どこかで見たような異世界物語

PIAS

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第五章

第84話 新たな属性魔法の取得

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「ねぇ、みてみて!」

 すっかり太陽も登り始めた、翌朝のこと。

 男寮で食事を取っていた時に、ドアをノックする音が響いたかと思うと、返事をする間もなくドアが開かれた。
 木匙で野菜スープを汲み上げて、口に運ぶ所だった信也は、その状態のまま視線を玄関へと向ける。

 するとそこには、やたらとニコニコしている咲良の姿があった。
 男達の視線を気にする事もなく、つかつかと中へと入ってきた咲良は、北条の近くまで近寄ると、


「……いきます。 【風操作】」

 咲良が"風魔法・・・"を使用すると、不意に室内の空気の流れに変化が生じる。
 それは、玄関のドアを開けた事による、室内の気流の変化などでは決してなく、眼の前の少女によってもたらされたものだ。

「ぬ、なああ。おい、メシ食ってる時に邪魔するんじゃねーよ」

 見ると龍之介の手にしたスープ皿には、不自然な風が吹きつけており、龍之介はうっとうしそうにその風を払いのけようとしていた。

「あら、熱そうだったから冷ましてあげてるのよ」

「ちっ、よけーな真似すんなよ」

 誰が見ても一目で分かるほどご機嫌な咲良に対し、こちらも誰が見ても分かるほどの不機嫌顔の龍之介。
 このままでは、また何時もの口喧嘩のような展開になるのは目に見えていたので、止めに入ることにした信也。

「二人共、その辺にしておいてくれ。今川もちょっとはしゃぎすぎだぞ」

「……そうね、ちょっとハイになっちゃってたのかも」

 珍しくあっさり引いた咲良だったが、話を聞くところによると昨日はあれから軽い睡眠を取ってから、まだ日も空ける前の闇の帳真っただ中の、早朝の時間帯から魔法の練習をしていたらしい。

 迷惑にならないように、家の前で一人魔法の練習をしているその姿は、現代日本だったら通報されてもおかしくない不審者っぷりだろう。

「でもその甲斐もあって、"風魔法"だけじゃなくて"土魔法"も使えるようになったのよ!」

「わー、すごいなあ。僕も他の魔法を練習しようかなぁ」

 幾らスキル効果があろうと、この短期間で四種類の魔法を覚えるというのは並大抵の事ではない。
 いや、そもそも大元の"エレメンタルマスター"のスキルそのものが、規格外なのかもしれない。

 職業同様にスキルにもレアなスキルは存在しており、本人がその情報を提供したり、何らかの方法で確認されたレアなスキルは逐次書物にまとめられている。
 あのギルド支部にあった資料室にも、勿論そういったスキル関連の本は存在していたのだが、咲良のスキルに関しては記載が見当たらなかった。
 つまりそれだけ所有者の少ない、レアなスキルである可能性は高い。

「ほぉ、もう使えるようになるたぁ、例のスキルの効果はたいしたもんだなぁ」

 食事を終えていた北条が、食器を洗って戻ってくるなりそう口にした。
 その様子は、どれだけ続くか分からなかった魔法講座が、昨夜だけで済んだので肩の荷を下ろしたかのようだ。

「うん、これが私の素の才能だったらよかったんだけど……。自分でも"エレメンタルマスター"のスキルの力が大きいってのが、分かっちゃうのよね、これが」

 そう言ってため息をひとつ吐く咲良。

「ええ、じゃあ僕は他の魔法は使えないのかなあ」

 咲良の言葉を聞いて、露骨に不安そうな顔になる慶介。
 しかしその不安を払拭してくれる情報を、北条が提供する。

「いや、そうとも限らんぞぉ。中にはひとつの属性特化の魔術士ってのもいて、"炎術士"とか"水術士"なんて職業に就くやつもいるようだがぁ……。大抵の魔術士ってのはひとつだけではなく、複数の属性を使えるらしい」

 北条の言うように、特に四代属性とされる火・土・風・水魔法は、適正者の数が多いので、魔法を使えるようになった者は、まずこれらの属性を試してみることが多い。

「あー、それには勿論それなりの努力と才能も必要だがぁ……そうだな。基本四属性ではないが、イメージ的に"水魔法"に近い、"氷魔法"を練習してみるのもいいかもな。これから暑くなってきたら、戦闘以外でも役に立つぞぉ」

「うーーん、"氷魔法"かあ。僕も今のうちから練習してみようかなあ」

 北条の示した道筋に、興味を覚えたのか希望を感じたのか。
 ブツブツと呟き始めた慶介は、段々乗り気になってきたようだった。

「選択肢の幅を広げるのはいいことだな。だがその為には今できる事を着実にこなしていくことも重要だ。……という訳で今日の活動について話をしたいのだが、女性たちの準備は整っているかな?」

