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episode.101 どうかご無事で
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あれ以来、クイーンズキャッスルにいる私は、基本的にはミクニと一緒に暮らしている。
ミクニがこちらへ配置されたことで、盾のプリンスはキャッスルに戻りやすくなった。彼はまた以前のように盾のキャッスルで過ごすことが増えた。
とはいえ盾のキャッスルにこもっているわけではない。
離れた場所にいてもこまめに連絡してくれるし、自らクイーンズキャッスルに来てくれることもわりとよくある。
まめ過ぎてこちらが辛い時もたまにはあるが……。
でもそれはそれで良いのだと思ってもいる。
そしてまた。
『どうも』
彼からの連絡はほぼ毎回と言っても差し支えないくらいこの言葉から始まる。
「相変わらずね。いっつもいっつも同じ言葉から始めて。他の言い方を考えるという発想はないのかしら」
『うるさい』
付近にいたミクニが少々おちょくるかのような雰囲気で言葉を発すると、盾のプリンスは不快そうに少しだけ眉間に力を加えた。
しかしすぐに普段通りの無に近い顔つきに戻る。
『で、話だが』
「はい」
『海のプリンスのところに怪しい敵が来た話は聞いたか?』
「え、そうなんですか。知りませんでした」
『怪しい術を使うやつらしい』
新しいタイプの敵?
『君のところへはいきなりは行かないだろうが、一応気をつけておいた方が良いと思う』
「そうですね、分かりました」
すべてのキャッスルが無事である現在はクイーンズキャッスルが攻め込まれる可能性は低いだろう……多分。
でもそれは、今のところ、の話。
いつ何がどう動くかなんて定かではない。
「また敵が現れるなんて、少し心配です。盾のプリンスさんも気をつけてくださいね」
『あぁ、それはもちろ――』
通信は突如切れた。
胸の内で湧き上がるのは不安感。
「あら、急に切れたわね」
ミクニはおかしなものを見たような顔をしていた。
この違和感は私だけが感じているものではないようだ。
「ですね。……通信障害か何かでしょうか」
「よくあることなの?」
「いえ、これまではこんなことはあまりなかった気がします」
すぐ隣にまで寄ってきたミクニと顔を見合わせる。
「事件の香りがするわね」
「えっ。本当ですか」
それは、正直あまり聞きたくなかった言葉。
でも私も薄々感じてはいた。
盾のプリンスは文章を最後まで言えていなかった。すべて言い終えるより早く通信が切れたのだ。彼が切ったにしては気が早いような気がする。彼の気が早い、と考えるには、少々無理がある。こちらが話している時ならまだ分かるが、自分が話している時に変なタイミングで通信を終わらせてしまうということは考えづらい。たとえマイペースな盾のプリンスだとしても。
「……心配ですね」
呟くように発すると、ミクニはぷっと吹き出してから軽やかな笑い声を放った。
「クイーンさんはお優しいのね」
最後にはそんな言葉をつける。
「私はおかしいでしょうか」
「おかしいとは言わないけれど、彼は少なくとも貴女よりは強いわよ?」
「それは私が弱いだけです」
弱い私と比べればプリンセスプリンスは誰もがかなり強いと言えるだろう。
「あっはは! まぁそうね、それもそうだわ」
ミクニは一人笑っていた。
「あたしが見てきてあげましょうか?」
「え」
うっかりすっとんきょうな声をこぼしてしまった。
「その顔! 面白いわ!」
「言わないでください……」
「そうね。で、さっき言ったことだけれど、あたしが見てきてあげましょうか? と言ったのよ。盾のプリンスの様子を見てこようかーって意味よ」
ミクニは腕組みをしながら発言の意味を説明してくれた。
「でも……手間では?」
「何を今さら!」
「ではお願いします。……あ、私も同行する方が良いですかね」
「要らないわ! クイーンさんはここにいればいいのよ!」
はっきり言うなぁ。
……いや、彼女は何も間違っていない。
ついていっても足を引っ張ってしまうだろう。足手まといになるくらいなら離れている方が周りのためになるかもしれない。大人しくしておく、無茶しない、危険に飛び込もうとしない――それが私にできる数少ない協力だ。
クイーンの突き飛ばしは一応攻撃にも使えるけれど……でも、それを使ったとしても前線に出られるほどの強さではないだろう。
「それでは、よろしくお願いします」
「任せなさい!」
ミクニはあっという間に出ていってしまった。
