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番外編 初めてのクリスマス

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「それでは、今日の報告を聞かせてもらえるかな?」
「はい。本日もユリウス様は屋敷から一歩も出ることなく、穏やかに過ごされておりました。午前は研究室で魔法薬の研究を、午後は厨房を訪ねておられましたよ」

 ロイドからの報告を受けながらも、念のため敷地の外周に張り巡らせた魔力の糸を辿って切れていないことを確認する。

「そっか。良い子にしていたのなら、あとでご褒美をあげないとね」

 ここに引っ越してきて約3か月。今日も俺の手の中にいてくれたことに安堵した。
 この屋敷はユーリを閉じ込める『鳥籠』になるように作った。ユーリを飽きさせないよう、一通りの設備を作ったし、欲しいと言われたものは何でも用意している。しかし、別に監禁しているわけではない。屋敷の門は開いているし、鍵もかかっていない。だから、ユーリが出ようと思えば簡単に出られるのだ。
 この屋敷を世界から切り離して完全にユーリを閉じ込めるなんてことも、魔王を倒しその魔力を吸収した俺になら容易いだろう。だが、俺はユーリに選ばれたかった。だから外に出るという選択肢を残すという意味で、いつも門は開けてある。それでいてユーリに選ばれないかもしれないと思うと怖くて、いくつもの方法でユーリを縛り付けた。
 屋敷を囲むようにして作った魔力の檻、社会的な方法としての結婚。その証として渡した指輪に仕込んだ術式を使えば、たとえ指輪を外されたとしてもユーリの存在を辿ることが可能だ。もし一方的に契約を切られ、ここから逃げ出したとしても捕まえてみせる。どんな世界の果て、地の底へ逃げたとしても、絶対に。捕まえたらどれだけユーリが嫌がっても逃がさない。その時こそ、この屋敷が本当に『鳥籠』になる――

「どうやらお疲れのようですね。疲れに効くハーブティーを淹れました。ユリウス様が調合したものです」

 掛けられた声とふわりと香るハーブの爽やかな香りに、沈みかけていた思考が引き戻される。目の前に置かれた温かい湯気を立てるカップには、薄緑の液体が注がれていた。

「ありがとう。いただくよ」

 今のように悪い思考に耽ってしうのは俺の悪い癖だ。ユーリを信じていない訳ではない……と頭では思っているのだが、心のどこかでは信じていないのだろう。信じきれないか試すようなことをしてしまうし、逃げられた時のために二重三重の対策を講じているのだ。

「そういえば、もうすぐクリスマスですね。ウィルヘルム様はどのように過ごされるのですか?」
「クリスマス?……そうか」

 このゲームは日本のゲームらしく、毎年季節のイベントがあった。正月、バレンタイン、夏の水着イベント、ハロウィン……当然、クリスマスもだ。この世界にキリスト教なんて無いのに、当然のようにクリスマスは存在した。

「教えて欲しいんだけど、クリスマスって普通どう過ごすのかな」

 この世界に生まれてから、俺はクリスマスを意識したことが無かった。物心ついたころから過ごしていた教会ではクリスマスに限らず季節の行事なんて無かったし、教会を出た後は勇者としての仕事が忙しくてユーリのこと以外を考える余裕は無かった。去年の今頃はユーリにコンタクトを取ろうと必死で年末年始も無く飛び回っていたっけ。
 俺の問いにロイドは僅かに眉根を寄せると、すぐにいつもの笑顔に戻った。

「そうですね……家族や恋人など、大切な人と過ごす人が多いと思います。家で過ごす人もいれば降星祭に出かける人もいるでしょうね。特に24日の夜から25日にかけての時間を共にした恋人同士は強い絆で結ばれると言われていますから、ウィルヘルム様もいつも通りユリウス様と過ごされれば良いかと」

