女子にモテる極上のイケメンな幼馴染(男)は、ずっと俺に片思いしてたらしいです。

山法師

文字の大きさ
5 / 38

5 気ぃ抜けた

しおりを挟む
「泊まり、了解って」
「……うぇい」
「うぇいってなんだ、うぇいって」

 父に『圭介の家にいる。遅くなったらこのまま泊まって、朝の電車で帰る。朝ご飯作れるかは微妙』とメッセージを入れた。返ってきたのは『わかった。こっちは大丈夫。そっちも大丈夫だろうけど、迷惑のないようにな』というメッセージ。
 それに了解のスタンプを返し、スマートフォンを暗くして、圭介へ顔を向ける。
 後ろにあるソファの隅っこで膝を抱えていた圭介はこちらを見ていたようで、奏夜が顔を向けた瞬間に勢いよく反対側へ顔を向けた、らしいのが髪の動きで推測できた。遅れるようにして、体もそちらへ向き直ってしまう。膝を抱えたままで。

 数分前、圭介の膝の上で呼吸を整えた奏夜は、「色々聞きたいから家上がらせろ」と、若干怒気交じりに言った。

「いやぁ~……家にー……上げるのはいいけども……そーちゃんは大丈夫?」

 及び腰な様子で聞かれた内容に、首を傾げる。

「いや、だっ、その、あー……俺、そーちゃんに、……き、す、した、じゃん……」

 目を逸らしながら小声で言われ、余計に首を傾げた。

「それも含めて聞きたいんだけど?」
「……。うーっす……」

 どこかガックリしているような圭介をリビングダイニングに押しやり、照明と暖房をつけて上着を脱いだところで、「そういや今何時だ?」と確認すると、午後十時前。
 話がどれだけ長くなるかもわからないし、終電を気にしながら話すのも気が散るからと、圭介に断りを入れてから父に連絡を取って、今に至る。
 圭介の住むアパートは築年数だけ見れば古いが、リノベーションをしているため、清潔で明るい内装となっている。1LDK、風呂トイレ別の間取りで、防音対策も取られているという。一人暮らしの大学生が住む部屋としては『良い部屋』の部類に入るらしい。らしい、というのは、奏夜は一人暮らしをしていないし、周りにも一人暮らしをしている大学生は少ないため、サンプルに乏しいという理由がある。

「話の前になんか飲んでいい? てか圭介お前、ご飯食べた?」

 リビングダイニングの真ん中に置かれたローテーブルに陣取っていた奏夜は、ローテーブルにスマートフォンを置いて立ち上がる。

「ごはん……」

 呟くように言った圭介の言葉を補足する気持ちで「そう、夜ご飯」と言う。

「……食べてない。結果的に」
「結果的?」

 食器棚が置かれているキッチンに向かいながら、意味がつかめなかった部分を復唱すると、「うん、結果的に」と声が返ってきた。

「話があるって、七時過ぎくらいだったかな。連絡貰ってさ、カフェで待ち合わせたんだよな」

 ソファを下りたらしい圭介の、近づいてくる声を聞きながら、奏夜は食器棚からマグカップを取り出し、水を注いでレンジ加熱する。

「それで? あ、紅茶のパック貰う」
「どーぞ。そんで、食事でもしながら話しましょう、みたいな感じになったんだけど、まあ、別れ話な訳で」

 棚から紅茶の箱を取り出し、レンジでお湯にしたマグカップの中に一パック入れ、箱を棚に戻す。

「料理は頼んじゃったから運ばれてきたんだけど、ま、どっちも食える状況じゃねーし」

 左隣に立った圭介へ顔を向ければ、俯き加減に、どこか遠くを見るような目をしていた。

「さよならって、その子、店出てっちゃって。俺もぜーんぜん食欲なかったから、並べられた料理前にしてごめんなさいって金だけ払って出た」
「……そうか」

 マグカップから取り出したティーバッグを三角コーナーに捨て、マグカップを手に取る。
 紅茶を一口飲んだ奏夜は、圭介へ顔を向けた。

「その子と、よりを戻したいとかは?」
「……ない、かな。駄目だったなぁって思ってるだけだと思う」

 俯いたまま、自嘲するように薄く笑みを作って肩を竦める圭介を見て、紅茶を一気に飲んだ奏夜は。

「なら、お前はまず、軽くなんか食べろ」
「なんも食いたくない」

 一刀両断するように言われ、言葉に詰まる。

「……本当に? なんも? なんにも食べたくない? 全く何も?」

 マグカップを洗ってラックに置きながら、念を押すように聞いた。

「んー……」

 こてん、と頭を傾けた圭介は、奏夜の後ろに回り、奏夜の脇の下にするりと両腕を通して腹の前で交差させる。そのまま、奏夜を軽く抱きしめてきた。

「食べたいもんはないけど……」

 奏夜の左肩に顎を置いた圭介の声が、

「食べたい人はいる、かなぁ」

 鼓膜だけでなく、肉や骨を震わせる。

「……一応聞くけど、カニバリズムじゃねぇよな?」

 聞いたら、ははっと笑われた。

「食人主義者じゃありませーん。てか、そーちゃん、ここまでされてもわかんない?」
「お前の距離感、基本バグってるからな。さっきのキスがなきゃマジで疑問に思ってたかも」
「そーちゃん限定でバグらせてんだよ」

