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11.両親からの連絡
結葉の変調
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***
最近結葉は偉央が不在の日中に、家の電話が鳴るとビクッとするようになってしまった。
別に着信に関しては受け身なわけで、どこから掛かってこようと結葉に責任はないのだけれど、受けた電話の内容によっては先日の琳奈との時みたいに結葉自身も全くの無傷ではいられないことがあるからだ。
ひとえに相手から強く出られてしまうと押し切られてしまう自分の不甲斐なさが悪いのだけれど、ナンバーディスプレイに表示される番号が親族以外だとつい居留守を使いたくなってしまう。
***
偉央がマンションを出て道路を挟んだ向かいにある『みしょう動物病院』に出勤していくのは、診察開始時刻の九時より一時間前の八時ちょっと前。
「結葉、行ってくるね。――今日はどこにも出かける予定はなかったよね?」
偉央の見送りのために玄関先まで出た結葉に軽く口付けて、偉央がそう確認を取ってくる。
「はい」
日がな一日、家事以外にこれといった予定はないけれど、このところぼんやりしていたら偉央の帰宅時刻が迫っていて慌てるということがままあるようになってしまった。
自分でも良くない気がするけれど、ではどうしたらいいかと考えるとこれといった対処法が思い浮かばない結葉だ。
このままだと精神を病んでしまいそう、という懸念は漠然とした不安として常に頭の片隅にあって。
「……あ、あのっ」
偉央が玄関扉を開けたところで、結葉が思わず声を掛けてしまったのは、そういう曖昧模糊とした恐怖心がピークに達してしまったからかも知れない。
***
出掛けに妻から呼び止められることなんて滅多にないから、少し怪訝に感じてしまった偉央だ。
「ん? どうしたの?」
扉に手を掛けたまま、努めて優しく聞こえるよう気をつけながら問い掛けて、ゆっくりと結葉を振り返った。
結葉が、そんな偉央を見詰めながら恐る恐ると言った具合に口を開く。
「わ、私っ、今日は予定がないので実家に遊びに行って来たいなって思ってしまったんですけど……いいですか?」
まるで悪いことを思いついてしまったと言わんばかりの口振りでそう言った結葉の顔に、「今日は誰かと一緒に過ごしたいんです」と書かれている気がした偉央だ。
結葉が実家に遊びに行けば、仕事をしている彼女の父・茂雄は無理だとしても、専業主婦の母・美鳥には会えるだろう。
「人恋しくなっちゃった?」
偉央だって馬鹿じゃない。
基本家に閉じ込めてしまっている愛しい妻が、たまには自分以外の誰かと会話をしなければいずれ変調をきたしてしまうだろうことは想定の範囲内で。
結葉を自分の思い通りになるよう支配したいし、実際そうしている偉央だけど、彼女のことを大切に思っているのは確かだったから。
結葉を病ませてしまうことは、偉央にとっても本意ではない。
偉央を泣きそうな顔で見つめて来る結葉をギュッと抱きしめると、
「昼休みに迎えに来るから。出られる様に支度しておいて?」
そう言って結葉の額にやんわりとキスを落とす。
「お義母さんにもお昼過ぎに行きますってちゃんと電話しておくんだよ? せっかく行っても会えなかったら意味ないからね」
そっと結葉の顔を覗き込めば、彼女が「電話」という単語にビクッと身体を震わせたのが分かって。
偉央は静かに
「それとも僕からお伝えしておこうか?」
と付け加えてみた。
途端、結葉がすがる様な目で偉央を見上げて「お願い……できますか?」と声を震わせた。
最近結葉は偉央が不在の日中に、家の電話が鳴るとビクッとするようになってしまった。
別に着信に関しては受け身なわけで、どこから掛かってこようと結葉に責任はないのだけれど、受けた電話の内容によっては先日の琳奈との時みたいに結葉自身も全くの無傷ではいられないことがあるからだ。
ひとえに相手から強く出られてしまうと押し切られてしまう自分の不甲斐なさが悪いのだけれど、ナンバーディスプレイに表示される番号が親族以外だとつい居留守を使いたくなってしまう。
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偉央がマンションを出て道路を挟んだ向かいにある『みしょう動物病院』に出勤していくのは、診察開始時刻の九時より一時間前の八時ちょっと前。
「結葉、行ってくるね。――今日はどこにも出かける予定はなかったよね?」
偉央の見送りのために玄関先まで出た結葉に軽く口付けて、偉央がそう確認を取ってくる。
「はい」
日がな一日、家事以外にこれといった予定はないけれど、このところぼんやりしていたら偉央の帰宅時刻が迫っていて慌てるということがままあるようになってしまった。
自分でも良くない気がするけれど、ではどうしたらいいかと考えるとこれといった対処法が思い浮かばない結葉だ。
このままだと精神を病んでしまいそう、という懸念は漠然とした不安として常に頭の片隅にあって。
「……あ、あのっ」
偉央が玄関扉を開けたところで、結葉が思わず声を掛けてしまったのは、そういう曖昧模糊とした恐怖心がピークに達してしまったからかも知れない。
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出掛けに妻から呼び止められることなんて滅多にないから、少し怪訝に感じてしまった偉央だ。
「ん? どうしたの?」
扉に手を掛けたまま、努めて優しく聞こえるよう気をつけながら問い掛けて、ゆっくりと結葉を振り返った。
結葉が、そんな偉央を見詰めながら恐る恐ると言った具合に口を開く。
「わ、私っ、今日は予定がないので実家に遊びに行って来たいなって思ってしまったんですけど……いいですか?」
まるで悪いことを思いついてしまったと言わんばかりの口振りでそう言った結葉の顔に、「今日は誰かと一緒に過ごしたいんです」と書かれている気がした偉央だ。
結葉が実家に遊びに行けば、仕事をしている彼女の父・茂雄は無理だとしても、専業主婦の母・美鳥には会えるだろう。
「人恋しくなっちゃった?」
偉央だって馬鹿じゃない。
基本家に閉じ込めてしまっている愛しい妻が、たまには自分以外の誰かと会話をしなければいずれ変調をきたしてしまうだろうことは想定の範囲内で。
結葉を自分の思い通りになるよう支配したいし、実際そうしている偉央だけど、彼女のことを大切に思っているのは確かだったから。
結葉を病ませてしまうことは、偉央にとっても本意ではない。
偉央を泣きそうな顔で見つめて来る結葉をギュッと抱きしめると、
「昼休みに迎えに来るから。出られる様に支度しておいて?」
そう言って結葉の額にやんわりとキスを落とす。
「お義母さんにもお昼過ぎに行きますってちゃんと電話しておくんだよ? せっかく行っても会えなかったら意味ないからね」
そっと結葉の顔を覗き込めば、彼女が「電話」という単語にビクッと身体を震わせたのが分かって。
偉央は静かに
「それとも僕からお伝えしておこうか?」
と付け加えてみた。
途端、結葉がすがる様な目で偉央を見上げて「お願い……できますか?」と声を震わせた。
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