【完結】【R18】結婚相手を間違えました

鷹槻れん

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30.山波家での生活

心配かけたくない気持ちは分かるけど

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***


 そうの実家にお世話になることが決まったので、夕飯の買い出しに行く必要はなくなった結葉ゆいはだったけれど。


そうちゃん、今日は何時頃にお仕事終わる?」

 アパートのベランダに干してきた洗濯物や、そうの布団のことが気になって仕方のない結葉ゆいはだ。

 早く取り込まないと、冷たくなってしまう。


 公宣きみのぶとともに昼食を食べに帰ってきたそうに、お茶を出しながらおずおずと問いかけたら、そうが「ん~。いつも大体十九時しちじ前後だけど……何か用事?」と結葉ゆいはを見つめてきて。

「そういや、今朝も同じ質問されたよな、俺」

 と思い出したように付け足した。

 朝は別のことを話しているうちに、何となくその辺りが有耶無耶うやむやになってしまったのだ。


「けど……食材の買い出しはもう必要ねぇよな? もしかして他にどっか行きたいトコ出来た?」

 実家に身を寄せることになったのだから、アパートの方の食材を増やす必要はない。
 至極もっともなそうの問いかけに、

「あ、あのね、洗濯物とお布団のことが気になっちゃってて」

 結葉ゆいはがソワソワしながら応えたら、昼前に自分を迎えに来てくれた時に見たんだろう。

「そういや干してあったな」

 とそうがつぶやいて「あんま遅くなったら冷えちまうか」と眉根を寄せる。


「いまから行って来ればいいじゃないか」

 今まで黙ってそう結葉ゆいはのやりとりを聞いていた公宣きみのぶが、不意に二人の会話に割り込んできた。


「洗濯物も気になるかもしれないけど。それより何より二人とも取って来たい物もあるんじゃないのか? そう。お前、どのみち今日はいまから現場へ行っても中途半端になるだろうし、有給取って引っ越しの手配をしてきたらどうだ?」

「いや、けど……俺、昨日も」

 そうは何だかんだで昨日も休んでしまっている。

 それを気にしているらしい。


「じゃあそうの代わりに父さんが結葉ゆいはちゃんと行ってこようかな」

 そんな息子の迷いを逆手に取るようにクスッと笑うと、公宣がそう言って。

 途端そうが、カラン、とスプーンから手を離して「俺っ!」と声を張った。

「……考えてみたら有給余りまくってるし、使うことにするわ」

 そうが不機嫌そうにそっぽを向いて吐き捨てるのを見て、結葉ゆいはは何だか申し訳ない気持ちになる。

 でも――。


「もぉ~。そうして貰わないとお母さんがゆいちゃんにヤキモチ妬いちゃうところだったわぁ~」

 今まで黙って三人のやりとりを見ていた純子がわざとらしくぷぅ~っと頬を膨らませて参戦してきて、公宣が「あああっ、純子ぉ、ごめんっ!」「分かってくれればいいのよ、公宣さんっ♡」と三文芝居を繰り広げ始めてしまい、口を挟む機会を逸してしまった。

「恥ずかしいからやめろ、バカ夫婦」

 そうがチッと舌打ちしてそんな両親を睨みつけて。

 結葉ゆいはは逆に、こんな風に笑い合える夫婦っていいな、とうらやましくなる。


(お父さんとお母さん、どうしてるかな)

 ふとアメリカに行った両親のことを思い出した結葉ゆいはは、それと同時、偉央いおとのことを二人に話さないといけないな、と思って小さく吐息を落として。

結葉ゆいは?」

 そんな結葉ゆいはにいち早く気付いたそうから心配そうに声を掛けられてしまう。

 結葉ゆいははちょっと迷って、「お父さんとお母さんに偉央いおさんのこと、どう伝えようかなって考えてたの……」と、素直に思っていたことを吐き出した。

 今までの自分だったらきっと。「何でもないよ」と笑って誤魔化していただろうな、と思いながら。



***



「心配かけたくない気持ちは分かるけど……親はいつだって子供には甘えて欲しいものなのよ?」

 結葉ゆいはの言葉を聞くとはなしに小耳に挟んだのだろう。

 今までキャッキャ言って公宣と笑い合っていた純子が、結葉ゆいはの肩にポンと手を載せて来た。

 その温かな手のひらの感触に思わず結葉ゆいはがすぐ隣に座る純子を見詰めたらふんわりした微笑みを返された。


「その通りだよ、結葉ゆいはちゃん。私だってそうせりが悩んでいるなら一緒に考えたいって思う」

 そんな純子に、公宣がすぐ参戦してきて。

 結葉ゆいははその声に導かれるように純子の真向かいに座る公宣に視線を転じた。


「一番悲しいのはね、何も相談されないままに事後報告されることだからね」

 結葉ゆいはの視線を真っ向から受け止めた公宣がそう言って、純子が「そうそう」とそれに同調する。

 結葉ゆいはは小さく吐息を落とすと、二人にゆっくりと頷いた。



***



 そうはそんな結葉ゆいはを彼女の正面の席で黙って見ていたけれど。

「ま、だからって今すぐどうこうしろって話じゃねぇと思うぞ」

 と、思い詰めた様子の結葉ゆいはに助け舟を出してやる。


「要は御庄みしょうさんと決着ケリを付けるまでに相談すればいいだけだろ? ――余り深刻に考えるな」


 実際にはそうにだって偉央いおから新しいリアクションが起こされたら、それを元にご両親に相談したほうが良いだろうと言うのは分かっている。


 きっとその方が、結葉ゆいはが一人で悶々と考えたり、結婚したこともない自分がアレコレアドバイスをするよりも実りがあるはずだから。


 そう考えると、それほど時間は残されていないのかも知れない。

 それでも――。


 そうはつい先日旦那の元を逃げてきたばかりの傷付いた結葉ゆいはに、もう少しだけ心を休めて欲しいと思ったのだ。


そう。そうは言ってもそれほど時間は――」


 公宣きみのぶが何か言いたげに言葉を紡ごうとするのを、視線だけで制すると、そうは食べ終わった皿を手に立ち上がる。


 流しにそれを持って行くついで、同じく食べ終えている様子の結葉ゆいはの手を引いて立たせると、「皿、洗ったら出よっか?」と優しく声を掛けて。


そうちゃ……」

 結葉ゆいはそうに導かれるままふらふらと流しに横並びに立って、今にも泣き出しそうな顔で自分を見上げてくるのをポンポンと頭を撫でてなだめる。

 そうしながら、「大丈夫だから」と、自分でも何が大丈夫なのか分からないままに言ってしまっていたそうだったけれど。

 結葉ゆいははそんなそうの言葉に救われたみたいに「うん……」と淡く微笑むと、そうの手の感触に身を委ねるようにしばらくの間、目を閉じていた。
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