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36.終止符
責任転嫁
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***
離婚届を提出して、さあ帰ろうと車にエンジンをかけたところで。
「想ちゃん。私ね、偉央さんのご両親に……子供が産めない嫁は要らないって言われちゃった……」
結葉がポツンとつぶやいた。
「えっ。――何だよそれ。いつの話だ⁉︎」
そんなの初耳だった想だ。
思わず「いつ」とか責めるみたいに問いかけてしまって。
グッとハンドルを握りしめて、心の中に渦巻く激情を何とか逃そうと頑張る。
「――ちょっと前に。その……向こうの親御さんから私の携帯に電話がかかって……きたの」
結葉は山波建設宛に偉央からの荷物が届いてすぐ、偉央と離婚する様になるであろうことは伏せたまま、義理両親に連絡先が新しくなった旨を知らせたらしい。
「教えるかどうか迷ったんだけどね、キッズ携帯は通じないから……ご心配お掛けしちゃうかなって思って。それで――」
「だからってわざわざ」
「うん。想ちゃんの言いたい事も分かってるつもり。だから今まで言えずに黙ってたの。ごめんなさい」
しゅんとする結葉に、想は小さく吐息を落とす。
「俺の方こそ頭ごなしに否定しちまってすまん。多分……お前にはお前なりの考えがあってのことだったんだよな? ――ちゃんと聞くから。お前の思い、俺に聞かせてくれるか?」
想の言葉に、結葉がギュッと手指を握り締めたのが分かった。
「偉央さんが……。ご両親から私と連絡が取れないのはどう言うことか?って問い詰められたら面倒かなって思ったの。向こうのお母さん、昼間に時々家の方に電話くださってたから」
結葉は家を出てしまっていたから、それには出られない。きっとそれが続けばキッズ携帯に電話が掛かってくるはずで。
「あの携帯がどうなったのかは分からないけれど……。もし解約されていなかったとしても、私が出られないことに変わりはなかったから。家の電話にも携帯にも出られないとなったら……きっと色々変に思われるかなって思ったの」
偉央が下手に問い詰められて、離婚の危機にあるとあちらの両親にバレてしまったら。
もしかしたら偉央とゆっくり話し合う機会に恵まれなくなってしまうかも知れない、と考えてしまったのだと結葉は言った。
「もちろん、ご両親にも関係のあるお話だし。ずっと隠し通すつもりだったわけじゃないの。でも……ある程度は偉央さんとちゃんと話してからがいいって思っちゃったの。ワガママでごめんね」
眉根を寄せて悲しそうな顔をする結葉に、想は「何バカなことしてんだよ!」と思わないわけじゃない。
でも、そういう、どこか変なところで律儀なのが結葉だというのも分かっていたから。
喉元まで迫り上げてきたモヤモヤした気持ちを、顔に出さないようにしてグッと飲み込んだ。
それに、当人同士で話し合う前に第三者に出てこられたくないという気持ちだって分からないわけじゃない。
「それで……御庄さんには番号――」
「教えてない」
偉央の両親も、まさか息子が妻の連絡先を知らないなどと思いはしなかったのか、現状義理両親から偉央に結葉の携帯番号が漏れてしまった気配はないらしい。
だけど。
「落ち着いたら番号変えような?」
想は思わずそう言わずにはいられなかった。
「え、でも……想ちゃん」
「嫌だったんだろ? 向こうの親からの電話」
ぶっきら棒につぶやいたら、結葉が言葉に詰まったみたいに押し黙った。
結葉を傷つけるような電話が掛かってきた以上、愛しい結葉にその番号を持たせ続けるのは、正直想が嫌なのだ。
それに、一度あちら側に伝えてしまった番号が、いつ偉央に知られないとも言い切れないのが正直容認出来なかった想だ。
さっき、離婚届を提出した以上、結葉はもう偉央の妻ではない。
想としては二度と他の男に好き勝手されたくはないというのが本音なわけで。
おそらく偉央は自分の親が結葉にそんな酷い言葉を投げかけたことを知らないんだろう。
偉央のマンションや、結葉の実家での、数回に渡る話し合いの最中も、今日離婚届を出しに行った時も、偉央の口からそんな話は微塵も出なかったから。
きっと偉央は事務的に淡々と、結葉と離婚することになったと両親に伝えただけなんだと思う。
離婚の理由をどう話したのかまでは分からないけれど、偉央が誰に憚るでもなく、惜しみなく結葉に慰謝料などを渡そうとしたことから鑑みるに、離婚の原因は自分だから、みたいには話していたのだろう。
だが、さすがに、偉央だって自分の親に妻を監禁していたなんてことは言わなかったんじゃないだろうか。
実際結葉だって偉央の両親にはもちろん、自分の親たちにですら、まだそのことは言えていないみたいだし。
だけど――。いや、だからこそ――。
