57 / 105
11.羽住酒造と藤原家の稼業
この子は次にどんなことを言ってくるんだろう?
しおりを挟む
「日織さん、貴女の……というより僕らのお義父さんは木を扱う仕事をしておられます」
詳しいことは、(もしも知りたいと思われたなら)日織さんご自身が直接日之進氏にお尋ねになられたらいいと思った修太郎は、『藤原木材』の仕事内容について、多くを語ろうとは思わなかった。
いわゆる「製材所」を営む日之進の会社は、近隣の森林組合で丸太を落札し、建築資材として加工したのちに客先へ納品するといった仕事で生計を立てている。
工程をざっと述べると、
森林組合の競りで落札した丸太を自社・または契約している運送会社のトラックに乗せて藤原木材まで持ち帰る。
持ち帰った丸太の皮を剥いて、一般的な建築資材の大きさに製材する。
出来上がった製品を乾燥センターに持ち込み、そこでしっかりと乾燥させる。
乾燥させた木材をプレナ加工機という機材で均一な大きさに整える。
出来上がった建築資材を、トラックに乗せて客の元へ納品する。
といった感じだ。
「木を……」
修太郎の言葉に、小さくそうつぶやいてから口元に手を当てて考え込むような仕草をする日織が可愛くて、「この子は次にどんなことを言ってくるんだろう?」と、修太郎は内心ワクワクした。
「あのっ、修太郎さん。木って……例えばあれですかね? 昔、一世を風靡したとかいう北海道のお土産の定番、木彫りのクマさん! ひょっとしてお父様はそういうものを作っていらっしゃるのでしょうか?」
目の端、「うちにもお父様のお部屋に飾ってあるのですっ! シャケを咥えた木彫りのクマちゃんが!」とか嬉しそうにポンっと手を打って夢見がちな表情をする日織の愛らしい姿が見えて、修太郎は思わず胸がキュウッと締め付けられるような愛しさに駆られる。
しかし同時に、「日織さん、何故に北海道土産に思考が飛んだのですか!?」と思ってしまったのも事実だ。
「えっと……日織さん? その……我々が住んでいるのは山口県ですよ?」
控えめを心掛けたとはいえ、修太郎はそう突っ込まずにはいられなかった。
「えっと……もしかして山口県にクマはいませんでしたか?」
ハッとしたように聞かれて、
「……ツキノワグマならいますけど、ヒグマはいませんね」
ハンドルを握ったまま、クソ真面目に日織からの質問に返しながらも、ではいるからと言ってツキノワグマを工芸品として土産物屋に並べてあるか?と聞かれたら見たことないですよね?と心の中で突っ込みまくりの修太郎だ。けれど、果たしてそれを日織に〝やんわりと伝えるには〟どうすべきかと思案する。
というかそもそも――。
「日織さん、日之進さんが扱っておられるのは『木材』です」
考えてみれば、木、という漠然とした言い方をした自分が悪かったのだ、きっと日織さんは悪くない、と反省しきりの修太郎だった。
「木、材……?」
修太郎がそう言って初めて、日織がハッとしたように息を呑んで。
「私、木ってそんな大きなもののことだなんて、想像も及びませんでしたっ!」
不覚なのですっ!と続けている日織を横目に、修太郎は
(もしもこの場に異母弟の健二がいたなら、「いや、日織さん! 普通はそっちが先に来るものですからね!?」とすぐさまツッコんでいただろうな?)
と思わずにはいられない。
けれど、あいにくというか幸いというか。〝日織という女性〟を熟知している修太郎は違うのだ。
彼は(日織さんなら斜め上の想像をして、ふんわりした妄想を繰り広げてきても何ら不思議ではないし、寧ろそうでなくちゃ彼女らしくない)とすら思っている。
思えば修太郎自身、まるでそれを期待するように、「この子は次にどんなことを言ってくるんだろう?」と、内心ワクワクしていたのだから。
案外最初の時「木材」と言わずに無意識に「木」という言葉を選んでしまったのだって、それを期待していたのかも知れないな?と、ひとり心の中で苦笑した修太郎だった。
詳しいことは、(もしも知りたいと思われたなら)日織さんご自身が直接日之進氏にお尋ねになられたらいいと思った修太郎は、『藤原木材』の仕事内容について、多くを語ろうとは思わなかった。
いわゆる「製材所」を営む日之進の会社は、近隣の森林組合で丸太を落札し、建築資材として加工したのちに客先へ納品するといった仕事で生計を立てている。
工程をざっと述べると、
森林組合の競りで落札した丸太を自社・または契約している運送会社のトラックに乗せて藤原木材まで持ち帰る。
持ち帰った丸太の皮を剥いて、一般的な建築資材の大きさに製材する。
出来上がった製品を乾燥センターに持ち込み、そこでしっかりと乾燥させる。
乾燥させた木材をプレナ加工機という機材で均一な大きさに整える。
出来上がった建築資材を、トラックに乗せて客の元へ納品する。
といった感じだ。
「木を……」
修太郎の言葉に、小さくそうつぶやいてから口元に手を当てて考え込むような仕草をする日織が可愛くて、「この子は次にどんなことを言ってくるんだろう?」と、修太郎は内心ワクワクした。
「あのっ、修太郎さん。木って……例えばあれですかね? 昔、一世を風靡したとかいう北海道のお土産の定番、木彫りのクマさん! ひょっとしてお父様はそういうものを作っていらっしゃるのでしょうか?」
