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18 主
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「調子どう?」
老いた大木、この山の主の幹に手を当て、シャルプは軽く問いかける。
「……そんな変わんないかぁ」
【真の者】であるシャルプは、この山に初めに魔法をかけた【真の魔法使い】と同格の力を持っている。
それはその魔法を完璧に引き継げる事も意味し、こうして昔の【真の者】によって山の主となった老木と、意志疎通も可能になる。
「ごめん、師匠はもうちょっとしてから連れてきたいんだ。ボクがまだ、なんとなく……」
その先を言いよどむ。
この場所は、清らかな場所だ。山の生命が集まり流れ出てくる、管理の縁よりも気にかけるべき場所。
それに、シャルプ自身が逃げ込み助けられた場所でもある。
呪具の中で死にかけたシャルプは、半ば無意識に強く願った。『魔法使いに会いたい』と。
それによって引き出された力で空間を飛び越え、この老木の枝先に引っかかった。強い魔力を辿り、着いたのがここだった。
そしてギニスタにも出会ったのだ。
──しかし。
シャルプには、今まだ『ギニスタが死にかけた場所』という思いが残っていた。
「君のせいじゃないのにね。ごめん、ボクがなんか、まだ……怖くて」
あのひとを失いそうで、怖くて。
あの日の、ギニスタが大木に手を突き自身を粒子に変えていく光景。それからの、ギニスタを【蘇生】する作業の記憶は、シャルプの中に強く結びつけられて残っている。
留めた魂がいつ消えてしまうか、もしかしたら自分が消してしまうかも。
(これまでの【管理者の情報】に、そんな事なかったんだもの)
今までの管理者は誰も、蘇生はやっていなかった。
管理者を継いだばかりの、四つの子供が初めて行う試み。失敗したら、自分がギニスタを殺してしまったも同然で。
それを孤独に、揺らめく魂を隣に、十五年。
「……本当に、成功して良かった……」
その瞳が潤み、口がひしゃげる。
その頭上で光と陰を作る煌めく大木の、その枝葉が気遣うように揺れた。
「ありがと。君も優しいんだよなあ」
その根元に座り込み、シャルプは僅かに口を尖らせる。
「なのにね、他の者達は師匠を悪く言うんだよ」
死に損ない。
非力な足手まとい。
真の者の手を煩わせる。
「そんでそれを受け入れちゃうんだよ……師匠は……」
はあぁ、と息を吐いて、立てた膝に額をつける。
「とても優しいひとだから……」
自分を助けてくれた時もそう。
己の事など二の次で、どこの誰とも分からない子供の命を繋ぎ、「帰すから、家を教えろ」とまで。
(覚えてなかったけど。でも、覚えてても言わなかった。多分)
魔法使いにもなりたかったけれど、あのひとの傍にいたかった。美しく、優しく、温かなあのひとの傍に。
「けど分かってくれないんだぁ……ボクの言ってる事……」
輝く枝葉がさわさわと応える。それにシャルプは苦笑を返した。
「うん……言い方があれなのは、そうなんだけど……」
なんというか、照れくささがある。
それに、それを踏まえても、それなりにまっすぐ伝えているつもりではある。
「周りもさぁ、師匠の事認めないしさぁ……」
今まで立派に、それこそ他の【仮の管理者】よりしっかり仕事をしていたのに。
「力が弱くなったとかいうなら、皆で助け合えば良かったのに」
嵐の時も、山火事の時も、調査隊とかいう人間の集団がやってきた時だって。
「ぜぇんぶ師匠だけに任せるんだもの」
ハァァ、と少し重めの溜め息を吐く。
それを聞いていた幹の光が、流れるように揺らめいた。
「ああ、君のせいじゃないよ。君はここにいる事が大事なんだもの」
言って、老いてもなお滑らかなその表皮を撫でる。
「なのに……その、ちょっと、ボクも浮かれてたのは自覚してるよ?けどさ」
シャルプの相談、というより愚痴はその場に染み入っていく。