偉央の両親はきっと、結葉の方にこそ原因があると思いたかったんだろう。
離婚届を提出して、さあ帰ろうと車にエンジンをかけたところで。
「想ちゃん。私ね、偉央さんのご両親に……子供が産めない嫁は要らないって言われちゃった……」
結葉がポツンとつぶやいた。
「えっ。――何だよそれ。いつの話だ⁉︎」
そんなの初耳だった想だ。
思わず「いつ」とか責めるみたいに問いかけてしまって。
グッとハンドルを握りしめて、心の中に渦巻く激情を何とか逃そうと頑張る。
「――ちょっと前に。その……向こうの親御さんから私の携帯に電話がかかって……きたの」
結葉は山波建設宛に偉央からの荷物が届いてすぐ、偉央と離婚する様になるであろうことは伏せたまま、義理両親に連絡先が新しくなった旨を知らせたらしい。
「教えるかどうか迷ったんだけどね、キッズ携帯は通じないから……ご心配お掛けしちゃうかなって思って。それで――」
「だからってわざわざ」
「うん。想ちゃんの言いたい事も分かってるつもり。だから今まで言えずに黙ってたの。ごめんなさい」
しゅんとする結葉に、想は小さく吐息を落とす。
「俺の方こそ頭ごなしに否定しちまってすまん。多分……お前にはお前なりの考えがあってのことだったんだよな? ――ちゃんと聞くから。お前の思い、俺に聞かせてくれるか?」
想の言葉に、結葉がギュッと手指を握り締めたのが分かった。
「偉央さんが……。ご両親から私と連絡が取れないのはどう言うことか?って問い詰められたら面倒かなって思ったの。向こうのお母さん、昼間に時々家の方に電話くださってたから」
結葉は家を出てしまっていたから、それには出られない。きっとそれが続けばキッズ携帯に電話が掛かってくるはずで。
「あの携帯がどうなったのかは分からないけれど……。もし解約されていなかったとしても、私が出られないことに変わりはなかったから。家の電話にも携帯にも出られないとなったら……きっと色々変に思われるかなって思ったの」
偉央が下手に問い詰められて、離婚の危機にあるとあちらの両親にバレてしまったら。
もしかしたら偉央とゆっくり話し合う機会に恵まれなくなってしまうかも知れない、と考えてしまったのだと結葉は言った。
「もちろん、ご両親にも関係のあるお話だし。ずっと隠し通すつもりだったわけじゃないの。でも……ある程度は偉央さんとちゃんと話してからがいいって思っちゃったの。ワガママでごめんね」
眉根を寄せて悲しそうな顔をする結葉に、想は「何バカなことしてんだよ!」と思わないわけじゃない。
でも、そういう、どこか変なところで律儀なのが結葉だというのも分かっていたから。
喉元まで迫り上げてきたモヤモヤした気持ちを、顔に出さないようにしてグッと飲み込んだ。
それに、当人同士で話し合う前に第三者に出てこられたくないという気持ちだって分からないわけじゃない。
「それで……御庄さんには番号――」
「教えてない」
偉央の両親も、まさか息子が妻の連絡先を知らないなどと思いはしなかったのか、現状義理両親から偉央に結葉の携帯番号が漏れてしまった気配はないらしい。
だけど。
「落ち着いたら番号変えような?」
想は思わずそう言わずにはいられなかった。
「え、でも……想ちゃん」
「嫌だったんだろ? 向こうの親からの電話」
ぶっきら棒につぶやいたら、結葉が言葉に詰まったみたいに押し黙った。
結葉を傷つけるような電話が掛かってきた以上、愛しい結葉にその番号を持たせ続けるのは、正直想が嫌なのだ。
それに、一度あちら側に伝えてしまった番号が、いつ偉央に知られないとも言い切れないのが正直容認出来なかった想だ。
さっき、離婚届を提出した以上、結葉はもう偉央の妻ではない。
想としては二度と他の男に好き勝手されたくはないというのが本音なわけで。
おそらく偉央は自分の親が結葉にそんな酷い言葉を投げかけたことを知らないんだろう。
偉央のマンションや、結葉の実家での、数回に渡る話し合いの最中も、今日離婚届を出しに行った時も、偉央の口からそんな話は微塵も出なかったから。
きっと偉央は事務的に淡々と、結葉と離婚することになったと両親に伝えただけなんだと思う。
離婚の理由をどう話したのかまでは分からないけれど、偉央が誰に憚るでもなく、惜しみなく結葉に慰謝料などを渡そうとしたことから鑑みるに、離婚の原因は自分だから、みたいには話していたのだろう。
だが、さすがに、偉央だって自分の親に妻を監禁していたなんてことは言わなかったんじゃないだろうか。
実際結葉だって偉央の両親にはもちろん、自分の親たちにですら、まだそのことは言えていないみたいだし。
だけど――。いや、だからこそ――。
偉央の両親はきっと、結葉の方にこそ原因があると思いたかったんだろう。
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