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第48話 新しい魔王の登場
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スフィンクスが勢いよく飛び跳ね、城壁を越えた。俺は、その背に乗り、城下を見渡すことができた。
城の外庭では、逃げ惑う人々で騒然としている。その中には、城を守るはずの護衛兵たちの姿も見える。
一体、城の中では何が起こっているのだろうか。
スフィンクスは庭に降り立つと、一旦動きを止めた。そして、人々が逃げ出してくる大扉をじっと見つめながら口を開いた。
「モンスターの気配が城から流れてきている。最凶の気配だ」
「そちらに向かってくれないか」
今、城の外庭で起こっているこの光景には見覚えがあった。
ゲーム、ハッピーロードで、これとそっくりの場面があるのだ。
姫が殺される直前、誰彼ともなく城から逃げ出して行くシーンがある。それが今目にしている光景とまったく同じなのだ。
このままでは、ゲームのシナリオ通り、ローラ姫は死んでしまう。
早く、なんとかしなければ。
なんとかするといっても、どうすればいいのだろうか。
そう考えた時、一つのヒントが頭に浮かんだ。
俺は魔王を倒すアイテムを持っている。ドラゴンからもらったアイテムがあるのだ。
もしかすれば、それが解決の糸口になるかもしれない。
「スフィンクス、急いでくれないか。ローラ姫の命が危ないんだ」
俺の言葉で、スフィンクスは再び獰猛な生き物に変貌し、城の中へと駆け込んだ。
一気に階段をのぼり、王宮広間の空庭にたどり着く。
「こいつは!」
俺は空庭に立つモンスターを見て思わず声をあげた。
眼の前にいるモンスターは、ドラゴンを思わせるような長い胴体を持ち、背中には背びれのようなものが輝いている。爬虫類を思わせる頭部は二本の角が生え、口は大きく裂け鋭い牙が覗いている。
「こいつは、聖獣リヴァイアサンだ」
ハッピーロードに出てくる最終モンスターは、言うまでもなく魔王である。その魔王の外見は、聖獣リヴァイアサンをモデルに作られている。
ということは、ここにいるリヴァイアサンが本物の魔王ということか?
今、リヴァイアサンは魔王の偽物というポジションだが、それは何らかの理由でそうなっているだけで、本当はリヴァイアサンこそが、真の魔王ではないのか。
そう考えると、ゲームの展開におかしな所は一切なくなる。
俺が魔王だという、わけの分からない話とは違い、この考え方のほうが自然でしっくりとくるではないか。
俺はスフィンクスの背から降り立ち、リヴァイアサンに対峙した。
こいつを倒せば、魔王を討伐したことになる。
ローラ姫を死のシナリオから解放することができるのだ。
そう思った時だった。
リヴァイアサンが硬いウロコで覆われた首を回し、俺とスフィンクスの姿をとらえた。
何か攻撃を仕掛けてくるのか?
俺は身構えた。
すると、不思議なことが起こった。
砂金を巻いたように、キラキラしたものが空中に舞った。
隣りにいるスフィンクスを見て、えっと思った。
スフィンクスの体が、灰色に変色していったのだ。そして、ついにはただの石へと変化してしまった。
神のしもべとも呼ばれているスフィンクスを、リヴァイアサンは一瞬にして石像に変えてしまったのだ。
俺はあわててスフィンクスから距離を取ろうとした。このままでは、俺も石にされてしまうと思ったからだ。
けれど、もうすでに俺の足は動かなくなっていた。
悪い予感は、的中してしまっていた。
視界からわずかに覗いている俺の手足は、灰色に変色していた。もうすでに俺は石へと変えられてしまったようだ。
動くことができなければ、魔法陣を描くこともできない。つまり俺は、もうなすすべがないということだ。
俺とスフィンクスは、一瞬にしてリヴァイアサンに敗北したのだ。
そんな時、城の空庭に見慣れた人物が現れた。
まず入ってきたのが、S級剣士のバザルークだった。そのあとを追い、周囲を覗きながらそっと入ってきたのは勇者アークだった。
そして、俺は自分の目を疑った。
勇者アークの後方に、こともあろうかローラ姫の姿があったのだ。
なぜローラ姫がこんな場所にいるのだ?