 内容よりも、骨に響くような低い声で言われたことに少なからず驚いて、肩がビクリと跳ねた。

「……そうだったのか」
「うん、そう」

 嫌な音を立てる心臓を無視して、感心するように言ってみたら、軽い調子で肯定される。

(調子狂う……)

 圭介の言動が、どこか恐ろしく感じられる。
 恐ろしい、というか、脅かされている、というような。
 幼い頃から一緒に育った、家族のような幼馴染。
 大事で大切で、大好きな幼馴染。
 その幼馴染を、こんなふうに脅威に思ったことはない。

「もうあれだから言うけどさ、俺、そーちゃんのこと大好きだから」

 軽い口調で言われるそれが、体に絡みついてくる気がする。

「比喩的に食べたいくらい大好きなんだよね。キスしてる時のそーちゃん、エロかったなぁ……」

 次々に絡みついてくる言葉は重たくて、奏夜の心を締め上げる。
 いつの間にか呼吸が浅くなって、心臓が早鐘を打つ。
 ここにいてはいけないと、誰かが言う。
 ここにいてはいけない。逃げろ。
 こいつは、幼馴染の皮を被った化け物だ。

「──すっげぇドキドキしてるね、そーちゃん」

 胸に、圭介の右手が触れてくる。
 いつもなら他愛ない触れ合いなのに、今はその手を払い除けたくてたまらない。

「どういうドキドキ? これ。嬉しくてドキドキしてる? それとも」

 ──怖くて、ドキドキしてる?

「…………圭介、やめろ」

 放った声は、あまり震えないでくれた。

「ん、何を?」
「一回俺から離れろ」
「……へーい」

 少しの間のあと、半分のしかかるようになっていた圭介の体が離れていく。

「帰んなら今のうちだよ、そーちゃん」

 明るく言われて、舌打ちをしそうになった。

「……帰らなかったら?」
「あ?」
「帰らなかったらって言ったんだよ」
「馬鹿なの? 食うに決まってんじゃん。そーちゃんほっそいから、腕力も体力も俺に敵わねぇよ? 組み敷くなんて一瞬だから」

 吐き捨てるように言われる台詞。どんな顔をして言っているのか。

「だから、帰りな」

 駄々をこねる子供に言い聞かせるようなその言葉を聞いて、奏夜の顔が怒りに歪む。

「……そんなに、怖いか」
「は?」

 後ろへ振り返れば、腰に片手を当て、不愉快そうに眉をひそめている圭介がいた。

「そんなに怖いかって言ったんだよ。……俺に、嫌われるのが!」

 虚を突かれたような顔をした圭介に詰め寄り、その鼻先に人差し指を突きつける。

「わざとだろ、さっきから。俺を怯えさせて逃げ帰らせたい。二度と関わるもんかって思わせたい。そんな理由で誰が帰るか。お前の幼馴染ナメんじゃねぇぞ」

 人差し指を突きつけた右手で拳を作り、呆気にとられている様子の圭介の胸に押し当てる。

「洗いざらい吐け。言いたいこと全部言え。全部聞くし受け止めるし、返せるもんは返すから」

 そこまで言って、一度下を向いて息を吐き出し、改めて圭介へ顔を向ける。
 なるべく、穏やかに見えるだろう表情で。

「だから、そんな怯えんな。圭介」

 言ったら、呆気にとられたままの圭介の顔、その口が、少し震えながら動いた。

「……たぶん、きめぇよ」
「わかった」
「重いし」
「そっか」
「長い気もする」
「うん」

 大丈夫だ、と頷けば、圭介の顔がぐしゃりと歪んだ。

「………………最後まで、全部、聞いてくれんの? そーちゃん」
「聞く。逃げないし、帰らない。泊まるんだから気にすんな」
「俺、トチ狂って襲うかもよ?」
「お前はトチ狂って俺を襲ったりしない」

 胸を張って言えば、呆れ気味の視線をよこされる。

「俺にキスされたくせに」
「あれは同意の上」
「そーちゃんの同意ラインが緩すぎる……」

 顔に右手を当て、はぁぁ~~~と長く息を吐いた圭介は、そのままずるずると床に座り込んだ。

「……なんか、気ぃ抜けた……」

 俯いた圭介の言葉を聞きながら、奏夜も同じようにしゃがみ込んで、明るい茶色の頭をぽふぽふ撫でる。

「やっぱ腹減ってんだろ」
「違うと思う」

 圭介が言い終わらないうちに、ぐぅーという音がその場に響く。
 音からして腹の虫だが、奏夜のものではない。
 とすると。

「……やっぱ腹減ってんだろ」
「……みたいです……んだよもー……カッコつかねぇじゃん……」

 情けなく聞こえる声で認めた圭介の髪の間から覗く耳は、赤く染まっていた。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

今日もBL営業カフェで働いています!?

