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12.もしかして変ですか?*
素敵なエプロン
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とりあえず、今日はこのまま修太郎宅へお泊まりすることになっている日織だ。
日中は日織がバイトをするために一緒にいられなかった分、夜ぐらいは愛する妻とともに過ごしたいと願った修太郎が、予め藤原夫妻に打診して許可を取っていたのだ。
これがなかったらきっと、今日羽住酒造への日織の送り迎えを我慢することは不可能だっただろうな、と修太郎自身思っていたりする。
昼間カフェで佳穂に、「保護者同伴みたいな真似をしなくてよかったわね」みたいに揶揄われたけれど、正直なところ夜の約束がなかったら、幼児が大人から離れて『はじめてのお使い』をする様を大勢のスタップが追いかけて行って皆で見守るテレビ番組さながらに、自分は日織のあとを付けていただろう。
だけど、さすがに日織は幼児ではない。
下手な追跡をすればバレてしまうのは目に見えていたし、きっと見付かればかなり怒らせてしまっていただろうことも容易に推察できた。
日織を家に連れ帰るように手筈を整えておいてよかったと、心の底から思った修太郎だ。
***
「ところで日織さん、それは何ですか?」
日織が車に乗り込んできた時から、修太郎は彼女が大事そうに両手で抱えている包みが気になっていた。
ずっと中身を聞きたかった修太郎だけれど、運転中の身では見せられても吟味することが出来ないからと敢えて聞かずにいたのだ。
しかし、やっと車をマンションの駐車場に停めることが出来た今となっては、問い掛けずにはいられなくて。
日織は修太郎の言葉に、
「これですか? これは羽住くんのお父様からいただいた素敵なエプロンなのですっ。お部屋で付けてお見せしますねっ」
と、ソワソワした様子で修太郎を見上げてくる。
上目遣いをした日織から、「本当に素敵なので楽しみにしていてくださいねっ?」と付け加えられて、修太郎は真っ白でフリルたっぷりのフェミニンなやつ――それこそヴィクトリアン風のメイドさんもかくやと言ったエプロンを想像したのだけれど。
部屋に入るなり「これなのですっ!」と日織が付けて見せてくれたものは、どう見てもガーリーさのかけらもないいわゆる〝前掛け〟で。
いかにも鉛筆などを耳輪に乗っけた酒屋の店主なんかが、汚れ防止のために腰に巻いていて「へい、いらっしゃい。何にいたしやしょう?」などと揉み手していたら似合いそうなやつですね!?と思ってしまった修太郎だ。
何せ日織がして見せてくれているくだんの前掛けは、愛らしいフリル付きでもなければ清純可憐なイメージの白でもなく。
濃紺の硫化染めの帆布に、これまた豪胆な筆致で『純米吟醸 波澄』と白抜き文字が描かれているものだったのだから。
しかし、考えてみれば日織はちゃんと修太郎に言ったのだ。「羽住くんのお父様からいただいた〟素敵なエプロンなのだ」と。
酒造でもらった品なのだから、メイド喫茶のようなエプロンを想像する方がおかしかったではないか。
「あ、あのっ。もしかして変ですか?」
前掛けをして嬉しそうにクルクル回って見せてくれていた日織が、修太郎の顔が曇っていることに気が付いて不安そうに眉根を寄せる。
「あっ。ひょっとして巻き方が違ったりします?」
あくまでもその前掛けのフォルムに問題があるのだと思い至らないところが日織らしくて、修太郎は思わず笑ってしまった。
日中は日織がバイトをするために一緒にいられなかった分、夜ぐらいは愛する妻とともに過ごしたいと願った修太郎が、予め藤原夫妻に打診して許可を取っていたのだ。
これがなかったらきっと、今日羽住酒造への日織の送り迎えを我慢することは不可能だっただろうな、と修太郎自身思っていたりする。
昼間カフェで佳穂に、「保護者同伴みたいな真似をしなくてよかったわね」みたいに揶揄われたけれど、正直なところ夜の約束がなかったら、幼児が大人から離れて『はじめてのお使い』をする様を大勢のスタップが追いかけて行って皆で見守るテレビ番組さながらに、自分は日織のあとを付けていただろう。
だけど、さすがに日織は幼児ではない。
下手な追跡をすればバレてしまうのは目に見えていたし、きっと見付かればかなり怒らせてしまっていただろうことも容易に推察できた。
日織を家に連れ帰るように手筈を整えておいてよかったと、心の底から思った修太郎だ。
***
「ところで日織さん、それは何ですか?」
日織が車に乗り込んできた時から、修太郎は彼女が大事そうに両手で抱えている包みが気になっていた。
ずっと中身を聞きたかった修太郎だけれど、運転中の身では見せられても吟味することが出来ないからと敢えて聞かずにいたのだ。
しかし、やっと車をマンションの駐車場に停めることが出来た今となっては、問い掛けずにはいられなくて。
日織は修太郎の言葉に、
「これですか? これは羽住くんのお父様からいただいた素敵なエプロンなのですっ。お部屋で付けてお見せしますねっ」
と、ソワソワした様子で修太郎を見上げてくる。
上目遣いをした日織から、「本当に素敵なので楽しみにしていてくださいねっ?」と付け加えられて、修太郎は真っ白でフリルたっぷりのフェミニンなやつ――それこそヴィクトリアン風のメイドさんもかくやと言ったエプロンを想像したのだけれど。
部屋に入るなり「これなのですっ!」と日織が付けて見せてくれたものは、どう見てもガーリーさのかけらもないいわゆる〝前掛け〟で。
いかにも鉛筆などを耳輪に乗っけた酒屋の店主なんかが、汚れ防止のために腰に巻いていて「へい、いらっしゃい。何にいたしやしょう?」などと揉み手していたら似合いそうなやつですね!?と思ってしまった修太郎だ。
何せ日織がして見せてくれているくだんの前掛けは、愛らしいフリル付きでもなければ清純可憐なイメージの白でもなく。
濃紺の硫化染めの帆布に、これまた豪胆な筆致で『純米吟醸 波澄』と白抜き文字が描かれているものだったのだから。
しかし、考えてみれば日織はちゃんと修太郎に言ったのだ。「羽住くんのお父様からいただいた〟素敵なエプロンなのだ」と。
酒造でもらった品なのだから、メイド喫茶のようなエプロンを想像する方がおかしかったではないか。
「あ、あのっ。もしかして変ですか?」
前掛けをして嬉しそうにクルクル回って見せてくれていた日織が、修太郎の顔が曇っていることに気が付いて不安そうに眉根を寄せる。
「あっ。ひょっとして巻き方が違ったりします?」
あくまでもその前掛けのフォルムに問題があるのだと思い至らないところが日織らしくて、修太郎は思わず笑ってしまった。
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