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11.羽住酒造と藤原家の稼業
この子は次にどんなことを言ってくるんだろう?
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「日織さん、貴女の……というより僕らのお義父さんは木を扱う仕事をしておられます」
詳しいことは、(もしも知りたいと思われたなら)日織さんご自身が直接日之進氏にお尋ねになられたらいいと思った修太郎は、『藤原木材』の仕事内容について、多くを語ろうとは思わなかった。
いわゆる「製材所」を営む日之進の会社は、近隣の森林組合で丸太を落札し、建築資材として加工したのちに客先へ納品するといった仕事で生計を立てている。
工程をざっと述べると、
森林組合の競りで落札した丸太を自社・または契約している運送会社のトラックに乗せて藤原木材まで持ち帰る。
持ち帰った丸太の皮を剥いて、一般的な建築資材の大きさに製材する。
出来上がった製品を乾燥センターに持ち込み、そこでしっかりと乾燥させる。
乾燥させた木材をプレナ加工機という機材で均一な大きさに整える。
出来上がった建築資材を、トラックに乗せて客の元へ納品する。
といった感じだ。
「木を……」
修太郎の言葉に、小さくそうつぶやいてから口元に手を当てて考え込むような仕草をする日織が可愛くて、「この子は次にどんなことを言ってくるんだろう?」と、修太郎は内心ワクワクした。
「あのっ、修太郎さん。木って……例えばあれですかね? 昔、一世を風靡したとかいう北海道のお土産の定番、木彫りのクマさん! ひょっとしてお父様はそういうものを作っていらっしゃるのでしょうか?」
目の端、「うちにもお父様のお部屋に飾ってあるのですっ! シャケを咥えた木彫りのクマちゃんが!」とか嬉しそうにポンっと手を打って夢見がちな表情をする日織の愛らしい姿が見えて、修太郎は思わず胸がキュウッと締め付けられるような愛しさに駆られる。
しかし同時に、「日織さん、何故に北海道土産に思考が飛んだのですか!?」と思ってしまったのも事実だ。
「えっと……日織さん? その……我々が住んでいるのは山口県ですよ?」
控えめを心掛けたとはいえ、修太郎はそう突っ込まずにはいられなかった。
「えっと……もしかして山口県にクマはいませんでしたか?」
ハッとしたように聞かれて、
「……ツキノワグマならいますけど、ヒグマはいませんね」
ハンドルを握ったまま、クソ真面目に日織からの質問に返しながらも、ではいるからと言ってツキノワグマを工芸品として土産物屋に並べてあるか?と聞かれたら見たことないですよね?と心の中で突っ込みまくりの修太郎だ。けれど、果たしてそれを日織に〝やんわりと伝えるには〟どうすべきかと思案する。
というかそもそも――。
「日織さん、日之進さんが扱っておられるのは『木材』です」
考えてみれば、木、という漠然とした言い方をした自分が悪かったのだ、きっと日織さんは悪くない、と反省しきりの修太郎だった。
「木、材……?」
修太郎がそう言って初めて、日織がハッとしたように息を呑んで。
「私、木ってそんな大きなもののことだなんて、想像も及びませんでしたっ!」
不覚なのですっ!と続けている日織を横目に、修太郎は
(もしもこの場に異母弟の健二がいたなら、「いや、日織さん! 普通はそっちが先に来るものですからね!?」とすぐさまツッコんでいただろうな?)
