竜の都に迷い込んだ女の子のお話

山法師

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第二章 竜の文化、人の文化

七話

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「アイリス……本気出したね……」

 途中から前に出て、こちらを見ていたシャオンが呟く。

「へ」

 その言葉にアイリスはさらに首を傾げ、一拍してから顔を青くした。

「……あの、私、もしかして可笑しな事を言っていましたか……?」
「え? いや? 別に?」
「???」

 あっけらかんとしたシャオンの否定に、アイリスの困惑は深まる。

「…………え? 何?」

 夢から醒めたばかりのように、ゾンプは目を瞬かせた。そして恐る恐る聞いてくる。

「……まさか、アイリスって貴族とかいうやつ?」
「え? いえ、平民です」

 アイリスはゆるく首を振った後、少し考え、付け足した。

「……家は、お金はあったので爵位を持つ方々と交流を持ってはいましたが……姉の婚約者も伯爵家の方ですし……けど、それくらいで」

 自分は大した事はないのだと、眉を下げて微笑む。

「……待って良く分かんないけどなんか凄いんじゃない? え? は??」

 それを聞いたゾンプはより混乱したのか、頭を抱えて仰け反った。

「え? その……別に私自身は」
「……なあ。てか、じゅうし? って聞こえたんだけど」

 ケルウァズが腕を組み、オレンジの頭を斜めに傾けた。

「赤ん坊じゃん」
「そういや、そう言ったな」
「十四……まだ飛べない……頃……?」
「そっかそれもあった! もう何?!」

 子供達はほぼ全員、名乗る前より混乱し出す。

「え、いえその、私の──」
「人間の寿命と私達の寿命は長さが違うって、ヘイルさんから聞いてる」

 慌てたアイリスが何か言う前に、モアの言葉でぴたりと騒めきが静まった。

「確か、人は私達の十分の一くらい。合ってる? ブランゼンさん」

 モアに問われ、ブランゼンは頷いた。

「ええ。個体差はあるけれど、大体十から十三分の一。はいじゃあ皆、アイリスの歳を竜の年齢に直してみて」

 皆、一瞬難しい顔になり、次いでそれが驚きの表情に変わっていく。アイリスはそれを、どこか緊張しながら見つめる。

(竜の寿命は……短くても八百年。長ければ、千年を超える。人間の、十倍以上)

 昨日アイリスが驚いた、竜についての寿命の話。千年など、人にとっては御伽噺のような年月。

「……低くて、百四十?」

 ドゥンシーが小声で言い、

「高くて百八十二?! はあ?! おれよりねーちゃんに近い?!」

 ゾンプがまた仰け反った。
 顔を見合わせたり叫んだり椅子から立ち上がったり。そんなゾンプ達を見ながら、

『俺は二百五十二で、ブランゼンが二百四十七。シャオンは二百四十六か』
『なんで私のも言うのよ』
『別についでに言っただけだ。問題ないだろう』
『自分で言いたかったんだけど』

 アイリスは昨日の、ヘイルとブランゼンのやりとりを思い出す。

「だってどう見ても百かそこいらだろ?! 俺と同じくらいの背だし見た目も……」

 そこでゾンプの声は萎み、勢い余って立ち上がった状態のまま、何事か呟く。

「だから……さっきの……」
「ゾンプ。アイリスさんが年上だからあんな雰囲気を出せた、みたいな簡単な事じゃないと思うの」
「はっ?!」

 モアの言葉に、ゾンプの肩が跳ねた。

「はん?! そんな事言ってないし?!」
「けど、俺より上だとは思わなかったな。いっても同じくらいだと思った」

 ダンファがしみじみと言い、ドゥンシーとズィンがそれに頷く。

「その、私は小柄な方ですし……童顔とも言われますし……そう思われても不思議ではないかと」


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