これでは、ゲームのシナリオ通りにことが進んでしまう。
俺は、ローラ姫に「ここから逃げろ」と叫んでみた。けれど、石になっている俺が、声を出すことなど当然できない。
そのうち、勇者アークとバザルークが剣を鞘から抜き、剣先をリヴァイアサンに向けた。どうやら彼らは、リヴァイアサンを退治しようとしているようだ。
勇者アークが、剣を持ちながら、チラリと俺へ顔を向けた。石になっている俺の姿を見て、大きく目を見開いた。
「どうして死んだはずのゴブリンの石像がこんな所にあるんだ?」
「アーク、今はゴブリンに構ってる暇はないですよ」
「そうだった。目の前にいる魔王を倒すことが先決だ。バザルーク、お前から攻撃を仕掛けてくれ」
バザルークが、無言で勇者アークの顔を見返している。
「お前が攻撃している間に、俺が魔王の首を切り裂く。だからまずはお前が剣を振るってくれ」
バザルークはスッと剣を上段に構え、リヴァイアサンに向かい走り出した時だった。
バザルークの体が固まり、そのまま地面にゴロリと倒れてしまった。あっという間に、バザルークは石像に変えられてしまったのだ。
「な、なんだ?」
勇者アークが声を震わせる。そして急いで後ろにさがり、なんとローラ姫の後ろに隠れ、身を屈めたのだった。
次の瞬間、またしても金の粉が空中を舞った。
信じられない光景が目に入ってくる。
ローラ姫が、ハッとした表情のまま、固まっているのだ。
そう、あのなめらかで美しい肌が、一瞬にして灰色の石へと変化してしまっている。ついに、姫までもが石像に変えられてしまったのだ。
その後ろでは、姫を盾にした勇者アークが尻もちをつき、息をハアハアと吐きながら後退りをはじめている。
勇者アークはいったい何をしているのだ!
ローラ姫を盾にしてまで、自分を守ろうとするとは!
勇者は魔王と戦う運命にあるはずだ。しかし、アークは戦わずして、すでに逃げようとしているではないか!
どうすることもできず、ただただ怒りで震えている俺だったが、その俺に向かいリヴァイアサンがゆっくりと進んできた。
爬虫類を思わせる獰猛な目が、鋭く俺を見つめている。
殺されるのか。
そう感じた時、予想外のことが起きた。
俺に向かって進んでいたはずのリヴァイアサンが、急に向きを変えたのだ。
そして、こともあろうにリヴァイアサンは別の石像めがけて進みはじめた。
リヴァイアサンの向かう先には、目を見開きながら驚きの表情で固められた石像の姿があった。
城の外庭では、逃げ惑う人々で騒然としている。その中には、城を守るはずの護衛兵たちの姿も見える。
一体、城の中では何が起こっているのだろうか。
スフィンクスは庭に降り立つと、一旦動きを止めた。そして、人々が逃げ出してくる大扉をじっと見つめながら口を開いた。
「モンスターの気配が城から流れてきている。最凶の気配だ」
「そちらに向かってくれないか」
今、城の外庭で起こっているこの光景には見覚えがあった。
ゲーム、ハッピーロードで、これとそっくりの場面があるのだ。
姫が殺される直前、誰彼ともなく城から逃げ出して行くシーンがある。それが今目にしている光景とまったく同じなのだ。
このままでは、ゲームのシナリオ通り、ローラ姫は死んでしまう。
早く、なんとかしなければ。
なんとかするといっても、どうすればいいのだろうか。
そう考えた時、一つのヒントが頭に浮かんだ。
俺は魔王を倒すアイテムを持っている。ドラゴンからもらったアイテムがあるのだ。
もしかすれば、それが解決の糸口になるかもしれない。
「スフィンクス、急いでくれないか。ローラ姫の命が危ないんだ」
俺の言葉で、スフィンクスは再び獰猛な生き物に変貌し、城の中へと駆け込んだ。
一気に階段をのぼり、王宮広間の空庭にたどり着く。
「こいつは!」
俺は空庭に立つモンスターを見て思わず声をあげた。
眼の前にいるモンスターは、ドラゴンを思わせるような長い胴体を持ち、背中には背びれのようなものが輝いている。爬虫類を思わせる頭部は二本の角が生え、口は大きく裂け鋭い牙が覗いている。
「こいつは、聖獣リヴァイアサンだ」
ハッピーロードに出てくる最終モンスターは、言うまでもなく魔王である。その魔王の外見は、聖獣リヴァイアサンをモデルに作られている。
ということは、ここにいるリヴァイアサンが本物の魔王ということか?