 なるほど。ロイドは言葉を選んでくれたが、前世の大衆化したクリスマスと大して変わらないようだ。ちなみに降星祭とはクリスマスに合わせて開催される祭りで、地面にランプを置くことで星が降って来たような光景を作る祭りだった筈だ。ゲームのイベントカードで見た覚えがある。

「じゃあロイドは番と一緒に過ごすんだ」
「ええ……そのつもりです」

 番を思い浮かべたのか、ロイドは頬を染めながらうなじに手を当てた。

「じゃあ24日と25日は全員休みにしようか」
「えっ、良いのですか……?」
「もちろん。みんな番と過ごしたいだろうし、いつも良くしてもらっているからね」
「ありがとうございます。皆喜ぶと思います」

 ユーリに恋慕する奴が現れないように、この屋敷の使用人は全員番持ちで揃えた。この世界の獣人には番と呼ばれる運命の相手がいるらしく、番になると互い以外の存在に惹かれることは無くなるそうだ。番同士はフェロモンで感知することができ、獣人同士だけでなく獣人と人間が番になることもある。ロイドは獣人にうなじを噛まれ番となった人間だ。

「……人間と魔族でも番になれるのかな」
「聞いたことはありませんが……ウィルヘルム様とユリウス様なら番にならなくても問題ないでしょう」
「番になれば安心できるじゃないか」

 番という揺ぎ無い関係になれたのなら、今みたいに心変わりに怯えなくて良いだろう。だが、ロイドは否定するように頭を振った。

「時折思うのです。私のこの気持ちは本物なのか。番の本能に植え付けられたまがい物ではないのか、と。番になる前は確かに愛していました。それははっきり覚えています。ですが、あの時の気持ちは今のような身を焦がすようなものではありませんでした。もっと穏やかで、春の陽だまりのような……」

 ロイドは俺を真っ直ぐ見つめると、目を細めた。

「番でなくても深く愛し合う、お二人が羨ましいですよ」

 泣きそうにも見えるような表情で言われると、何も言い返せなかった。どうやら俺が思うよりずっと、番というものは複雑な関係らしい。





 クリスマスイブ当日。雪がしんしんと降り積もる、静かな朝を迎えた。いつも通り俺が作った朝食を二人で食べる。今日と明日、この屋敷には二人しかいない。俺の仕事も無いから、ずっと一緒に居られる。後片付けを済ませリビングに戻ると、ユーリは窓の外を眺めていた。

「沢山積もったな!」

 楽しげに笑うユーリに、微笑ましい気持ちになる。魔界は雪が降らないらしい。初めて雪に触れた時、ユーリは子供のようにはしゃいでいて、せがまれるままに二人で大きな雪だるまを作った。その雪だるまは今でも庭にあるが、昨晩からの積雪で随分といびつな形になってしまったようだった。

「この調子なら明日は立派なほわいとくりすます、になりそうだな」
「魔界にもクリスマスってあったの?」
「いや、無かった。だが知っているぞ。さんたくろーすという人間が子供にプレゼントを配る日だろう?」

 そう言ってユーリは得意げに鼻を鳴らした。ここに住むようになってから、ユーリは積極的に人間の文化を学んでいるようだった。書庫にはこの国の文化に関する本が沢山ある。空いた時間にそれを読むのが楽しいのだと、笑って言っていたっけ。

「そう、それもクリスマスの一面だね。でも、クリスマスはそれだけの日じゃないんだ。愛する人と共に過ごすと、永遠の絆で結ばれるって言われてるんだよ」
「そうなのか。それは難儀だな」

 だから一緒に過ごそう――そう続けようとした言葉はユーリの一言で途切れた。何が難儀なのだろうとユーリの目を見つめると、ユーリは美しい金の目を細めて笑った。

「俺たちはそんなものに頼らなくても永遠の絆で結ばれているじゃないか」
「……本当にそう思ってる?」

 本音がポロリと零れた。生き物である以上、人も魔族も心は移ろう。永遠の絆なんて、今だけのまやかしに過ぎないのではないか。俺より魅力的な存在が現れた時ユーリが心変わりしないだなんて、そんな保障がどこにあるのだろうか。
 そんな俺の心配をよそに、ユーリはさも当然といった感じで答えた。

