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6-2.年末年始ハプニング②

凛々しい?

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「そんなん言われてもお前も同じようなモンじゃろぉーが」

「あらぁ~。お母さんはお父さんの笑顔、可愛かわゆ~て大好きじゃけどねぇ? まぁ二人とも上がって上がって」

(いや、今はここ、俺の家なんじゃけどね⁉︎)

 などと思った実篤さねあつを置き去りに、
「いや~俺、母さん似でホンマえかったわぁ~」
「私も!」
 各々に好きなことを言いながらゾロゾロと奥に入っていく栗野家くりのけの面々だ。

 玄関先に立ち尽くしたままそんな彼らを見送る形になったくるみと実篤だったけれど。


「くるみちゃん、大丈夫?」

 実篤がくるみの手をそっと引いて、靴を脱ごうと促したら、
「実篤さんのお父さんの笑顔。あんまりけん、うち、思わず見惚れちゃいましたよぅ。実篤さんはお父様似なんじゃね」
 とかくるみがつぶやくから、実篤はにわかに不安になる。

 まさかあの父親を〝かっこいい〟と言われる日が来ようとは。

「ちょっ、くるみちゃんっ⁉︎」

 靴を脱ぎ掛けで中途半端な体勢のまま眉根を寄せた実篤の顔をじっと見下ろすと、くるみが上がりかまちに腰掛けてスニーカーを脱ぎながらふふっと笑う。

それでもほいじゃけどうち、実篤さねあつさんのお顔が一番好きですけぇね? そぉやって不安そうにしてくれるんも、凄くぶち可愛いですし、とのギャップ萌えでキュンキュンきます」

 どうやら十人中九人は「怖い」と思う実篤(と父・連史郎れんしろう)の強面顔こわもてがおだけど、くるみには〝凛々りりしく〟見えているらしい。

 そのことにも驚いた実篤だったけれど、間近で真っ直ぐに見つめられて、「やっぱりうちは実篤さんのお顔が一番いっちばん大好きです!」と、再度しみじみド・ストレートに告げられた言葉が、実篤の心を鷲掴わしづかみにする。

「くるみちゃんっ」

 余りの愛しさに、くるみをギュッと抱きしめようとしたら、「お兄ちゃ~ん、くるみちゃ~ん、よぉ来んちゃーい! みんな腹ペコよぉ~?」と鏡花きょうかが廊下に顔を覗かせて。

 実篤はビクッとして、くるみに伸ばそうとしていた手を万歳するみたいにシュパッと跳ね上げた。

「うっわっ。何なん、その手! 何かイヤラし~!」

 途端何とも心外な捨て台詞を残して、ふすまがピシャリと閉ざされて。

 それを呆然と見つめる羽目になった実篤は、心の底から「くるみちゃんと二人きりがかったぁー!」と思ったのだった。
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