竜の都に迷い込んだ女の子のお話

山法師

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第二章 竜の文化、人の文化

六話

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 タウネの言葉をぶった切り、隣のゾンプが声を張り上げた。

「ゾンプ・ライズフェンター、百十二歳! 昨日来てもらった店がうちで右のモアとは双子! 今ハマってるのはどれだけ高く飛べるか! ほいモア!」

 ゾンプは一気に元気に喋り、モアへと繋ぐ。モアはこくりと頷き話し出す。

「モア・ライズフェンター。ゾンプと双子だから同い年、百十二歳。でもゾンプは弟っぽいって感じてるの」
「おとうと?!」
「人間の世界を知りたいのはほんとだけど、アイリスとも仲良くなりたいと思ってる……以上」

 ゾンプが上げた声はさらりと受け流し、モアはそう締めた。

「……あー、えっと。ダンファ・リンガー、百十九……もうちょいで百二十」

 その隣、子供達の中で一番背の高い子供が、躊躇いがちに喋り出す。

「こん中では俺が一番上だけど……いつも引っ張るのはゾンプだな。ハマってる事……?」

 肩につかない程度の青灰色の髪が揺れ、黒の瞳が上を向く。

「あ、最近魔道具系作ったりしてる。うん、そんなもん」

 ダンファは何度か頷いて、左隣へ視線を投げた。

「……ドゥンシー・ベクライズ……百五歳……一人っ子……」

 ドゥンシーは少し前屈みになる。左右に分けた、長く量の多い胡桃の木ウォルナット色の三つ編みが、それに倣うように横から前へ移動する。

「お父さんとお母さんはお医者さん……私は医者を目指してる訳じゃないけど……でも」

 そこで俯いていた顔を上げ、

「人間の事は、知りたい」

 長い前髪の奥から、明るい紫がアイリスへ向けられた。

「僕はケルウァズ・ブルクウェルザ」

 自分の番と見て、隣の子供が口を開く。

「九十五歳、ハマってるのは魔力投げ」

 ケルウァズは足を振りながら、濃いオレンジの頭も揺らす。

「家は普通。人間に興味ある。だからここまで一緒に来たんだし」

 ケルウァズは若葉を思わせる色の瞳を細め、笑った。

「そんな感じ。宜しく」

 最後の一竜ひとりはまだ少し戸惑っているようで、

「……えー、……」

 アイリスと横の仲間達とを見比べ、口ごもる。

「……あの」
「あっいや! 言います! 言うから!」

 それを見たアイリスが声を掛けようとすると、慌てたように両腕を大きく振った。

「あ、や、いえ」
「ジ、ズィン・ケンヴァイト! 九十八歳! です! えっ……とハマっ……趣味、は観察……? です! よろしくお願いします!」

 言い切った勢いのまま下げられた頭に、アイリスは目を丸くする。

「は、はい……あの、そこまで畏まらなくとも……」

 アイリスがそう言うと、

「はい!」
「ぃえっ?」

 ズィンはまた勢い良く顔を上げた。その拍子に、後ろで短く結われた黒髪が、何かの尾のように跳ねる。

「あ、ええと、それでは……今度は私の番ですね」

 同じ様に跳ねた肩を落ち着かせ、アイリスは姿勢を正した。

(やる事は同じ。余裕と慎ましさ、たおやかさを見せるように……)

 家庭教師に教わった事。何度も繰り返した茶会の場。それらを思い出しながら、アイリスは微笑みを作る。

「アイリス……元の家名はジェーンモンドですが、今はただのアイリスと申します」
(……こんな名乗りは初めてね)

 ここに来るまでは形式に則って、来てからは流れのまま名を告げていた。そう思い返しながらも顔には出さず、アイリスはほんの少し笑みを深める。

「ヘイル・ノベリウス・ルーンツェナルグ様に命を拾われ、ブランゼン・ヴィドニア様とシャオン・ヴィドニア様にも手を差し伸べて頂き……私は、この〈玻璃の都〉に生活の場を頂きました」

 そしてゆっくりと、全体を見渡すように顔を巡らせ、声を響かせる。

「歳は十四になります。突然人間がやってきて、皆様の困惑を招いたと思いますが……」

 その姿は凛として、瞳や唇やその声が、芳しい花の如く見る者を引き寄せる。けれど。

(趣味、は話すべきかしら……お姉様なら、もっと上手にやれたんだろうな……)

 やはり自分は不出来であると、痛感しながらアイリスは口を動かした。

「ここで生きるためにも、みなさまへの理解を深めたいと考えております。どうぞ、宜しくお願い致します」

 少し、固い挨拶になってしまった。アイリスは今の言葉を省みつつ、その口を閉じる。

「…………?」

 そして、周りが惚けたように自分を見つめている事に、僅かに首を傾げた。


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