「当たり前だろう。俺がウィル以外を見る事なんて無いし、ウィルも俺以外に目を向けたりなどしないだろう?」

 ユーリの白い手が俺の頬を包んだ。

「俺にとってウィル以上の存在なんてあり得ない。ウィルにとっても、俺以上のものなんて無い。それが答えだ」

 自信満々な言いっぷりに思わず笑みが零れた。ユーリは俺の愛を信じてくれている。俺への愛も。その様子に、心の中の黒い澱みが薄らいでいく気がした。

「そうだね。ユーリの言う通りだ」

 ちゅっ、と唇に触れるだけのキスを落として黒髪を撫でると、ユーリもキスを返してくれた。

「そうだ。クリスマスには特別な衣装があるんだよ。ユーリの為に用意したから、着てくれないかな」
「ウィルが用意してくれたものなら何でも着るぞ」

 満面の笑みを浮かべながら何でもだなんて言い切ってしまうのは無防備すぎるんじゃないかとは思うが、それだけ俺の事を信頼してくれている証でもあると思うと嬉しくもある。しかしクローゼットから取り出したその服を手渡すと、ユーリの表情は固まってしまった。

「……何でも着る、とは言ったが。……変わった服だな」
「ユーリなら絶対に合うと思うんだ」

 戸惑い恥じらうユーリを宥めすかして、手取り足取り着替えを進めた。





「これで合っているのか?……変じゃないか?」

 着替え終わったユーリの姿は、想像以上のものだった。細身の赤いサンタワンピースはユーリの身体にぴたりと貼り付き、胸と腰の凹凸が露になっている。短いスカートの裾から伸びるしなやかな脚は大部分が黒のサイハイソックスで覆われ、スカートと靴下の僅かな隙間に覗く素肌を悩まし気に強調している。ケープの下に見える大きく開いた白い胸元には昨晩の情事の跡がくっきりと残っていた。

「それはクリスマスの主役、サンタクロースをイメージしてるんだ。とっても良く似合ってるよ」

 本当か?などと言いながら頬を赤らめる様子がたまらなく愛おしい。思うまま何度も褒めると、ユーリは次第に満足気な表情になった。

「そうか。人間の美醜感覚はよく分からないが、ウィルが喜んでくれたのなら俺も嬉しい」

 俺だけに向けられる裏表のない笑顔と来ている服の艶めかしさとのギャップに、たまらずユーリの細い腰を抱き寄せる

「今日は一日ゆっくりしよう。二人きりで、ね」

 耳元でそう囁いて、転移で庭に移動した。

「ここは……」
「庭のガゼボだよ」

 魔術がかけてあるから、こんなに雪が積もっていてもガゼボの中はしっかり温かい。ユーリは物珍しそうに周囲を見回していた。

「こうして雪の中から眺めるのもなかなか面白いでしょ?」
「確かに絶景だな」

 白いガゼボは、周囲一面の白い雪に溶け込むように立っていた。花が咲き誇っていた花壇も、それを映していた池も、すべてが雪の下に埋まり、その形を僅かに浮き立たせているのみだった。俺とユーリ以外、何の気配もない。雪が降り積もる音さえ聞こえてきそうなほどの静寂だった。