と思わずにはいられない。
けれど、あいにくというか幸いというか。〝日織という女性〟を熟知している修太郎は違うのだ。
彼は(日織さんなら斜め上の想像をして、ふんわりした妄想を繰り広げてきても何ら不思議ではないし、寧ろそうでなくちゃ彼女らしくない)とすら思っている。
思えば修太郎自身、まるでそれを期待するように、「この子は次にどんなことを言ってくるんだろう?」と、内心ワクワクしていたのだから。
案外最初の時「木材」と言わずに無意識に「木」という言葉を選んでしまったのだって、それを期待していたのかも知れないな?と、ひとり心の中で苦笑した修太郎だった。
詳しいことは、(もしも知りたいと思われたなら)日織さんご自身が直接日之進氏にお尋ねになられたらいいと思った修太郎は、『藤原木材』の仕事内容について、多くを語ろうとは思わなかった。
いわゆる「製材所」を営む日之進の会社は、近隣の森林組合で丸太を落札し、建築資材として加工したのちに客先へ納品するといった仕事で生計を立てている。
工程をざっと述べると、
森林組合の競りで落札した丸太を自社・または契約している運送会社のトラックに乗せて藤原木材まで持ち帰る。
持ち帰った丸太の皮を剥いて、一般的な建築資材の大きさに製材する。
出来上がった製品を乾燥センターに持ち込み、そこでしっかりと乾燥させる。
乾燥させた木材をプレナ加工機という機材で均一な大きさに整える。
出来上がった建築資材を、トラックに乗せて客の元へ納品する。
といった感じだ。
「木を……」
修太郎の言葉に、小さくそうつぶやいてから口元に手を当てて考え込むような仕草をする日織が可愛くて、「この子は次にどんなことを言ってくるんだろう?」と、修太郎は内心ワクワクした。
「あのっ、修太郎さん。木って……例えばあれですかね? 昔、一世を風靡したとかいう北海道のお土産の定番、木彫りのクマさん! ひょっとしてお父様はそういうものを作っていらっしゃるのでしょうか?」
目の端、「うちにもお父様のお部屋に飾ってあるのですっ! シャケを咥えた木彫りのクマちゃんが!」とか嬉しそうにポンっと手を打って夢見がちな表情をする日織の愛らしい姿が見えて、修太郎は思わず胸がキュウッと締め付けられるような愛しさに駆られる。
しかし同時に、「日織さん、何故に北海道土産に思考が飛んだのですか!?」と思ってしまったのも事実だ。
「えっと……日織さん? その……我々が住んでいるのは山口県ですよ?」
控えめを心掛けたとはいえ、修太郎はそう突っ込まずにはいられなかった。
「えっと……もしかして山口県にクマはいませんでしたか?」
ハッとしたように聞かれて、
「……ツキノワグマならいますけど、ヒグマはいませんね」
ハンドルを握ったまま、クソ真面目に日織からの質問に返しながらも、ではいるからと言ってツキノワグマを工芸品として土産物屋に並べてあるか?と聞かれたら見たことないですよね?と心の中で突っ込みまくりの修太郎だ。けれど、果たしてそれを日織に〝やんわりと伝えるには〟どうすべきかと思案する。
というかそもそも――。
「日織さん、日之進さんが扱っておられるのは『木材』です」
考えてみれば、木、という漠然とした言い方をした自分が悪かったのだ、きっと日織さんは悪くない、と反省しきりの修太郎だった。
「木、材……?」
修太郎がそう言って初めて、日織がハッとしたように息を呑んで。
「私、木ってそんな大きなもののことだなんて、想像も及びませんでしたっ!」
不覚なのですっ!と続けている日織を横目に、修太郎は
(もしもこの場に異母弟の健二がいたなら、「いや、日織さん! 普通はそっちが先に来るものですからね!?」とすぐさまツッコんでいただろうな?)
と思わずにはいられない。
けれど、あいにくというか幸いというか。〝日織という女性〟を熟知している修太郎は違うのだ。
彼は(日織さんなら斜め上の想像をして、ふんわりした妄想を繰り広げてきても何ら不思議ではないし、寧ろそうでなくちゃ彼女らしくない)とすら思っている。
思えば修太郎自身、まるでそれを期待するように、「この子は次にどんなことを言ってくるんだろう?」と、内心ワクワクしていたのだから。
案外最初の時「木材」と言わずに無意識に「木」という言葉を選んでしまったのだって、それを期待していたのかも知れないな?と、ひとり心の中で苦笑した修太郎だった。
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