上 下
57 / 182

第57話 合流

しおりを挟む
エレノアの自爆で途轍もない爆発が起きた。
誰もがクリスは、爆発に巻き込まれ死んでしまったと思い込んだ。
だが上空でクリスを抱えるクレアが見える。


「おーい!クリス!
 あねご~~」


それを見たユーリは、飛び上がり喜んだ。
そしてカートや賢者も集まる…
地面に着地するまでの間、
お姫様抱っこされているクリスを見て、
ユーリとカートは、ニヤニヤ笑っている。


「み、見ないでくれ…
 恥ずかしい…」


「クリス、可愛い…」


全員が笑いながら迎える。
クレア、ユーリ、カート、賢者。
過去に遡り仲間達と出逢い、
共に試練を乗り越えてみせた…
クリスは嬉しくも誇りに思っていた。

そして、かなり遅れて増援が到着する。
本来であればもっと早くに到着していなければならない。
王国騎士団のゲイル達である。
カートが事前に王都に連絡をしており、
この日のために増援を申請していたのだ。


「お、遅いぞ…
 ゲイル…」


クレアはジト目でゲイルを見る。
慌てて言い訳をしているゲイル。
こんなゲイルは、クリスにとって新鮮に写ってしまう。


「おい、お前もこっちに来い」


すると、クレアがクリスの手を引っ張り、
ゲイルの前へ連れ出す。
時を遡って、初めて父と出逢う。


「あ、あの…」


「ゲイル、聞いて驚け!
 こいつはな…
 未来からやってきたクリスだ」


「は?」


ゲイルは、頭でもおかしいのか?と言いたげな様子でクレアを見ている。
全く信じていないため、賢者が助け舟を出した。


「久しぶりだな、ゲイル…」


「まさか、貴方は賢者様では…」


「あぁ…
 ちなみにクレアの言ってることは本当だ。
 未来の私が送り込んだからな…」


ゲイルは賢者の言葉を一瞬で信用した。
だが、そんな事をしてしまえばクレアの機嫌は悪くなる。
ゲイルは気付かぬうちにクレアを怒らせてしまうのだ。


「お前、私の言うことは全く信用せずに、
 師匠は信用するんだな…」


また焦り出すゲイル…
必死に言い訳をしている。
完全に尻に敷かれているのである…
そんなクレアとゲイルを見ていると、
クリスは何故か吹き出してしまう…


「ふふふ、あはははは」


俺はこの風景を見たかったのかもしれない…
少し目尻に涙が溜まってしまう。
それくらいに嬉しいし楽しくて仕方ない。

俺が笑っている姿を見て、二人とも我にかえり俺に話しかけてくる。


「本当に未来から来たクリスなんだよな?」


「はい、父上と母上の息子ですよ」


そしてクレアはゲイルに経緯を話した。
エレノアが現れユーリを連れ去ったこと。
奴隷になったエルフが襲ってきたこと。
そしてクリスがエレノアを倒し、
全てを救ってみせたこと。
一通り説明が終わった後に、
ゲイルは、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしてクリスを見ている。


「とりあえず、
 陛下に報告すべき案件のような気が…」


「まあ、ひとまず待ちな…
 クリスは未来に戻る必要がある。
 その前に足枷になるのはマズイ。
 王に報告すると確実に囲われるぞ」


クリスが未来に戻る…
このフレーズを聞いて、ユーリは一瞬暗い顔を見せた。


「まあ、王都に報告は必要だ。
 今回はクレアの手柄にしよう…
 それとサリーとエルフの件もある」


エレノアを倒し一件落着とは言え、
全てのエルフに襲われたのだ。
このままにしておく訳にはいかない。



「ひとまず王都でエルフを匿うしかない。
 このまま魔族に攫われるリスクもある。
 だが、一つ問題がある」


里のエルフ全員を連れて王都に行くためには、恐らく陸路では無理だろう。
船を使って海から運ぶしかない。
そのためには、クラーケン討伐が必須となる。


「まさか、クラーケン退治ですか」


「あぁ、そのまさかだよ…」


賢者は頭が痛いような素振りを見せる。
それほどにクラーケンは凶悪なのだ。


「あの…
 そのクラーケンの討伐は一体誰が…」


「そんなのクリスに決まっているだろう…」


「え?」


賢者がそのように伝えると、
クリスは青い顔をしている…


「何でも頑張ると言っただろう…
 クラーケンの魔力が欲しいのさ」


ユーリとデスワームを次元結界で封じるために魔法の筒から50年分の魔力を利用した。
その分を取り戻す必要がある。
賢者はその補填としてクラーケン討伐を考えた。


「まあ私も手伝ってやろう…
 光の剣で一瞬で塵にしてやるさ」


「私も!私も!」


クレアが手伝ってくれるなら百人力だろう。
更にユーリも手を挙げた。
二人がいれは戦力としては申し分ない。


「俺はちょっと用事が…」


カートは遠慮しようとするが、
クレアが逃がさない…


「カート、お前まさか…
 自分だけ逃げようだなんて、
 考えてないよな?」
 

「そ、そんな訳ないだろう…
 ゲ、ゲイルも一緒だ…」


「は?」


いきなり火の粉が降りかかってきて唖然とするゲイル。
ジト目でカートを睨むが、してやったりと言った顔をしている。



そして賢者は、気絶しているサリーを、
見つめながら声を発する。


「魔族の娘、サリーの件だが、
 エレノアが死んだ今、
 サリーにかかる奴隷術は消え去った」


さらに賢者から提案があった。
サリーはエルフ達を操っていたが、
すぐに解除してしまうのもリスクが高い。
王都に移送して王の判断のもと解除させる。
そして明後日には討伐部隊を編成して、
クラーケンに挑むことになったのだ。
 