巨きな老木も、静かにそれを聞いていた。
老いた大木、この山の主の幹に手を当て、シャルプは軽く問いかける。
「……そんな変わんないかぁ」
【真の者】であるシャルプは、この山に初めに魔法をかけた【真の魔法使い】と同格の力を持っている。
それはその魔法を完璧に引き継げる事も意味し、こうして昔の【真の者】によって山の主となった老木と、意志疎通も可能になる。
「ごめん、師匠はもうちょっとしてから連れてきたいんだ。ボクがまだ、なんとなく……」
その先を言いよどむ。
この場所は、清らかな場所だ。山の生命が集まり流れ出てくる、管理の縁よりも気にかけるべき場所。
それに、シャルプ自身が逃げ込み助けられた場所でもある。
呪具の中で死にかけたシャルプは、半ば無意識に強く願った。『魔法使いに会いたい』と。
それによって引き出された力で空間を飛び越え、この老木の枝先に引っかかった。強い魔力を辿り、着いたのがここだった。
そしてギニスタにも出会ったのだ。
──しかし。
シャルプには、今まだ『ギニスタが死にかけた場所』という思いが残っていた。
「君のせいじゃないのにね。ごめん、ボクがなんか、まだ……怖くて」
あのひとを失いそうで、怖くて。
あの日の、ギニスタが大木に手を突き自身を粒子に変えていく光景。それからの、ギニスタを【蘇生】する作業の記憶は、シャルプの中に強く結びつけられて残っている。
留めた魂がいつ消えてしまうか、もしかしたら自分が消してしまうかも。
(これまでの【管理者の情報】に、そんな事なかったんだもの)
今までの管理者は誰も、蘇生はやっていなかった。
管理者を継いだばかりの、四つの子供が初めて行う試み。失敗したら、自分がギニスタを殺してしまったも同然で。
それを孤独に、揺らめく魂を隣に、十五年。
「……本当に、成功して良かった……」
その瞳が潤み、口がひしゃげる。
その頭上で光と陰を作る煌めく大木の、その枝葉が気遣うように揺れた。
「ありがと。君も優しいんだよなあ」
その根元に座り込み、シャルプは僅かに口を尖らせる。
「なのにね、他の者達は師匠を悪く言うんだよ」
死に損ない。
非力な足手まとい。
真の者の手を煩わせる。
「そんでそれを受け入れちゃうんだよ……師匠は……」
はあぁ、と息を吐いて、立てた膝に額をつける。
「とても優しいひとだから……」
自分を助けてくれた時もそう。
己の事など二の次で、どこの誰とも分からない子供の命を繋ぎ、「帰すから、家を教えろ」とまで。
(覚えてなかったけど。でも、覚えてても言わなかった。多分)
魔法使いにもなりたかったけれど、あのひとの傍にいたかった。美しく、優しく、温かなあのひとの傍に。
「けど分かってくれないんだぁ……ボクの言ってる事……」
輝く枝葉がさわさわと応える。それにシャルプは苦笑を返した。
「うん……言い方があれなのは、そうなんだけど……」
なんというか、照れくささがある。
それに、それを踏まえても、それなりにまっすぐ伝えているつもりではある。
「周りもさぁ、師匠の事認めないしさぁ……」
今まで立派に、それこそ他の【仮の管理者】よりしっかり仕事をしていたのに。
「力が弱くなったとかいうなら、皆で助け合えば良かったのに」
嵐の時も、山火事の時も、調査隊とかいう人間の集団がやってきた時だって。
「ぜぇんぶ師匠だけに任せるんだもの」
ハァァ、と少し重めの溜め息を吐く。
それを聞いていた幹の光が、流れるように揺らめいた。
「ああ、君のせいじゃないよ。君はここにいる事が大事なんだもの」
言って、老いてもなお滑らかなその表皮を撫でる。
「なのに……その、ちょっと、ボクも浮かれてたのは自覚してるよ?けどさ」
シャルプの相談、というより愚痴はその場に染み入っていく。
巨きな老木も、静かにそれを聞いていた。
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