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第二章 竜の文化、人の文化
十四話
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「昨日、伝えたろう。監視とは言わず教師として、ファスティを紹介すると」
「聞いたわ。聞いたけど納得しかねるのよ」
その〈監視〉の部分に。
眇められた蒼と視線を合わせた後、ヘイルはそれを先へと投げる。
「俺が全面同意したと思うか? ……だが、それを承諾しなければ、あの会議は永遠に続いていた」
ヘイルは肩を落とし、視線の先──アイリスを見つめ、嘆息する。
「俺も、彼らも。人の事など、僅かしか知り得ていないというのに」
〈人〉の何を、分かっているというのか。そう呟き、ヘイルはまた溜め息を吐く。
「特にマーガントは、凝り固まって融通が利かない。そんな中で説得するのは、通常時より骨が折れる……」
「まあ、それはその通りでしょうけど……」
ブランゼンも渋い顔で頷いて、アイリス達へ目を向けた。
「それで、なんでファスティ?」
ヘイルは生まれた時から、自分はパートナーとして選ばれた時から。そんな幼い頃から知る顔を、ブランゼンは懐かしく、しかし首を傾げて眺めた。
「監視──審査に基づいた根拠を突きつけるには、信頼の置ける者である必要がある」
「あれを真に受けてるの?!」
顔を顰めたブランゼンへ、ヘイルも同じ表情を作る。
「そんな単純には考えてない。だが会議の場で、そう証言した。それは取り消せない」
「……そんな、上手くいくの?」
「いかせる。ファスティにもそう伝えてあるし、協力すると言ってくれた。それに」
これが一番重要だったんだが。
そう前置きし、ヘイルは真剣な眼差しで、
「……ファスティなら、万が一も有り得ない」
「えええええ?!」
その言葉に被さるように、アイリスの声が高く響いた。
「…………今度は、何だ」
「……まあ、行きましょうか。遅くなったけどお疲れ様」
疲れた声を出すヘイルの肩を叩き、ブランゼンはその歓声へ足を向ける。
「なにこれちっさい頃のヘイル?!」
はしゃぐゾンプの声を聞き、
「……」
ヘイルも渋面になりながら、その輪に近付いていった。
「ええ、五十三の頃の坊ちゃまです」
ファスティの持つ楕円の板には、ある情景が映し出されている。
そこは、どこかの庭園らしかった。様々に咲き誇る花を背に、銀とも白ともつかない輝く髪を持った幼子が立ち、
『早くー!』
向かって左へ手を振っている。
「い、色がとても、鮮明……いえ、動い……声……?!」
アイリスは口をはくはくと動かし、形にならない言葉を、それでもなんとか声にする。
「〈追憶の刻〉の再生をしております、アイリスさん。そろそろ、そちらからブランゼンお嬢様が……」
ファスティが言い終えない内に、
『ヘイルが早いの!』
柔らかそうな金髪を翻し、同い年ほどの子供が駆け寄って来た。
『もう! これ新しいから走りにくいのよ!』
レースがふんだんに使われたドレスの裾を蹴り上げ、少女はふん! と息を吐いた。
『ランジー、ドレスは走るための服じゃないから』
『あなたが早くって言ったんじゃない』
『うん……』
幼いヘイルは頭を掻き、こちらを向いた。
『……ファスティ? また撮ってるの?』
『え?! 今のも?!』
優しげな笑い声が控えめに響き、その〈画〉がヘイル達に近くなる。
『これも私の役目ですから。思い出は、きちんと記録しておきませんとね』
今より若い、けれど本竜と分かるファスティの声が聞こえた。
「すっげ……画質がめっちゃ良い……」
「さすが長の家」
「そも、そも……何が……どういう仕組みで……?」
食い入るようにそれを見つめる子供達と、もはや慄くように呟くアイリス。その後ろで、ブランゼンは額に手をやり、
「別の万が一が起きてると思うわ、ヘイル」
ぼやくように言った。
「まあ、ブランゼンお嬢様。私は『何か見慣れない魔導具は無いか』と聞かれましたので、こうしているだけで御座います」
「他に無かったのか……? 何故……それを……」
何とも言えない表情で画面を見ながら、ヘイルも気の抜けた声を出す。
「これらは提出した記録の予備の予備です。何かあった際にと、私が肌身離さず持っているもので御座います」
ファスティは自身の言葉に頷き、
「ええ、ですから、すぐに取り出せるものでもあるんですよ。何か、がこんな場になるとは、私も思ってもみませんでしたが」
そして上品に微笑み、〈追憶の刻〉と呼んだ魔導具へ目を移す。
「この頃の坊ちゃまもお嬢様方も、とても可愛らしく手間のかかる……今とあまり変わりませんねぇ」
「変わっててくれ……」
天を仰いだヘイルの顔が、
『ヘイル、ブランゼン』
その声で、追憶の刻へ戻される。
「ヘ、ヘイル……?」
そこに現れたのは、ヘイルと瓜二つ──
「年いってるね」
に、何十年か、竜にすれば何百年かの、重ねた年齢を思わせる者。
「俺の、祖父だな」