「世界に二人だけしかいないみたいだ」
「寂しいか?」
「いや、むしろ嬉しいくらいだよ」

 向かい合うようにユーリを膝の上に跨らせ、抱き合いながらキスをした。

「んっ……ふっ、……ちゅ」

 唇を割り入り、舌を絡めとる。ずりずりと粘膜を擦りあわせながら唾液をかき混ぜると、ユーリの呼吸は次第に荒くなっていった。

「っは、」

 最後に唇を舐めて離れると、ユーリはくたりと寄りかかって来た。

「そのうちキスでイけるようになっちゃうんじゃない?」
「そんな、こと……っ!」
「あるでしょ。ここ、こんなにカチカチだもんね」

 布越しに擦ったユーリのチンポは、既に硬く張りつめながらスカートの裾を押し上げていた。ユーリは俺の手に擦り付けるように腰を揺らした。

「ぁ……んっ、もっと……触って……」
「エッロ……」

 手をどけるとユーリは不満げに口を尖らせた。

「でも駄目。キスでイけるよう頑張ってみようね」

 怯えと期待が混ざったようなユーリの視線を受け流して、深く口付ける。舌先でゆっくり口腔内を刺激すると、ユーリはぎゅっと俺の服にしがみついた。

「ふっ……ちゅ、んっ……」

 キスを交わしながらユーリは大きく股を開き、俺のチンポに自身を押し当てて夢中で腰を振っていた。ビクビクと震える身体と水たまりが出来そうなほどのカウパーに、ユーリの絶頂が近いことを感じ取る。最後の一押しとばかりに逃げられないよう後頭部を掴み、口内を蹂躙しながら逆の手の指先でつうっと背筋を辿った。

「っっ!!!~~~~!!!!」

 その指が尾てい骨に届いたとき、ユーリは口を塞がれたまま声にならない悲鳴を上げて、全身をガクガク震わせながら射精した。下着の縁からはみ出したチンポから流れ出た白濁が、トロトロと垂れ落ち俺の服を汚した。

「っは、はぁっ、はっ……」

 唇を離すとユーリは口を薄く開き、快楽の余韻を味わっているようだった。

「自分で擦り付けてくるなんて、ユーリは淫乱だね」
「ぅ……だって……」
「ああ、服も下着も汚れちゃったね」

 ワンピースに合わせて用意した小さい下着は、もう既にその機能を果たしていなかった。少ない面積の布の端からはユーリの玉もチンポも完全にはみ出していた。ユーリは俺に見せつけるように下着を脱ぐと、床に投げ捨てた。スカートをたくし上げながら、反対の手で器用に俺のチンポを取りだすと、媚びるように撫でた。

「ね、ウィル……ウィルが、欲しい」

 抱き寄せて首筋に赤い印を付けてから、優しくベンチへ押し倒した。

「何が欲しいの?前に教えた通りに言ってごらん」
「ぅ……分かった」

 ユーリは顔を赤らめながら暫く躊躇っていたが、やがて観念したように膝裏に手をやり、大きく足を開いた。硬さを取り戻したチンポも、愛らしい玉も、その奥に潜むふわとろ縦割れアナルも丸見えだ。ユーリは更に指で尻たぶを割り開き、アナルに洗浄魔術をかけながら俺を見上げた。

「……ウィルの、おちんちん、を……俺の、淫乱雄まんこに挿れて……っ!」
「良く出来ました」

 バキバキに硬くなったチンポにローションを纏わせると、そのまま根元まで押し込む。ごちゅりと肉を抉りながら、一気に結腸の先までぶち抜いた。

「あっ!やっ、おく、……!」

 甘イキしたユーリをそのままに、こんどはねっとりと、肉壁を舐めるように引き抜く。

「あっ、はぁ、ああっ、きもちい……」
「ユーリのここ、すっかり俺の形を覚えたね」

 限界まで引き抜くと、再び一気に押し込んだ。

「いっ、あんっ!!」

 今度はしっかり中イキしたらしいユーリは、体を震わせて首を仰け反らせながら快楽に浸っていた。間髪入れず、荒々しく腰を打ち付ける。

「あっ、まっ!イった!イったからぁ!!」

 勝手に動いてしまうのか、俺の動きに合わせてユーリはきゅうきゅうと締め付けを繰り返してくる。その刺激に応えるように、俺は更にペースを速めた。

「っ、ユーリ、出すよ……!」
「だして!なかに、種付けしてっ!!」

 ユーリの腰を抱き込んで、一番奥に射精した。ビュク、ビュクと白濁を吐き出す度に、ユーリの肉壁は嬉しそうに蠢いた。

「ウィル……ん、」

 ユーリのおねだりに応え、挿入れたまま深くキスをした。空いた手でピンと勃った乳首を捏ねると、もっと触ってとでも言わんばかりに胸を反らしてくる。邪魔なケープを乱暴に取り去ってオフショルダーの襟ぐりを引き摺り下ろすと、真っ赤に色付いたエロ乳首が顔をのぞかせた。キスを止めて舌先で乳首をつつくと、ユーリは俺の頭を抱きしめて胸に押し当てた。

