【完結】【R18】キス先① あなたに、キスのその先を。

鷹槻れん(鷹槻うなの)

文字の大きさ
上 下
30 / 233
月曜の朝

2

しおりを挟む
 自分の不甲斐ふがいなさに思わず溜息をついたら、高橋たかはしさんにきょとんとされた。

藤原ふじわらさん。もしかして……飲みすぎちゃって今日の出勤、みんなに顔合わせづらいとか思って気鬱きうつになったりしてます?」

 あー、だから俺と一緒に都市計としけいに入ろうとしてるのかぁ~!と冗談めかして笑われたけれど、違いますとも言えなくて。私は曖昧に微笑む。

「あ、もしかして……図星でした?」
 途端、心配そうに声をかけられて、私は修太郎しゅうたろうさんだけじゃなく、林さんや森重さんとも顔が会わせづらい状態だったことを思い出す。そうして、それを高橋さんに指摘されるまで失念していた自分のことが怖くなった。

 どれだけ私の中で修太郎さんのウェイトが高まっているのかを思い知らされた。


 これは……気をつけないと、うっかり「修太郎さん」と呼びかけてしまいそう。その点、修太郎さんはそういうところの切り替えはそつがない印象だから……私が気をつけてさえいれば安泰なんだろうな。

 そう思ったら、思わず
「……実は、図星です。どうしたらいいでしょう?」
 修太郎さんとのことを勘ぐられるよりはいいかな?と思って口早にそう言ってしまっていた。

 それに対して、高橋さんは間髪かんぱついれずに「いつも通りでいいっしょ?」と言ってくださって。
 その迷いのない答えに、思わず「え?」と聞き返したら、「だって酒の席でのことでしょ?」と言われて。
 そうですね、と小さくうなずいたら「だったら無礼講ぶれいこうだし相手も何も言ってきやしませんって。いつも通りおはようございまーす!って堂々と挨拶してやりゃーいいんですよ」とにやりと笑いかけていらっしゃる。

「有難うございます、そうします!」
 高橋さんの笑顔に釣られて微笑みながら、私は下で偶然、彼と出会えたことに感謝した。

 修太郎さんにも、変に気負わずいつも通りでいこう。
 そう思えたから。

 でも――。

***

「おはようございます」

 高橋さんの後ろから、あまり目立たないように気をつけながら都市計画課のフロアに入る。公園緑地係に至るまでにある各係の横を、皆さんにご挨拶しながら通り抜けていると、そんな私の様子に気がついた修太郎さんが、一瞬あからさまに不機嫌そうなお顔をなさった。

 林さんと森重さんは現場に出る支度したくのため、すでに地下にある車両置き場に向かわれたようで、うちの係には修太郎さんしか残っておられなかった。

 ある意味、そういうのも含めていつも通りの朝の様子。
 そう――。修太郎さんの、どこか剣呑けんのんとした雰囲気を除けば。

 私は修太郎さんの刺々しい視線に戸惑いながら、「おはようございます」と挨拶をする。もしかするとスルーされてしまうかも?と覚悟していたけれど、「おはようございます」と返事はしてくださった。でも、やはり何かピリピリしていらして。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

包んで、重ねて ~歳の差夫婦の極甘新婚生活~

吉沢 月見
恋愛
ひたすら妻を溺愛する夫は50歳の仕事人間の服飾デザイナー、新妻は23歳元モデル。 結婚をして、毎日一緒にいるから、君を愛して君に愛されることが本当に嬉しい。 何もできない妻に料理を教え、君からは愛を教わる。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる

Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。 でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。 彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。

【完結】誰にも知られては、いけない私の好きな人。

真守 輪
恋愛
年下の恋人を持つ図書館司書のわたし。 地味でメンヘラなわたしに対して、高校生の恋人は顔も頭もイイが、嫉妬深くて性格と愛情表現が歪みまくっている。 ドSな彼に振り回されるわたしの日常。でも、そんな関係も長くは続かない。わたしたちの関係が、彼の学校に知られた時、わたしは断罪されるから……。 イラスト提供 千里さま

溺愛社長の欲求からは逃れられない

鳴宮鶉子
恋愛
溺愛社長の欲求からは逃れられない

処理中です...