落とされた。
「私、結婚式での修太郎さんの紋付羽織袴姿、物凄く楽しみなのですっ」
日織からの貴重なキスの直後、そんな風にはにかむように微笑まれては、よく知りもしない男の名などどうでも良くなってしまった修太郎だ。
日織の腰の紐をスッと解くと、一文字結びに結い直してやる。
前に職場でイベントをした際にこの手の前掛けをつけたことがある修太郎は、袴や浴衣などの帯には、リボン結びより一文字結びの方がキッチリとして美しく見えるというのを、年配の同僚から教えてもらったことがあったのだ。
一度習得したことは滅多なことでは忘れない性質なのが幸いして、久々だったにも関わらず難なく日織の腰紐の結び目を直してやることが出来た。
折りたたんだ紐の上に反対側の紐をグルグルと三回巻き付けて、それでも残ったピロンと長い部分を前掛けの内側に入れ込んで体裁を整えてやる。
無意識に、紐とともに彼女の肉付きの薄い腹付近に手指を差し込んだら、日織が「修太郎さっ、くすぐったいですっ」とクスクス笑いながら身をよじって。
「日織さん……っ」
その仕草のあまりの愛らしさに、思わずギュッと日織を腕の中に抱き寄せてから、〝結局どんなものを身に付けたとしても僕の奥さんは凶悪に可愛い〟という結論に達した修太郎だった。
***
「それでね、一斗さんが……」
「――一斗さん?」
「あ。羽住くんのお兄さんのお名前なのですっ。……その彼が和装でいらしたんですけど――」
そこで、同じ枕に頭を乗せた、すぐ横の修太郎を至近距離で見詰めてくると、
「私、彼のお着物がすっごくすっごく修太郎さんに似合いそうな気がして……思わず見惚れてしまったのですっ」
無意識だろうか。
言い終わるか終わらないかのタイミングで、小さな手が布団の中から伸びてきて、頬に沿わせるように修太郎の輪郭をやんわりと撫でてくる。
そのせいで、日織が見知らぬ男の名を呼んだことを問いただす機会を逸してしまった修太郎だ。
「あの、日織さんさっきの――」
それでも何とか言い募ろうとしたら、今度はシーッと言いながら修太郎の唇に触れてきた日織に、チュッと触れるか触れないかの軽いキスを落とされた。
「私、結婚式での修太郎さんの紋付羽織袴姿、物凄く楽しみなのですっ」
日織からの貴重なキスの直後、そんな風にはにかむように微笑まれては、よく知りもしない男の名などどうでも良くなってしまった修太郎だ。
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