「あっ、胸も、きもちいい……ああっ!」

 ちゅっと吸ったり、歯を立てたり、乳首に刺激を与えるだけで俺の腹に当たったユーリのチンポが硬くなっていく。

「今度は胸でイく?」
「や……後ろが良い……もう動けるだろ?」

 俺の首に腕を巻き付けて、ユーリは刺さったままの俺のチンポを確かめるようアナルを締めた。ユーリが言う通り、既に硬さは十分だ。俺はゆるゆると律動を再開した。

 雪が周囲の音を吸い込んで、ガゼボの中は普段意識しないようなセックス時の音に満ちていた。二人の肉がぶつかる音と粘膜がこすれる水音、荒い呼吸と甘い喘ぎ声……ユーリも気付いているだろうか。

「聞こえる?ユーリのまんこ、ぐちゃぐちゃってエッチな音が出てるよ」
「やっ、ぁ……っ、聞くな……ああっ!」

 わざと水音が鳴るように掻きまわして亀頭の先端で前立腺を押しこむと、不意の快感にユーリは大きく喘いだ。

「ユーリ、可愛いよ……声も、音も、もっと聞かせて」

 耳元で囁くと、ユーリは蕩けた視線を投げて来た。

「かわいい……?ほんとに?」
「本当だよ。可愛い可愛い俺のユーリ。愛してる」

 ユーリは感極まったように瞳を潤ませ、ぎゅっとアナルを締め付けた。

「おれも……っ、あいしてる」

 息も絶え絶えになりながらも愛を伝えてくるユーリの姿に胸がいっぱいになる。

「ユーリ……!可愛いユーリ。好き。好きだ」
「ああっ!うぃる!しゅき!」

 パンパンと激しい音を立てながらユーリの中を穿つ。俺もユーリもただ必死でお互いを貪っていた。

「っ、ユーリ、一緒に……!」
「あん!ああっ!イクっ!!!」

 長い脚を俺の腰に回して、ユーリは全身を痙攣させながらイッた。ぎゅっと締め付けられた刺激に促されて、俺もさっきより大量の精液をユーリの奥に叩き込んだ。

「はぁっ、はぁっ、……ウィル……」
「っ、ユーリ……」

 息を整えながら見つめ合う瞳に燻る熱は、まだまだ解消されそうになかった。降り積もる雪のガゼボの中、俺は再びユーリに覆いかぶさった。







「良く見ててね」

 パチンと指を鳴らしたタイミングで魔術を発動させると、地面に並べた魔石が一斉に輝きだした。隣を見るとその灯りを反射してユーリの金の瞳が宝石のように輝いていた。

「綺麗……」

 その言葉に、表情に、心が満たされていく。準備はそれなりに大変だったけれど、この反応を貰えただけでもやった甲斐があったと満足した。

「ユーリの為だけの降星祭だよ。俺からのクリスマスプレゼント」
「俺の為だけの……ありがとう。すごく、嬉しい」

 ユーリはぎゅっと俺に抱きついた後、ちょっと待ってろと言い残し部屋へ引き返した。テラスから見ていると、机の引き出しの中から綺麗にラッピングされた箱を取り出してこちらへ持ってきた。