卵丸
BL
ブラック企業の会社に嫌気がさして、退職した沢良宜 篤は給料が高い、男だけのカフェに面接を受けるが「腐男子ですか?」と聞かれて「腐男子ではない」と答えてしまい。改めて、説明文の「BLカフェ」と見てなかったので不採用と思っていたが次の日に採用通知が届き疑心暗鬼で初日バイトに向かうと、店長とBL営業をして腐女子のお客様を喜ばせて!?ノンケBL初心者のバイトと同性愛者の店長のノンケから始まるBLコメディ ※ 不定期更新です。

ド陰キャが海外スパダリに溺愛される話

NANiMO
BL
人生に疲れた有宮ハイネは、日本に滞在中のアメリカ人、トーマスに助けられる。しかもなんたる偶然か、トーマスはハイネと交流を続けてきたネット友達で……? 「きみさえよければ、ここに住まない?」 トーマスの提案で、奇妙な同居生活がスタートするが……… 距離が近い! 甘やかしが過ぎる! 自己肯定感低すぎ男、ハイネは、この溺愛を耐え抜くことができるのか!?

イケメン後輩のスマホを拾ったらロック画が俺でした

天埜鳩愛
BL
☆本編番外編 完結済✨ 感想嬉しいです! 元バスケ部の俺が拾ったスマホのロック画は、ユニフォーム姿の“俺”。 持ち主は、顔面国宝の一年生。 なんで俺の写真? なんでロック画? 問い詰める間もなく「この人が最優先なんで」って宣言されて、女子の悲鳴の中、肩を掴まれて連行された。……俺、ただスマホ届けに来ただけなんだけど。 頼られたら嫌とは言えない南澤燈真は高校二年生。クールなイケメン後輩、北門唯が置き忘れたスマホを手に取ってみると、ロック画が何故か中学時代の燈真だった! 北門はモテ男ゆえに女子からしつこくされ、燈真が助けることに。その日から学年を越え急激に仲良くなる二人。燈真は誰にも言えなかった悩みを北門にだけ打ち明けて……。一途なメロ後輩 × 絆され男前先輩の、救いすくわれ・持ちつ持たれつラブ! ☆ノベマ!の青春BLコンテスト最終選考作品に加筆&新エピソードを加えたアルファポリス版です。

鳴成准教授は新しいアシスタントを採用しました。実は甘やかし尽くし攻めの御曹司でした。

卯藤ローレン
BL
逢宮大学准教授の鳴成秋史は、自分の授業サポートをしてくれるTA(ティーチングアシスタント)を募集していた。 そこに現れたのは、月落渉と名乗る男。 志望動機を問うと、男はこう答えた。 「端的に言うと迷子です。迷える子羊のような気持ちで」 「……はい?」 独特なペース、冗談か真実か分からない。 けれど、鳴成は採用を決めた。 理由は、『自分に興味のなさそうな雰囲気に惹かれたから』。 それが、男の完璧なる包囲網の一端に既に引っかかっているとも知らずに――。 仕事の枠を超え持てる全てで全力サポートするハイスペック年下御曹司×穏やかで大人な年上准教授。 ベタベタしてないのにものすっごくイチャイチャしてる、日常系ラブコメです。

アイドルくん、俺の前では生活能力ゼロの甘えん坊でした。~俺の住み込みバイト先は後輩の高校生アイドルくんでした。

天音ねる(旧:えんとっぷ)
BL
家計を助けるため、住み込み家政婦バイトを始めた高校生・桜井智也。豪邸の家主は、寝癖頭によれよれTシャツの青年…と思いきや、その正体は学校の後輩でキラキラ王子様アイドル・橘圭吾だった!? 学校では完璧、家では生活能力ゼロ。そんな圭吾のギャップに振り回されながらも、世話を焼く日々にやりがいを感じる智也。 ステージの上では完璧な王子様なのに、家ではカップ麺すら作れない究極のポンコツ男子。 智也の作る温かい手料理に胃袋を掴まれた圭吾は、次第に心を許し、子犬のように懐いてくる。 「先輩、お腹すいた」「どこにも行かないで」 無防備な素顔と時折見せる寂しげな表情に、智也の心は絆されていく。 住む世界が違うはずの二人。秘密の契約から始まる、甘くて美味しい青春ラブストーリー!

【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】

紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。 相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。 超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。 失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。 彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。 ※番外編を公開しました(2024.10.21) 生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。 ※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

やけ酒して友人のイケメンに食われたら、付き合うことになった

ふき
BL
やけ酒の勢いで友人に抱かれた榛名は、友人の隠された想いに気付いてしまう。 「お前、いつから俺のこと好きなの?」 一夜をなかったことにしようとする瑞生と、気付いたからには逃げない榛名。 二人の関係が、少しずつ変わっていく。 瑞生(ミズキ)×榛名(ハルナ)

処理中です...