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第七十五話 ルイゼンブルク家の血
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程なくして二人の居場所を突き止めたエドゥアルトとアレクセイが駆けつけて来てくれた。いつの間にか女は逃げていたがその女も逃げている途中でエドゥアルトの部下が捕まえたらしい。駆けつけた二人は部屋の凄惨な現場に驚いたがすぐにリエルとアルバートの無事を確認すると喜んだ。そして、この誘拐を秘密裏に処理をした。以前から問題になっていた人身売買の件に関与していた組織だったらしく、ボスだった女を捕獲したこともあり、組織を壊滅することができた。
後の事は大人たちに任せてと言われ、リエルとアルバートは父親が戻ってくるまでお互い隣に座り、黙ったままぼんやりと夕日を眺めていた。アルバートはいつもの元気な様子とは違い、膝を抱えたまま俯いていた。
「アルバート。ありがとね。助けてくれて。」
「…。」
「アルバート?」
聞こえなかったのかな?そう思うぐらいに反応がない様子に訝しんでいると、
「…リエル。俺が怖くないの?」
ぽつりと呟くアルバートにリエルはどうして?と聞き返した。
「だって、俺…、人を…、」
「何言っているの!それはあたしを助けるためでしょう?ああでもしないと、あたしもアルバートも助からなかった。あなたはあたしを守ってくれたんだよ。」
「リエル…。」
リエルはアルバートの手をギュッと握りしめ、彼の目を見てそう言った。
「だから…、そんなに自分を責めないで。」
リエルの言葉にアルバートは切なく、でも何処か安堵した表情でリエルを眩しそうに見つめた。
アルバートは無事に家に戻った時に父から事情を聞かれた。アルバートはありのまま答えた。といっても、アルバートはあまり覚えていない。気が付いたら全身が血塗れになって死体が転がっていたのだ。リエルが烙印を押されると思った瞬間、あの女達への怒りを抑えられなくなった。そして、気が付いたらあの状態だった。そう正直に話すと、父は深刻な表情で溜息を吐くと、
「…血は争えないな。アルバート。お前は本当にルイゼンブルク家の血を濃く受け継いだようだ。」
「どういうことですか?父上。」
「…大人になれば分かるさ。しかし、まさか、お前が薔薇騎士の覚醒を遂げるとは思いもしなかったぞ。しかも、その歳で。」
「え?」
アルバートはキョトンとした。
「薔薇騎士の覚醒って…、それはどういう…、」
「お前にはまだ早いかと思っていたが…、薔薇騎士とはただの騎士とは違うんだ。」
その時にアルバートは薔薇騎士の真相を知った。ただの騎士とは違う特別な騎士だという認識があったがただ他の騎士よりも剣の腕が強い。その程度の物だと思っていた。が、そんな生温いものではなかった。薔薇騎士は能力者として覚醒し、その力を習得した者だけがなれる一握りの選ばれた人間にしかなれない。つまり、どんなに剣の腕を磨いても能力者として覚醒しなければ薔薇騎士にはなれないのだ。アルバートはその事実に驚いた。
「その覚醒があの時のものなんですか?」
「そうだ。薔薇騎士の覚醒を遂げた能力者は人間とは思えない強さを発揮する。あれもその一つだった。」
「一つ…?」
「薔薇騎士の能力は一つではないのだ。今回のお前の力もそうだった。アルバート。お前のは、恐らくスピード、怪力、攻撃を回避し、相手を的確に仕留める力が合わさったものだろう。」
「そういえば、リエルが言ってた。あの女が途中で急に苦しみだしたって。まるで息ができないようだったって。」
「それは、空気遮断の能力だな。一定の距離や対象物の空気を止めることで相手を窒息させるものだ。あの女が生きてられたのはまだお前が覚醒したばかりで力のコントロールができていなかったからだ。」
「…。」
アルバートは俯いた。
「アルバート。今までは薔薇騎士になると言っていたお前の言葉を私は正直、本気にしていなかった。よくある子供の憧れだと思っていた。それに、どんなに憧れても超えられない壁がある。覚醒していないお前では薔薇騎士になれない。そう思っていたからだ。だが、今は違う。」
