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月曜の朝

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 月曜日の朝――。

「おはようございます、藤原ふじわらさん」
 市役所の裏側に当たる西エントランスをくぐり抜けたところで、高橋たかはしさんに声をかけられた。

「あ。おはようございます」
 金曜の夜に修太郎しゅうたろうさんと色々あって…正直どんな顔をしてお会いしたらいいのか……ほんのちょっと戸惑っていた私は、都市計画課のフロアへ一人で入らなくて良くなったことにほんの少しホッとする。

 とはいえ、高橋さんは公園緑地係うちの係とは離れた島の道路整備推進係所属。都市計画課へ入る入り口も、高橋さんは北扉を、私は南扉を使ったほうが近い。

(高橋さんと一緒に北扉から入ったら、修太郎さんに変に思われてしまうかな)
 そう思いながらも、私は何となく高橋さんについて、いつも向かう階段ではなく、北側入り口側に近い階段に向かってしまう。

「せっかくなのでご一緒させていただいてもかまいませんか?」
 そう問いかけると、高橋さんは「大歓迎です」と言ってくださった。

「……そういえば藤原さん、週末は公園緑地係係のほうで歓迎会があったんでしょう?」
 階段を昇り始めると、しばらくして高橋さんが何でもないことのようにそう聞いていらして。
「あ、はいっ」
 内心ドキッとしながらも、私は平静へいせいを装ってそう返した。
(声、震えてなかったかな)
 高橋さんは妙に鋭いところのある方だ。何か気付かれてしまったんじゃないかとドキドキしたけれど、歩きながらの会話がよかったのか、息が少し弾んでいたことに助けられて気付かれなかったみたい。

「ちゃんと早く帰してもらえました?」
 藤原さんのところ、男性ばかりだから……と兄が妹を心配するような口ぶりで、高橋さんが笑いかけていらして。
 私は彼の笑顔がまぶしくて、思わず視線をそらしてしまう。
「……えっと、しゅ…塚田つかださんがタクシーで送ってくださって……23時過ぎには帰宅できました」

 これは……嘘ではない。

 あのあと修太郎さんのマンションから、彼が呼んでくださったタクシーで自宅まで送っていただいた。

 タクシーくらい一人で乗れるのに、「こんな夜更けに大事な貴女を一人で帰らせるわけにはいきません」と言われて、ついには実家の門扉もんぴをくぐるところまで見届けられた。
(そういえばあの時、私はちゃんと運転手さんに自宅の住所を伝えられたのかな)
 何だかその辺の記憶が曖昧だったけれど、無事に家にたどり着けたところをみると、恐らく言えたんだと思う。
(修太郎さんは私の自宅をご存知なかったはずだし……)
 履歴書には住所などを明記しておいたけれど、いくら修太郎さんが優秀な方でも、まさかそんなのを暗記しておられるはずはない。

 タクシーの降りぎわにお財布を出そうとしたら制されてしまったので……結局修太郎さんには往復の運賃がかかることになってしまったと思う。何だかすごく申し訳なかった。

 そこまで思い浮かべて、ふと修太郎さんから、タクシーの中で「難しいかもしれませんが、頑張って例の約束を取り付けてくださいね」と何度も念押しされたのを思い出す。

 それなのに――。週末には勇気が出せなくて……私は健二けんじさんに何のリアクションも起こせていなかった。
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