「時々、話に出てくる?」
「ああ」
ズィンの問いに、ヘイルは頷く。その目を、懐かしそうに細めて。
「聞いたわ。聞いたけど納得しかねるのよ」
その〈監視〉の部分に。
眇められた蒼と視線を合わせた後、ヘイルはそれを先へと投げる。
「俺が全面同意したと思うか? ……だが、それを承諾しなければ、あの会議は永遠に続いていた」
ヘイルは肩を落とし、視線の先──アイリスを見つめ、嘆息する。
「俺も、彼らも。人の事など、僅かしか知り得ていないというのに」
〈人〉の何を、分かっているというのか。そう呟き、ヘイルはまた溜め息を吐く。
「特にマーガントは、凝り固まって融通が利かない。そんな中で説得するのは、通常時より骨が折れる……」
「まあ、それはその通りでしょうけど……」
ブランゼンも渋い顔で頷いて、アイリス達へ目を向けた。
「それで、なんでファスティ?」
ヘイルは生まれた時から、自分はパートナーとして選ばれた時から。そんな幼い頃から知る顔を、ブランゼンは懐かしく、しかし首を傾げて眺めた。
「監視──審査に基づいた根拠を突きつけるには、信頼の置ける者である必要がある」
「あれを真に受けてるの?!」
顔を顰めたブランゼンへ、ヘイルも同じ表情を作る。
「そんな単純には考えてない。だが会議の場で、そう証言した。それは取り消せない」
「……そんな、上手くいくの?」
「いかせる。ファスティにもそう伝えてあるし、協力すると言ってくれた。それに」
これが一番重要だったんだが。
そう前置きし、ヘイルは真剣な眼差しで、
「……ファスティなら、万が一も有り得ない」
「えええええ?!」
その言葉に被さるように、アイリスの声が高く響いた。
「…………今度は、何だ」
「……まあ、行きましょうか。遅くなったけどお疲れ様」
疲れた声を出すヘイルの肩を叩き、ブランゼンはその歓声へ足を向ける。
「なにこれちっさい頃のヘイル?!」
はしゃぐゾンプの声を聞き、
「……」
ヘイルも渋面になりながら、その輪に近付いていった。
「ええ、五十三の頃の坊ちゃまです」
ファスティの持つ楕円の板には、ある情景が映し出されている。
そこは、どこかの庭園らしかった。様々に咲き誇る花を背に、銀とも白ともつかない輝く髪を持った幼子が立ち、
『早くー!』
向かって左へ手を振っている。
「い、色がとても、鮮明……いえ、動い……声……?!」
アイリスは口をはくはくと動かし、形にならない言葉を、それでもなんとか声にする。
「〈追憶の刻〉の再生をしております、アイリスさん。そろそろ、そちらからブランゼンお嬢様が……」
ファスティが言い終えない内に、
『ヘイルが早いの!』
柔らかそうな金髪を翻し、同い年ほどの子供が駆け寄って来た。
『もう! これ新しいから走りにくいのよ!』
レースがふんだんに使われたドレスの裾を蹴り上げ、少女はふん! と息を吐いた。
『ランジー、ドレスは走るための服じゃないから』
『あなたが早くって言ったんじゃない』
『うん……』
幼いヘイルは頭を掻き、こちらを向いた。
『……ファスティ? また撮ってるの?』
『え?! 今のも?!』
優しげな笑い声が控えめに響き、その〈画〉がヘイル達に近くなる。
『これも私の役目ですから。思い出は、きちんと記録しておきませんとね』
今より若い、けれど本竜と分かるファスティの声が聞こえた。
「すっげ……画質がめっちゃ良い……」
「さすが長の家」
「そも、そも……何が……どういう仕組みで……?」
食い入るようにそれを見つめる子供達と、もはや慄くように呟くアイリス。その後ろで、ブランゼンは額に手をやり、
「別の万が一が起きてると思うわ、ヘイル」
ぼやくように言った。
「まあ、ブランゼンお嬢様。私は『何か見慣れない魔導具は無いか』と聞かれましたので、こうしているだけで御座います」
「他に無かったのか……? 何故……それを……」
何とも言えない表情で画面を見ながら、ヘイルも気の抜けた声を出す。
「これらは提出した記録の予備の予備です。何かあった際にと、私が肌身離さず持っているもので御座います」
ファスティは自身の言葉に頷き、
「ええ、ですから、すぐに取り出せるものでもあるんですよ。何か、がこんな場になるとは、私も思ってもみませんでしたが」
そして上品に微笑み、〈追憶の刻〉と呼んだ魔導具へ目を移す。
「この頃の坊ちゃまもお嬢様方も、とても可愛らしく手間のかかる……今とあまり変わりませんねぇ」
「変わっててくれ……」
天を仰いだヘイルの顔が、
『ヘイル、ブランゼン』
その声で、追憶の刻へ戻される。
「ヘ、ヘイル……?」
そこに現れたのは、ヘイルと瓜二つ──
「年いってるね」
に、何十年か、竜にすれば何百年かの、重ねた年齢を思わせる者。
「俺の、祖父だな」
「時々、話に出てくる?」
「ああ」
ズィンの問いに、ヘイルは頷く。その目を、懐かしそうに細めて。
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