今、リヴァイアサンは魔王の偽物というポジションだが、それは何らかの理由でそうなっているだけで、本当はリヴァイアサンこそが、真の魔王ではないのか。
そう考えると、ゲームの展開におかしな所は一切なくなる。
俺が魔王だという、わけの分からない話とは違い、この考え方のほうが自然でしっくりとくるではないか。
俺はスフィンクスの背から降り立ち、リヴァイアサンに対峙した。
こいつを倒せば、魔王を討伐したことになる。
ローラ姫を死のシナリオから解放することができるのだ。
そう思った時だった。
リヴァイアサンが硬いウロコで覆われた首を回し、俺とスフィンクスの姿をとらえた。
何か攻撃を仕掛けてくるのか?
俺は身構えた。
すると、不思議なことが起こった。
砂金を巻いたように、キラキラしたものが空中に舞った。
隣りにいるスフィンクスを見て、えっと思った。
スフィンクスの体が、灰色に変色していったのだ。そして、ついにはただの石へと変化してしまった。
神のしもべとも呼ばれているスフィンクスを、リヴァイアサンは一瞬にして石像に変えてしまったのだ。
俺はあわててスフィンクスから距離を取ろうとした。このままでは、俺も石にされてしまうと思ったからだ。
けれど、もうすでに俺の足は動かなくなっていた。
悪い予感は、的中してしまっていた。
視界からわずかに覗いている俺の手足は、灰色に変色していた。もうすでに俺は石へと変えられてしまったようだ。
動くことができなければ、魔法陣を描くこともできない。つまり俺は、もうなすすべがないということだ。
俺とスフィンクスは、一瞬にしてリヴァイアサンに敗北したのだ。
そんな時、城の空庭に見慣れた人物が現れた。
まず入ってきたのが、S級剣士のバザルークだった。そのあとを追い、周囲を覗きながらそっと入ってきたのは勇者アークだった。
そして、俺は自分の目を疑った。
勇者アークの後方に、こともあろうかローラ姫の姿があったのだ。
なぜローラ姫がこんな場所にいるのだ?
これでは、ゲームのシナリオ通りにことが進んでしまう。
俺は、ローラ姫に「ここから逃げろ」と叫んでみた。けれど、石になっている俺が、声を出すことなど当然できない。
そのうち、勇者アークとバザルークが剣を鞘から抜き、剣先をリヴァイアサンに向けた。どうやら彼らは、リヴァイアサンを退治しようとしているようだ。
勇者アークが、剣を持ちながら、チラリと俺へ顔を向けた。石になっている俺の姿を見て、大きく目を見開いた。
「どうして死んだはずのゴブリンの石像がこんな所にあるんだ?」
「アーク、今はゴブリンに構ってる暇はないですよ」
「そうだった。目の前にいる魔王を倒すことが先決だ。バザルーク、お前から攻撃を仕掛けてくれ」
バザルークが、無言で勇者アークの顔を見返している。
「お前が攻撃している間に、俺が魔王の首を切り裂く。だからまずはお前が剣を振るってくれ」
バザルークはスッと剣を上段に構え、リヴァイアサンに向かい走り出した時だった。
バザルークの体が固まり、そのまま地面にゴロリと倒れてしまった。あっという間に、バザルークは石像に変えられてしまったのだ。
「な、なんだ?」
勇者アークが声を震わせる。そして急いで後ろにさがり、なんとローラ姫の後ろに隠れ、身を屈めたのだった。
次の瞬間、またしても金の粉が空中を舞った。
信じられない光景が目に入ってくる。
ローラ姫が、ハッとした表情のまま、固まっているのだ。
そう、あのなめらかで美しい肌が、一瞬にして灰色の石へと変化してしまっている。ついに、姫までもが石像に変えられてしまったのだ。
その後ろでは、姫を盾にした勇者アークが尻もちをつき、息をハアハアと吐きながら後退りをはじめている。
勇者アークはいったい何をしているのだ!
ローラ姫を盾にしてまで、自分を守ろうとするとは!
勇者は魔王と戦う運命にあるはずだ。しかし、アークは戦わずして、すでに逃げようとしているではないか!
どうすることもできず、ただただ怒りで震えている俺だったが、その俺に向かいリヴァイアサンがゆっくりと進んできた。
爬虫類を思わせる獰猛な目が、鋭く俺を見つめている。
殺されるのか。
そう感じた時、予想外のことが起きた。
俺に向かって進んでいたはずのリヴァイアサンが、急に向きを変えたのだ。
そして、こともあろうにリヴァイアサンは別の石像めがけて進みはじめた。
リヴァイアサンの向かう先には、目を見開きながら驚きの表情で固められた石像の姿があった。
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