「大したものではないが、俺からのプレゼントだ。あまりうまくないかもしれないが……」
「ユーリからの……ありがとう、とっても嬉しいよ!早速開けるね」

 クリスマスを良く知らないだろうから、ユーリからのプレゼントは期待していなかった。勇者になってから、金銀財宝を含む多くのプレゼントをもらってきたが、ユーリから贈られたこの慎ましい箱はどんな豪華なプレゼントよりも輝かしく見えた。包装紙を破かないように慎重に開けると、中にはツリーやジンジャーブレッドマンなど、クリスマスにちなんだ形のクッキーが入っていた。

「これ、もしかしてユーリが作ったの?」
「ああ。……料理人に聞きながら作ったから、不味くは無い筈だ。見た目はともかく」

 よく見ると焼き色にムラがあったり形が歪なものもあったが、これはこれで味わい深い。それにユーリが俺の為に作ってくれたということ自体に何物にも代えがたい価値があった。

「食べるのがもったいないよ。大事にしまっておこうかな」
「早く食べろ!またいつでも作ってやるから」
「本当?約束だよ?」

 食べて無くなってしまうのは悲しいけれど、美味しいうちに食べてもらいたいという気持ちは料理を作る身としてよくわかる。迷った末、小さな星型のクッキーを摘み、口へ運んだ。
 仄かにバターの甘い香りがする素朴なクッキーは、味だけで評価するならば何の変哲もないただのクッキーだった。それなのにひと口食べるごとにこんなにも胸が熱くなっていくのは――

「っ!ウィル!……泣くほど不味かったか?」

 慌てるユーリが歪んで見えて、ようやく自分が泣いている事に気付いた。

「違う。違うよ、ユーリ。嬉しいんだ。こんなに愛がこもった手料理を食べたのは、初めてで……」

 前世の事はもうぼんやりとしか思い出せない。それでも嫌な事だけははっきりと記憶にこびりついていた。ッ前世の俺には家族がいない。生まれた時から、施設で育った。親無しといじめられ、蔑まれながらも必死に勉強して、奨学金をもらいながらそれなりの大学を出てそれなりの企業に就職した。社会の歯車として働きながら、安アパートと会社を往復するだけの生活。代り映えのない日々の中で、俺は薄々感じ取っていた。俺はこのまま誰にも愛されることなく死んでいくのだと。別にそれでいいと思った。愛されるということを知らなかったから。
 ユーリのクッキーを食べて、心の隙間が満たされたような感覚がした。強がっていただけで、俺はずっと寂しかった。その事実に気付いて、その寂しさを埋めてくれるユーリが側にいてくれる事の喜びが、一気に溢れ出して涙となって流れ落ちたのだ。

 俺が落ち着くまで、ユーリは俺を優しく抱きしめながら、背中を撫でてくれた。その温かい仕草に涙腺はさらに緩んで、俺は年甲斐もなく子が親に縋るように泣いてしまった。



「ありがとう。もう落ち着いたよ」
「ん。ウィルに甘えられるのも悪くないな。いつでも抱きしめてやるぞ」

 柔らかく笑うユーリを見ただけで、情けなくもまた涙が出そうになった。

「俺、重いし、面倒臭いよ?良いの?」
「ウィルくらいは俺の腕でも支えてみせるさ」

 屈託のない笑顔が眩しくて、思わず目を細めた。ユーリはきっと俺が何をしても俺を想ってくれる。そう思うのに、なかなか不安な気持ちは消えてくれない。

「こんなに喜んでくれるんなら、俺もウィルの為に朝食を作りたい。教えてくれないか?……まずは、いつも作ってくれる、みそしる、というスープを教えてほしい」

 ああ。ユーリはいつも俺が欲しい言葉をくれる。込み上げてくる塩辛さを飲み込んで、精一杯の笑顔を作った。

「勿論、大歓迎だよ」

 俺はこれからもユーリをなかなか信じきれはしないだろう。それでも、ゆっくりでも良い。ユーリを信じていけたら……
 ユーリが俺の服を引っ張って、顔を寄せる。重なる熱に、込み上がる想いをいつまでも感じていた。
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