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12-1.嵐の前の静けさ*

ケーキは晩飯の後にするじゃろ?

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 しかもリス型のクッキーに描かれた顔がひとつずつ違うから、それがまたいい味を出していて。

「あぁーん! ホンマ、滅茶苦茶ぶち、ぶぅ~ち可愛いです! 何か食べるんが可哀想になるくらいっ」

 くるみが何度も角度を変えては箱の中のリスたちを覗き込む。

 そのチョロチョロひょこひょこと動き回る様が小動物そのものに見えて、実篤は(くるみちゃんの方がリスみたいで可愛いけん)と、一人心の中でクスッと笑った。

 そういえば初対面の時にもくるみのことを〝リスみたいにちっこくて可愛い子じゃな〟と思ったのを思い出した実篤だ。

 実篤さねあつだって、最初はバースデーケーキということでロウソクが立てられる直径十二センチほどの四号サイズのホールケーキを買おうと思っていたのだ。

 それで一週間ばかり前、くるみが以前『うち、ここのケーキ、甘さが控えめで好きなんです』と話してくれた、『赤い窓フネト・ルージュ』というケーキ屋へバースデーケーキを予約するために訪れて。

 その時たまたまショーケースの中にこのリスのロールケーキがずらりと並んでいるのを見かけて、「これだ!」と心変わりしてしまった。

 ロールケーキ部分を尻尾に見立てているからだろうか。
 ひとつひとつのケーキ自体がそれほど大きくないから、甘いものが苦手な実篤でも何とか一個は食べられそうに見えたのも決め手になった。

 気が付けば、実篤は店員に向かって「このリスのケーキ、来週の十九日じゅうくんちに三つほど作り置きとか頼めたりしますかいね?」と問い掛けていた。

 だって、くるみと言えば、彼女が営んでいるパン屋『くるみの木』のロゴが〝大きな木の下に佇んだリスのシルエット〟であることを思い出したのだから仕方がないではないか。

 店員が、「お受けできますよ?」とにこやかに笑ってくれたのを見て、実篤はケーキとは別に数字の形をかたどった、大中小のロウソクの中から、小の方で2と5も一緒に買う決意をした。

 出会った時二十四歳だったくるみは、二十五歳になる――。


 実篤的には小さくていいと思ったこのリスのロールケーキだけど、甘いもの好きのくるみには物足りないかも知れないと思って、箱の中には人数より一つ余分に三つのロールケーキが入っている。


「ケーキは晩飯の後にするじゃろ? 一旦冷蔵庫ん中入れちょこうか」

 箱のふたを閉めながら実篤がくるみを見詰めたら、「はい」と応えて、くるみがすぐさま冷蔵庫の扉を開けてくれた。

 ケーキを買ってくることをあらかじめ伝えていたからだろう。

 冷蔵庫の中には、箱がすんなり入れられるスペースが空けられていた。
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