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12-1.嵐の前の静けさ*

ウサギとオオカミとリス

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「あーん。やっぱり可愛いです! ねぇ実篤さん。オオカミとウサギ。うちらの門出にぴったりなデザインじゃ、思いません?」

 だけどくるみにはそう見えているらしく、ニコニコと笑いながらご満悦で実篤を見上げてくるから。
 実篤は「そうほうじゃね」と答えるしかなくて。

 そればかりか、クイッとそで口を引っ張られて、「オオカミさん、オオカミさん。一緒に暮らせるようになれたら、たくさんうちを食べて下さいね」と小悪魔なことを言われてしまう。

 ケーキを手にしていなかったら「くるみちゃん!」と抱き締めていたところだ。

 さっき傾いたかも知れないと心配されたばかりのケーキを、これ以上危険な目に遭わせるわけにはいかないではないか。

 実篤は(くるみちゃん、もしかしてそれも計算ずくなん?)と思わずにはいられない。

 力を込めすぎて、ケーキの入った小箱の持ち手をクシャリと変形させてしまってから、実篤は(いかん、いかん)と小さく吐息を落とした。


「と、とりあえず! これ、台所で中を確認してみんと」

 グッと奥歯を噛みしめてくるみにそう提案すると、手にしたままの箱を掲げて見せて。

「あ。そうでした。……倒れちょらんことを祈っちょります」

 くるみの気持ちをケーキに向けることに成功した。


***


 テーブルの上。
 ケーキの入った箱をそっと開けてみたら、中身は無事だった。

 入っているケーキたちが、スペースの余った箱の中で動いたりしないためだろう。
 ケーキ屋が、あらかじめ丸めた厚紙を二個、ケーキのそばにテープ留めして倒れにくくしてくれていたのが功を奏していた。


かった。倒れちょらんかったよ」

 実篤さねあつがくるみの方を振り返って言ったら、すぐ横からヒョコッと箱の中を覗き込んだくるみが「やんっ。実篤さん! 何ですか、これ! 凄いぶち可愛いっ!」と悲鳴に似た驚嘆の声を上げた。

「うん。可愛かわゆぅて、くるみちゃんにぴったりじゃろ?」


 箱の中にはチョコレート生地とおぼしき小さめのロールケーキが三つ並んでいた。
 ロールの真ん中には生クリームがたっぷり入っていて、生地に巻かれていびつな勾玉模様を描いている。

 だけどそれはただのロールケーキではなくて。

 アーモンドを持ったリス型の愛くるしいクッキーが、ロールケーキにペタッと貼り付くように配置されているから。
 美味しそうなふわふわロールケーキ尻尾しっぽを持ったリスたちが、箱の中に三匹並んでいるように見えるのだ。
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