父、アレクセイはいつになく真剣な表情でアルバートを見据えた。
「お前には今、薔薇騎士になれる道が与えられた。」
アルバートは弾かれたように顔を上げた。
「お前が本当に薔薇騎士になりたいと願うなら…、その道は開かれる。」
薔薇騎士になれる。これでリエルとの約束を果たせるんだ。アルバートは高揚した。
「アルバート。今すぐに答えを出す必要はない。お前にはこの家を継ぐ義務もあるのだから。もう少し、ゆっくりと考えてから答えを出しなさい。」
父の言葉にアルバートは書斎から出て行き、自分の部屋に戻った。
アルバートから書斎から出て行くと、アレクセイは溜息を吐いた。
「旦那様。お疲れのご様子ですね。」
「ウォルターか…。」
長く家に仕えている執事、ウォルターが紅茶を目の前に置き、そう言った。
「坊ちゃんは本当に旦那様によく似てらっしゃる。」
「そう言うのはお前位だよ。だが、わたしもそう思う。」
アルバートは周囲からはよく母親であるグレースによく似ていると言われることが多い。グレースはその美貌から月の女神と褒め称えられ、国内でもその美しさは五本の指に入るであろうと言われている程だ。そんなグレースの美貌をそっくりそのまま受け継いだのがアルバートである。容姿が母親似であるため、必然的に周りはアレクセイよりも母親のグレースによく似ていると声高に言うようになった。…残念ながら、性格は全く似ていないが。アルバートを見ているとアレクセイはその性質は自分によく似ていると思う部分がある。特に今回の事件でそれを実感した。
「…本当にあの子はルイゼンブルク家の血を濃く受け継いだようだ。」
「いいことではありませんか。」
「どうかな。これは、ある意味呪いの血だという者もいたらしいぞ。」
五大貴族の一角を担い、公爵という高い家柄を持つルイゼンブルク家の地位と権力は誰もが血反吐を吐き、喉から手が出るほど欲しがるものだ。が、ある者はルイゼンブルク家の血を呪われた一族だと称する者もいた。
「我がルイゼンブルク家は別名、狼とも呼ばれている。何故だか分かるか?ウォルター。」
「勿論ですとも。孤高で獲物を決して逃がさず、自らを脅かす者は容赦なく排除し、欲しい物は全て手に入れる。それはまるで縄張り争いを許さず、絶対的な力と強さ、獰猛さを持つ狼の様だといわれるようになったとお聞きしています。ですが、それは表向きの話。ルイゼンブルク家が狼と呼ばれるようになった本当の由縁は…、心に決めたパートナーを生涯、愛し抜く愛情の深さにあります。」
「情の深さ、か。聞こえはいいが果たして、あれはそんなお綺麗なものだろうか。」
そう。ルイゼンブルク家の人間はそのほとんどが一途なまでに一人の人間を愛するという特性を持つ者が多かった。特に当主や次期当主…、直系の血筋に近ければ近い程にその特性を色濃く受け継いでいた。一途で愛情深い。一見、聞こえはいいがアレクセイからすれば一途だなんてそんな可愛らしい言葉ではすまされない。何せ、その心に決めた女性を手に入れる為ならば、どんな手を使ってでも手に入れようとするのだ。
「過去には、婚約者のいる令嬢を家の力を使って、無理矢理破棄し、その令嬢を妻に迎えたらしいぞ。中には、既婚者だった夫人を離縁させて、再婚するという手まで使った当主もいたらしい。」
そう。その愛した相手が必ずしも未婚で独り身だとは限らない。普通、好意を抱いてもその女性に別の相手が…、婚約者か夫がいれば普通は諦めるだろう。だが、この一族達は違った。例え、恋人がいようが婚約者がいようが夫がいようが関係なかった。その執念深さと諦めの悪さは空恐ろしいものを感じずにはいられなかった。しかも、中には身分の違いを理由に求婚を断った女と一緒になる為に次期当主の座をあっさりと捨て、身分も爵位も捨てて、平民の女性と一緒になる男もいた程だ。
「私の曽祖父も戦争で敗戦した捕虜の王女を見初め、国王の側室にされる所を五大貴族の特権を使って、王女を妻にしたらしい。祖父は祖母を手に入れるために当時の婚約者を唆して、婚約破棄にまで追いやり、傷心の祖母を口説き落としてそのまま結婚したそうだ。父上は母に一目惚れし、借金のあった母上の生家に借金を肩代わりして、結婚したという話だし…、我々一族は揃いも揃って問題児ばかりだな。」
「…お言葉ですが旦那様もその一人だという事をお忘れではありませんか?」
アレクセイの言葉にウォルターが呆れた視線を向けた。その指摘にアレクセイは心外だとでも言いたげな表情を浮かべた。
後の事は大人たちに任せてと言われ、リエルとアルバートは父親が戻ってくるまでお互い隣に座り、黙ったままぼんやりと夕日を眺めていた。アルバートはいつもの元気な様子とは違い、膝を抱えたまま俯いていた。
「アルバート。ありがとね。助けてくれて。」
「…。」
「アルバート?」
聞こえなかったのかな?そう思うぐらいに反応がない様子に訝しんでいると、
「…リエル。俺が怖くないの?」
ぽつりと呟くアルバートにリエルはどうして?と聞き返した。
「だって、俺…、人を…、」
「何言っているの!それはあたしを助けるためでしょう?ああでもしないと、あたしもアルバートも助からなかった。あなたはあたしを守ってくれたんだよ。」
「リエル…。」
リエルはアルバートの手をギュッと握りしめ、彼の目を見てそう言った。
「だから…、そんなに自分を責めないで。」
リエルの言葉にアルバートは切なく、でも何処か安堵した表情でリエルを眩しそうに見つめた。
アルバートは無事に家に戻った時に父から事情を聞かれた。アルバートはありのまま答えた。といっても、アルバートはあまり覚えていない。気が付いたら全身が血塗れになって死体が転がっていたのだ。リエルが烙印を押されると思った瞬間、あの女達への怒りを抑えられなくなった。そして、気が付いたらあの状態だった。そう正直に話すと、父は深刻な表情で溜息を吐くと、
「…血は争えないな。アルバート。お前は本当にルイゼンブルク家の血を濃く受け継いだようだ。」
「どういうことですか?父上。」
「…大人になれば分かるさ。しかし、まさか、お前が薔薇騎士の覚醒を遂げるとは思いもしなかったぞ。しかも、その歳で。」
「え?」
アルバートはキョトンとした。
「薔薇騎士の覚醒って…、それはどういう…、」
「お前にはまだ早いかと思っていたが…、薔薇騎士とはただの騎士とは違うんだ。」
その時にアルバートは薔薇騎士の真相を知った。ただの騎士とは違う特別な騎士だという認識があったがただ他の騎士よりも剣の腕が強い。その程度の物だと思っていた。が、そんな生温いものではなかった。薔薇騎士は能力者として覚醒し、その力を習得した者だけがなれる一握りの選ばれた人間にしかなれない。つまり、どんなに剣の腕を磨いても能力者として覚醒しなければ薔薇騎士にはなれないのだ。アルバートはその事実に驚いた。
「その覚醒があの時のものなんですか?」
「そうだ。薔薇騎士の覚醒を遂げた能力者は人間とは思えない強さを発揮する。あれもその一つだった。」
「一つ…?」
「薔薇騎士の能力は一つではないのだ。今回のお前の力もそうだった。アルバート。お前のは、恐らくスピード、怪力、攻撃を回避し、相手を的確に仕留める力が合わさったものだろう。」
「そういえば、リエルが言ってた。あの女が途中で急に苦しみだしたって。まるで息ができないようだったって。」
「それは、空気遮断の能力だな。一定の距離や対象物の空気を止めることで相手を窒息させるものだ。あの女が生きてられたのはまだお前が覚醒したばかりで力のコントロールができていなかったからだ。」
「…。」
アルバートは俯いた。
「アルバート。今までは薔薇騎士になると言っていたお前の言葉を私は正直、本気にしていなかった。よくある子供の憧れだと思っていた。それに、どんなに憧れても超えられない壁がある。覚醒していないお前では薔薇騎士になれない。そう思っていたからだ。だが、今は違う。」
父、アレクセイはいつになく真剣な表情でアルバートを見据えた。
「お前には今、薔薇騎士になれる道が与えられた。」
アルバートは弾かれたように顔を上げた。
「お前が本当に薔薇騎士になりたいと願うなら…、その道は開かれる。」
薔薇騎士になれる。これでリエルとの約束を果たせるんだ。アルバートは高揚した。
「アルバート。今すぐに答えを出す必要はない。お前にはこの家を継ぐ義務もあるのだから。もう少し、ゆっくりと考えてから答えを出しなさい。」
父の言葉にアルバートは書斎から出て行き、自分の部屋に戻った。
アルバートから書斎から出て行くと、アレクセイは溜息を吐いた。
「旦那様。お疲れのご様子ですね。」
「ウォルターか…。」
長く家に仕えている執事、ウォルターが紅茶を目の前に置き、そう言った。
「坊ちゃんは本当に旦那様によく似てらっしゃる。」
「そう言うのはお前位だよ。だが、わたしもそう思う。」
アルバートは周囲からはよく母親であるグレースによく似ていると言われることが多い。グレースはその美貌から月の女神と褒め称えられ、国内でもその美しさは五本の指に入るであろうと言われている程だ。そんなグレースの美貌をそっくりそのまま受け継いだのがアルバートである。容姿が母親似であるため、必然的に周りはアレクセイよりも母親のグレースによく似ていると声高に言うようになった。…残念ながら、性格は全く似ていないが。アルバートを見ているとアレクセイはその性質は自分によく似ていると思う部分がある。特に今回の事件でそれを実感した。
「…本当にあの子はルイゼンブルク家の血を濃く受け継いだようだ。」
「いいことではありませんか。」
「どうかな。これは、ある意味呪いの血だという者もいたらしいぞ。」
五大貴族の一角を担い、公爵という高い家柄を持つルイゼンブルク家の地位と権力は誰もが血反吐を吐き、喉から手が出るほど欲しがるものだ。が、ある者はルイゼンブルク家の血を呪われた一族だと称する者もいた。
「我がルイゼンブルク家は別名、狼とも呼ばれている。何故だか分かるか?ウォルター。」
「勿論ですとも。孤高で獲物を決して逃がさず、自らを脅かす者は容赦なく排除し、欲しい物は全て手に入れる。それはまるで縄張り争いを許さず、絶対的な力と強さ、獰猛さを持つ狼の様だといわれるようになったとお聞きしています。ですが、それは表向きの話。ルイゼンブルク家が狼と呼ばれるようになった本当の由縁は…、心に決めたパートナーを生涯、愛し抜く愛情の深さにあります。」
「情の深さ、か。聞こえはいいが果たして、あれはそんなお綺麗なものだろうか。」
そう。ルイゼンブルク家の人間はそのほとんどが一途なまでに一人の人間を愛するという特性を持つ者が多かった。特に当主や次期当主…、直系の血筋に近ければ近い程にその特性を色濃く受け継いでいた。一途で愛情深い。一見、聞こえはいいがアレクセイからすれば一途だなんてそんな可愛らしい言葉ではすまされない。何せ、その心に決めた女性を手に入れる為ならば、どんな手を使ってでも手に入れようとするのだ。
「過去には、婚約者のいる令嬢を家の力を使って、無理矢理破棄し、その令嬢を妻に迎えたらしいぞ。中には、既婚者だった夫人を離縁させて、再婚するという手まで使った当主もいたらしい。」
そう。その愛した相手が必ずしも未婚で独り身だとは限らない。普通、好意を抱いてもその女性に別の相手が…、婚約者か夫がいれば普通は諦めるだろう。だが、この一族達は違った。例え、恋人がいようが婚約者がいようが夫がいようが関係なかった。その執念深さと諦めの悪さは空恐ろしいものを感じずにはいられなかった。しかも、中には身分の違いを理由に求婚を断った女と一緒になる為に次期当主の座をあっさりと捨て、身分も爵位も捨てて、平民の女性と一緒になる男もいた程だ。
「私の曽祖父も戦争で敗戦した捕虜の王女を見初め、国王の側室にされる所を五大貴族の特権を使って、王女を妻にしたらしい。祖父は祖母を手に入れるために当時の婚約者を唆して、婚約破棄にまで追いやり、傷心の祖母を口説き落としてそのまま結婚したそうだ。父上は母に一目惚れし、借金のあった母上の生家に借金を肩代わりして、結婚したという話だし…、我々一族は揃いも揃って問題児ばかりだな。」
「…お言葉ですが旦那様もその一人だという事をお忘れではありませんか?」
アレクセイの言葉にウォルターが呆れた視線を向けた。その指摘にアレクセイは心外だとでも言いたげな表情を浮かべた。
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