「まあ、せっかくの魔宝祭なんだ…
 今日と明日は楽しもうじゃないか」


ユーリは、祭という言葉で思い出した。
ユーリにとっては、とても大事なのだ。


「カートさん、
 そういえば作戦成功したら、
 奢ってくれるって…」


「カート!
 お前は、何ていい奴なんだ!」


クレアは、ユーリに同調して自分もカートに奢らせる作戦に出た。
囮捜査の件はこれでチャラにしてやろうと考えたのだ。


「な、な、な」


なななおじさんと化したカート。
一体いくら金が消えるか見当もつかない。
断れない状況にカートは青い顔をしている。
そっとゲイルはカートの肩に手を置いた。
諦めろと言っているような仕草だ。


「わ、分かった!
 男に二言はない。
 奢ってやるよ」


「やった~~~
 もうお腹、ぺこぺこだったんだ~」


ユーリは、腹が減りすぎて幻覚を見ていた。
そろそろ隣のクリスが食べ物に見えそうな気がしていたのだ。


そして魔宝祭を見るためにたくさんの人が訪れている。
祭りは何事もなかったように再開した。


ユーリは目を輝かせながら屋台を楽しんだ。
隣にいるクレアも楽しそうにしている。
そして、カートにお金を払わせて次の屋台へ向かう。



「クリス…」


「何ですか?父上」


ゲイルは賢者から、クレアが里で命を落とすはずだったと聞いた。
それを聞いたゲイルは、改めてクリスと話をしたかったのだ。


「クレアは未来で亡くなっていたのか?」


「はい、俺が二歳の時です…」


ゲイルは一瞬、驚く表情を見せるが、
その後は普段は見せない優しい表情に変わる。


「クリス、ありがとう…
 クレアを救ってくれて…」


クリスは、父親に感謝をされる事は殆どなかったので驚いている。
ゲイルは、一番に駆けつけたかったが、
騎士団の中で怪我人が出てしまい到着が遅れてしまった。
守ってくれたクリスに心から感謝していた。


「父上、行きましょう!
 早くしないとユーリのやつが、
 屋台の食べ物を食べ尽くしますよ」

クリスは笑いながらゲイルを引き連れていく。


その後は食事処で、どんちゃん騒ぎだった。
特にユーリが遠慮なく注文を頼む。
カートは冷や汗をかきながら注文を変えようとすると、クレアに注意される。
それは楽しい祝勝会だった。




そして夜が明けて朝を迎えると、
赤い髪の少女が目を覚ました。
少女は、自分の意志で歩いたことがない。
困惑しながら部屋のドアを開けると、
正面に見える人物が声をかけた。


「サリー、起きたのか…」


それは賢者である。
サリーは生まれてから奴隷だったが、
エレノアが死んで奴隷紋は無くなった。
彼女の物語は、ここから始まるのだ…

そして今日から自分の意志で歩き出す。
だが、これから待ち受ける運命が壮絶なものだとは誰も知らない…
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

チート転生~チートって本当にあるものですね~

水魔沙希
ファンタジー
死んでしまった片瀬彼方は、突然異世界に転生してしまう。しかも、赤ちゃん時代からやり直せと!?何げにステータスを見ていたら、何やら面白そうなユニークスキルがあった!! そのスキルが、随分チートな事に気付くのは神の加護を得てからだった。 亀更新で気が向いたら、随時更新しようと思います。ご了承お願いいたします。

神に同情された転生者物語

チャチャ
ファンタジー
ブラック企業に勤めていた安田悠翔(やすだ はると)は、電車を待っていると後から背中を押されて電車に轢かれて死んでしまう。 すると、神様と名乗った青年にこれまでの人生を同情された異世界に転生してのんびりと過ごしてと言われる。 悠翔は、チート能力をもらって異世界を旅する。

若返ったおっさん、第2の人生は異世界無双

たまゆら
ファンタジー
事故で死んだネトゲ廃人のおっさん主人公が、ネトゲと酷似した異世界に転移。 ゲームの知識を活かして成り上がります。 圧倒的効率で金を稼ぎ、レベルを上げ、無双します。

あいつに無理矢理連れてこられた異世界生活

mio
ファンタジー
 なんやかんや、無理矢理あいつに異世界へと連れていかれました。  こうなったら仕方ない。とにかく、平和に楽しく暮らしていこう。  なぜ、少女は異世界へと連れてこられたのか。  自分の中に眠る力とは何なのか。  その答えを知った時少女は、ある決断をする。 長い間更新をさぼってしまってすいませんでした!

暇つぶし転生~お使いしながらぶらり旅~

暇人太一
ファンタジー
 仲良し3人組の高校生とともに勇者召喚に巻き込まれた、30歳の病人。  ラノベの召喚もののテンプレのごとく、おっさんで病人はお呼びでない。  結局雑魚スキルを渡され、3人組のパシリとして扱われ、最後は儀式の生贄として3人組に殺されることに……。  そんなおっさんの前に厳ついおっさんが登場。果たして病人のおっさんはどうなる!?  この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。

前世ポイントッ! ~転生して楽しく異世界生活~

霜月雹花
ファンタジー
 17歳の夏、俺は強盗を捕まえようとして死んだ――そして、俺は神様と名乗った爺さんと話をしていた。話を聞けばどうやら強盗を捕まえた事で未来を改変し、転生に必要な【善行ポイント】と言う物が人より多く貰えて異世界に転生出来るらしい。多く貰った【善行ポイント】で転生時の能力も選び放題、莫大なポイントを使いチート化した俺は異世界で生きていく。 なろうでも掲載しています。

処理中です...