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6-4.焼けぼっくいに火はつくか?

今どこなん⁉︎

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「ごめんね。ちょい待ってね」

 実篤さねあつはくるみを抱き締める腕を緩めると携帯を手に取って。

鏡花きょうかじゃ」

 くるみにも分かるようにつぶやくと、唇に人差し指を当てる仕草で「しー」と声を出さないよう伝えて、スピーカー通話にする。

「もしもし?」

『あー、もう、お兄ちゃん! 至急で用とか何なん⁉︎ ろくでもない用事じゃったら私、怒るよ? 何かモテ期が到来したかも知れんけん、忙しいんじゃけ! これからくるみちゃんと合流して作戦も練らんといけんし。悪いんじゃけど手短に話して?』

 開口一番場違いなことを言って、声に棘を滲ませる鏡花に、実篤は小さく吐息を落とした。

 これには腕の中のくるみも、驚いた顔をして実篤を見上げてくる。

「あんなぁ、鏡花……」

 ――それ、きっと仕組まれた罠じゃけ、一旦落ち着き?

 そう続けようとして、実篤は慌てて口をつぐんだ。

 電話だと、周りに誰がいてどう言う状況でこの電話を掛けてきているのか分からないではないか、と気が付いたからだ。

 もしかしたら、今実篤がくるみにも聞こえるように、とスピーカー通話にしているように、鏡花の方も鬼塚側の指示でそうしていないとは限らないと思って。

「お前、その口振り! さてはくるみちゃんの具合がわるうなったん、知らんのんじゃろ? 俺、今くるみちゃんと一緒におるんじゃけど……」

 ――お前も来い。

 そう言おうと思ったら、やや食い気味に『ちょっ、今どこなん⁉︎』と鏡花きょうかが被せてきた。

 実篤さねあつは鏡花のその言葉を聞いて、(さすが俺の妹)と嬉しくなって。

 自分のチャンスよりも友人のピンチを優先しようとする鏡花のことが、兄として堪らなく誇らしく思えた実篤だ。


「とりあえず身支度整えてエレベーターん所に。迎えに行くけん」

 何があるか分からないし、なるべくならこの部屋の所在を知られたくない。

 警戒しながらそう言ったら、『はぁ? 迎えにって馬鹿なん? 弱っちょるくるみちゃんを一人にするとか有り得んじゃろ』とか。

 くるみが体調不良という設定にしてしまった現状で、いちいちごもっともな説教をしてくる鏡花に、実篤は小さく吐息を落とした。


「――あー、それほいじゃあ、電話繋いだまま一階ロビーまで来てきぃ? くるみちゃんと待っちょるけん」

(電話を切ったら鏡花が危のぉなるかも知れんけぇな)
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