目の端、「うちにもお父様のお部屋に飾ってあるのですっ! シャケを咥えた木彫りのクマちゃんが!」とか嬉しそうにポンっと手を打って夢見がちな表情をする日織の愛らしい姿が見えて、修太郎は思わず胸がキュウッと締め付けられるような愛しさに駆られる。
しかし同時に、「日織さん、何故に北海道土産に思考が飛んだのですか!?」と思ってしまったのも事実だ。
「えっと……日織さん? その……我々が住んでいるのは山口県ですよ?」
控えめを心掛けたとはいえ、修太郎はそう突っ込まずにはいられなかった。
「えっと……もしかして山口県にクマはいませんでしたか?」
ハッとしたように聞かれて、
「……ツキノワグマならいますけど、ヒグマはいませんね」
ハンドルを握ったまま、クソ真面目に日織からの質問に返しながらも、ではいるからと言ってツキノワグマを工芸品として土産物屋に並べてあるか?と聞かれたら見たことないですよね?と心の中で突っ込みまくりの修太郎だ。けれど、果たしてそれを日織に〝やんわりと伝えるには〟どうすべきかと思案する。
というかそもそも――。
「日織さん、日之進さんが扱っておられるのは『木材』です」
考えてみれば、木、という漠然とした言い方をした自分が悪かったのだ、きっと日織さんは悪くない、と反省しきりの修太郎だった。
「木、材……?」
修太郎がそう言って初めて、日織がハッとしたように息を呑んで。
「私、木ってそんな大きなもののことだなんて、想像も及びませんでしたっ!」
不覚なのですっ!と続けている日織を横目に、修太郎は
(もしもこの場に異母弟の健二がいたなら、「いや、日織さん! 普通はそっちが先に来るものですからね!?」とすぐさまツッコんでいただろうな?)
と思わずにはいられない。
けれど、あいにくというか幸いというか。〝日織という女性〟を熟知している修太郎は違うのだ。
彼は(日織さんなら斜め上の想像をして、ふんわりした妄想を繰り広げてきても何ら不思議ではないし、寧ろそうでなくちゃ彼女らしくない)とすら思っている。
思えば修太郎自身、まるでそれを期待するように、「この子は次にどんなことを言ってくるんだろう?」と、内心ワクワクしていたのだから。
案外最初の時「木材」と言わずに無意識に「木」という言葉を選んでしまったのだって、それを期待していたのかも知れないな?と、ひとり心の中で苦笑した修太郎だった。
0
お気に入りに追加
30
あなたにおすすめの小説
鬼上司は間抜けな私がお好きです
碧井夢夏
恋愛
れいわ紡績に就職した新入社員、花森沙穂(はなもりさほ)は社内でも評判の鬼上司、東御八雲(とうみやくも)のサポートに配属させられる。
ドジな花森は何度も東御の前で失敗ばかり。ところが、人造人間と噂されていた東御が初めて楽しそうにしたのは花森がやらかした時で・・。
孤高の人、東御八雲はなんと間抜けフェチだった?!
その上、育ちが特殊らしい雰囲気で・・。
ハイスペック超人と口だけの間抜け女子による上司と部下のラブコメ。
久しぶりにコメディ×溺愛を書きたくなりましたので、ゆるーく連載します。
会話劇ベースに、コミカル、ときどき、たっぷりと甘く深い愛のお話。
「めちゃコミック恋愛漫画原作賞」優秀作品に選んでいただきました。
※大人ラブです。R15相当。
表紙画像はMidjourneyで生成しました。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
若妻シリーズ
笹椰かな
恋愛
とある事情により中年男性・飛龍(ひりゅう)の妻となった18歳の愛実(めぐみ)。
気の進まない結婚だったが、優しく接してくれる夫に愛実の気持ちは傾いていく。これはそんな二人の夜(または昼)の営みの話。
乳首責め/クリ責め/潮吹き
※表紙の作成/かんたん表紙メーカー様
※使用画像/SplitShire様
ヤリたい男ヤラない女〜デキちゃった編
タニマリ
恋愛
野獣のような男と付き合い始めてから早5年。そんな彼からプロポーズをされ同棲生活を始めた。
私の仕事が忙しくて結婚式と入籍は保留になっていたのだが……
予定にはなかった大問題が起こってしまった。
本作品はシリーズの第二弾の作品ですが、この作品だけでもお読み頂けます。
15分あれば読めると思います。
この作品の続編あります♪
『ヤリたい男ヤラない女〜デキちゃった編』
W-score
フロイライン
恋愛
男に負けじと人生を仕事に捧げてきた山本 香菜子は、ゆとり世代の代表格のような新入社員である新開 優斗とペアを組まされる。
優斗のあまりのだらしなさと考えの甘さに、閉口する香菜子だったが…
先生!放課後の隣の教室から女子の喘ぎ声が聴こえました…
ヘロディア
恋愛
居残りを余儀なくされた高校生の主人公。
しかし、隣の部屋からかすかに女子の喘ぎ声が聴こえてくるのであった。
気になって覗いてみた主人公は、衝撃的な光景を目の当たりにする…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる