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15 シャルプの過去-1
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シャルプも“色混じり”であり、産まれた時から忌み子とされた。
瞳の上半分が鮮やかな青、下半分は輝く金色。
どちらか片方だけだったなら、それなりに良い人生が送れたかも知れない。
それなりに。何故なら領主の妾の子。
けれど領主はそれを棄てずに、隠し育てた。
『目は気色悪いが、それ以外の見目は良い』
我が子への愛情などなかった。
使えそう、とそれだけの考え。もし使えなくとも遊べるだろう、とも。
赤子の母親、己の妾を物として扱う彼は、赤子も同じ様に扱った。妾の方は、とうの昔に壊れていた。
そして赤子は、乳母ただ一人に育てられる。
『シャルプ』と名付けたのは乳母だったが、その辺りは本人にとってどうでも良い。
何と呼ばれようが変わらない。ここにいるのは二人だけだ。
填め込み窓には外からも格子が付けられ、そこから見えるのは常緑樹の枝葉だけ。この階がそれなりに高い事だけは察せられた。
扉にも外鍵が付けられ、恐らく二重になっている。見た事は無いがそうだろうと、シャルプは思った。
扉を開けた際に万が一、自分が隙間から外へ抜け出さないように。
『これ、よんでくれませんか』
それも特に気にしなかった。
シャルプには、それよりも夢中になっているものがあった。
『……あら、またこちらを?』
数ある玩具のうちの一つ。とびきり豪華な装飾絵本。
『はい!』
そこには【魔法使い】が描かれていた。
魔法で何でも出来る、優しく、強く素晴らしいひと。ただ「絵が綺麗」と好んでいたそれの、中身も好きになるのにそう時間はかからなかった。
それを眺めている時だけは、周りの全てが遠くなる。自分の魔法使いに会いに行ける。
◇◇◇◇◇
産まれてから四年が過ぎた。
その頃になると、乳母は幼子に怯えを覚えるようになる。
流暢に言葉を操り、教えもしない読み書きが出来、計算が出来、なにより。
『? どうしたんですか?』
この状況を理解している。
そしてそれを受け入れている。
『顔色が……』
外に出ようとしないのは、興味が無いのではなく、出られない事を分かっているからだ。
父や母という『存在』を知っていても、自分にとっての父母について、一度も口にした事はない。
『……いえ、大丈夫ですよ』
そして時折、こちらを観察するように静かに見つめてくるその視線。
『……そうですか?』
災厄をもたらすと言われる『色混じり』の瞳が、自分を捉えるその恐怖。
四つとは思えない美貌と立ち居振る舞いと、その子供が持つ全てが異様に見えた。
シャルプにしてみれば、単に手の掛からない子供になろうとしていただけだった。
そんな話を聞いた領主は、面白い、と半分忘れていた我が子に会いに行く事にした。
凡そ四年越しの、シャルプにしてみれば初めての父との対面。そして、
『──』
それを見た領主は言葉を失う。その後困惑が胸に広がった。
始めはその美しさに目がいった。そして声、言葉。
その子供は、上流階級の言葉遣いで挨拶をしてきた。
とても優雅に、ごく自然に礼をする。意味不明に整った動きを。
そしてその眼。二色の瞳は──浮かべられた笑顔の中、何の揺らぎも見られなかった。
『?』
首を傾げる動作さえ、空恐ろしく見え始める。
──このまま生かしておけば、いずれ自分は殺される。
そんな思いすら抱いた。
今までの、今も重ねている自分の行いが、脳内を駆け巡る。その罪を罰するため、この子供はここに来たのではないか。
『……っ』
あの狂い女。悪魔を堕として死んでいったか。領主は、目の前の色混じりに悟られぬよう歯噛みした。
シャルプの母親は、丁度一年前に死んでいた。バルコニーからの転落死だった。
頭から落ち、頭蓋が砕け、それは酷い有り様だったという。そんな彼女が落ちる前、こう呟いていたとメイドから聞いた。
『帰る』
と。
以前はあんなにも美しかったのに、なんという最期。その上、死んでからも煩わしいとは。
どこまでも理不尽にそんな思いを巡らせながら、領主は別邸を後にした。
瞳の上半分が鮮やかな青、下半分は輝く金色。
どちらか片方だけだったなら、それなりに良い人生が送れたかも知れない。
それなりに。何故なら領主の妾の子。
けれど領主はそれを棄てずに、隠し育てた。
『目は気色悪いが、それ以外の見目は良い』
我が子への愛情などなかった。
使えそう、とそれだけの考え。もし使えなくとも遊べるだろう、とも。
赤子の母親、己の妾を物として扱う彼は、赤子も同じ様に扱った。妾の方は、とうの昔に壊れていた。
そして赤子は、乳母ただ一人に育てられる。
『シャルプ』と名付けたのは乳母だったが、その辺りは本人にとってどうでも良い。
何と呼ばれようが変わらない。ここにいるのは二人だけだ。
填め込み窓には外からも格子が付けられ、そこから見えるのは常緑樹の枝葉だけ。この階がそれなりに高い事だけは察せられた。
扉にも外鍵が付けられ、恐らく二重になっている。見た事は無いがそうだろうと、シャルプは思った。
扉を開けた際に万が一、自分が隙間から外へ抜け出さないように。
『これ、よんでくれませんか』
それも特に気にしなかった。
シャルプには、それよりも夢中になっているものがあった。
『……あら、またこちらを?』
数ある玩具のうちの一つ。とびきり豪華な装飾絵本。
『はい!』
そこには【魔法使い】が描かれていた。
魔法で何でも出来る、優しく、強く素晴らしいひと。ただ「絵が綺麗」と好んでいたそれの、中身も好きになるのにそう時間はかからなかった。
それを眺めている時だけは、周りの全てが遠くなる。自分の魔法使いに会いに行ける。
◇◇◇◇◇
産まれてから四年が過ぎた。
その頃になると、乳母は幼子に怯えを覚えるようになる。
流暢に言葉を操り、教えもしない読み書きが出来、計算が出来、なにより。
『? どうしたんですか?』
この状況を理解している。
そしてそれを受け入れている。
『顔色が……』
外に出ようとしないのは、興味が無いのではなく、出られない事を分かっているからだ。
父や母という『存在』を知っていても、自分にとっての父母について、一度も口にした事はない。
『……いえ、大丈夫ですよ』
そして時折、こちらを観察するように静かに見つめてくるその視線。
『……そうですか?』
災厄をもたらすと言われる『色混じり』の瞳が、自分を捉えるその恐怖。
四つとは思えない美貌と立ち居振る舞いと、その子供が持つ全てが異様に見えた。
シャルプにしてみれば、単に手の掛からない子供になろうとしていただけだった。
そんな話を聞いた領主は、面白い、と半分忘れていた我が子に会いに行く事にした。
凡そ四年越しの、シャルプにしてみれば初めての父との対面。そして、
『──』
それを見た領主は言葉を失う。その後困惑が胸に広がった。
始めはその美しさに目がいった。そして声、言葉。
その子供は、上流階級の言葉遣いで挨拶をしてきた。
とても優雅に、ごく自然に礼をする。意味不明に整った動きを。
そしてその眼。二色の瞳は──浮かべられた笑顔の中、何の揺らぎも見られなかった。
『?』
首を傾げる動作さえ、空恐ろしく見え始める。
──このまま生かしておけば、いずれ自分は殺される。
そんな思いすら抱いた。
今までの、今も重ねている自分の行いが、脳内を駆け巡る。その罪を罰するため、この子供はここに来たのではないか。
『……っ』
あの狂い女。悪魔を堕として死んでいったか。領主は、目の前の色混じりに悟られぬよう歯噛みした。
シャルプの母親は、丁度一年前に死んでいた。バルコニーからの転落死だった。
頭から落ち、頭蓋が砕け、それは酷い有り様だったという。そんな彼女が落ちる前、こう呟いていたとメイドから聞いた。
『帰る』
と。
以前はあんなにも美しかったのに、なんという最期。その上、死んでからも煩わしいとは。
どこまでも理不尽にそんな思いを巡らせながら、領主は別邸を後にした。
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