「あ、はい。えーと、私はずっと外で魔法の練習をしてたので……これから戻って急いで準備してきます!」

 そう言うなり慌てて『男寮』を出ていく咲良。
 そんな彼女の様子を見た信也は、

「やれやれ、あの様子だと、もう少し時間を空けてからあちらに行ったほうがよさそうだな」

 と口にすると、空いた僅かな時間に自分も魔法の練習をしようと、家の外に出て"光魔法"の練習を始めた。
 信也の近くでは、一緒についてきた慶介が、"氷魔法"のイメージをしながら精神を集中させていた。

 魔力というものは、自らの内からひねり出した段階では、元々属性というものは付与されていない。
 その何も付与されていない、まっさらな状態の魔力を利用しているのが、闘技スキルなどの一部のスキルであると言われている。

 一方、"水魔法"などの属性魔法の発動に使われているのは、まっさらな状態の魔力ではなく、少し変質したモノが使用される。
 変質した魔力と元の魔力との違いは、感覚的には理解できるのだが、人それぞれ捉え方も異なる。

 ある人は色が違うのだというし、別のある人は匂いが違うと主張する。
 更に別の人はイメージが違うのだと答えたりする。

 魔法を教える際に、この部分の共通のマニュアルが存在しないため、魔術士の育成が困難と言われる大きな要因となっている。
 慶介の場合、すでに"水魔法"を使用できているので、その感覚を元に彼なりに試行錯誤を繰り返す事によって、魔力を上手く変質させる事が出来れば、新しい属性魔法への壁も開くことだろう。


 そうして少し空いた時間にちょっとした魔法の訓練を挟んだ後は、『女寮』に集まり今後の基本的方針が決定された。

 それはこれからは十二人全員ではなく、二つのパーティーごとに行動指針を決めて、予定を建て、行動をしていくという事。
 全員の力が必要な時には、リーダー同士で話し合って予定を合わせる事。
 一週間に一回は、探索にはいかない休息日を設ける事。
 休息日はこの世界の暦の一週間ではなく、地球での一週間=七日を基準とすること。

 他にも幾つか細かい事はあるが、おおまかにはこのような内容になった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「よっし、それじゃー早速今日からダンジョン探索にいこーぜ!」

 話し合いが終わるとすぐに、もう待ちきれないといった表情で龍之介が言う。

「まあ待て龍之介。ダンジョンに行くにしてもまずは準備を整えてからだ」

 最初にこの異世界に飛ばされて、右往左往しながらダンジョンを抜け出すのに三日もかかっている。
 これはまっさらな状態から始まった探索であるし、何よりレベルも初期値のままであった。そのため魔物にも必要以上に気を使って移動していた為、余計時間がかかっていた。

 今ならばレベルも上がり、職業にも就き、三階の途中までの地図もある。
 ちなみに地図は今後の事も考えて、複写したものがすでにあるので、二つのパーティーに別れても問題はない。
 そういった条件を鑑みれば、一日もかからずにあの最初の部屋まで辿り着く事が出来るかもしれない。

 だが、村からダンジョンまでの移動時間が四時間ほどかかるうえ、そっからの探索となれば、必然的にダンジョン内で寝泊まりする事にもなるだろう。
 寝袋のようなものは他の冒険者も使用している訳ではないので用意はしないが、食料や水などの他に、松明やランタンなどの照明道具。
 それからロープや布切れなどの雑貨品系統など、持っていくものを厳選して挑まなければならない。

 ――通常の冒険者であるならば。

 信也達の場合は、小規模とはいえ全員が魔法の小袋を持っているので、それだけで大きなバッグを肩に下げて移動する必要はない。
 水に関しても両パーティーに"水魔法"の使い手がいるので、大量に持っていく必要もない。
 準備するものといえば、主に食料と消耗品になるだろう。

 とはいえ、他の人の目を気にするという意味と、〈魔法の小袋〉の容量がさほど大きくないという事もあって、みんな通常のバッグも利用する予定だ。
 また容量を使ってしまうが、〈魔法の小袋〉にはダンジョン前にある泉の水を汲んで収納もしておく。

 "水魔法"で水を作り出すにもMPが必要になるので、MP消費を抑えたい時などに使用する事になるだろう。
 いずれにせよ、他の冒険者に比べて条件がいい事を利用して、一度に何日か一気に潜った方が効率は良さそうだ。
 そのためには、多めに食料を確保しておかなければならない。

 信也達はまずは村内で食料の確保をすることにした。
 これは北条達のパーティーも同様だ。
 《鉱山都市グリーク》での買い物を経験した後に、改めて村での買い物をするとよく実感できるのだが、売られているものがどれも安い。

 もちろん道具などに関しては品質が劣っていたりもするのだが、こと食料品にかけてはお得感がかなりある。
 ついつい調子に乗って買いすぎないよう、注意しながらも食料を買い集め、途中信也が拠点建設予定地について、村長に報告に向かう。

 全ての準備が整い、村長への報告も完了すると、ようやく信也達は久々のダンジョンへと向かうのだった。



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