この白い静寂は寂しさを掻き立てる。
それでも育ったあの家で一人暮らす寂しさよりかはましだろう――そう考えて自分を納得させる。
あの頃の私には親しい人や味方どころか知人さえ少ししかいなかった。数少ない知人も仲良く話せるような関係ではなくすれ違う時に挨拶する程度。もし何かあっても頼れるような人はいなかった。
でも今は違う。
親しさに差はあれどプリンセスやプリンスという仲間がいて、ミクニやアオのような味方もいてくれる。
私はあの頃とは違っている。
たとえクイーンズキャッスル内で寂しさを感じても……本当の孤独があるわけではない。
一度は落ち着いた。でもいずれまた戦いの幕は上がる。それは変えられないのだろう。プリンセス・プリンス自体が戦い続けることを根とする制度のうえに存在しているから。
それでも、いつも前を向こう。
迫る危機には冷静に対処すればいい。
……とはいえ、盾のプリンスは心配だ。
硬い彼がそう易々と倒れることはないだろうが、敵が使ってくるのが物理攻撃でなかった場合にどうなるかは分からない。
「どうかご無事で……」
ミクニがこちらへ配置されたことで、盾のプリンスはキャッスルに戻りやすくなった。彼はまた以前のように盾のキャッスルで過ごすことが増えた。
とはいえ盾のキャッスルにこもっているわけではない。
離れた場所にいてもこまめに連絡してくれるし、自らクイーンズキャッスルに来てくれることもわりとよくある。
まめ過ぎてこちらが辛い時もたまにはあるが……。
でもそれはそれで良いのだと思ってもいる。
そしてまた。
『どうも』
彼からの連絡はほぼ毎回と言っても差し支えないくらいこの言葉から始まる。
「相変わらずね。いっつもいっつも同じ言葉から始めて。他の言い方を考えるという発想はないのかしら」
『うるさい』
付近にいたミクニが少々おちょくるかのような雰囲気で言葉を発すると、盾のプリンスは不快そうに少しだけ眉間に力を加えた。
しかしすぐに普段通りの無に近い顔つきに戻る。
『で、話だが』
「はい」
『海のプリンスのところに怪しい敵が来た話は聞いたか?』
「え、そうなんですか。知りませんでした」
『怪しい術を使うやつらしい』
新しいタイプの敵?
『君のところへはいきなりは行かないだろうが、一応気をつけておいた方が良いと思う』
「そうですね、分かりました」
すべてのキャッスルが無事である現在はクイーンズキャッスルが攻め込まれる可能性は低いだろう……多分。
でもそれは、今のところ、の話。
いつ何がどう動くかなんて定かではない。
「また敵が現れるなんて、少し心配です。盾のプリンスさんも気をつけてくださいね」
『あぁ、それはもちろ――』
通信は突如切れた。
胸の内で湧き上がるのは不安感。
「あら、急に切れたわね」
ミクニはおかしなものを見たような顔をしていた。
この違和感は私だけが感じているものではないようだ。
「ですね。……通信障害か何かでしょうか」
「よくあることなの?」
「いえ、これまではこんなことはあまりなかった気がします」
すぐ隣にまで寄ってきたミクニと顔を見合わせる。
「事件の香りがするわね」
「えっ。本当ですか」
それは、正直あまり聞きたくなかった言葉。
でも私も薄々感じてはいた。
盾のプリンスは文章を最後まで言えていなかった。すべて言い終えるより早く通信が切れたのだ。彼が切ったにしては気が早いような気がする。彼の気が早い、と考えるには、少々無理がある。こちらが話している時ならまだ分かるが、自分が話している時に変なタイミングで通信を終わらせてしまうということは考えづらい。たとえマイペースな盾のプリンスだとしても。
「……心配ですね」
呟くように発すると、ミクニはぷっと吹き出してから軽やかな笑い声を放った。
「クイーンさんはお優しいのね」
最後にはそんな言葉をつける。
「私はおかしいでしょうか」
「おかしいとは言わないけれど、彼は少なくとも貴女よりは強いわよ?」
「それは私が弱いだけです」
弱い私と比べればプリンセスプリンスは誰もがかなり強いと言えるだろう。
「あっはは! まぁそうね、それもそうだわ」
ミクニは一人笑っていた。
「あたしが見てきてあげましょうか?」
「え」
うっかりすっとんきょうな声をこぼしてしまった。
「その顔! 面白いわ!」
「言わないでください……」
「そうね。で、さっき言ったことだけれど、あたしが見てきてあげましょうか? と言ったのよ。盾のプリンスの様子を見てこようかーって意味よ」
ミクニは腕組みをしながら発言の意味を説明してくれた。
「でも……手間では?」
「何を今さら!」
「ではお願いします。……あ、私も同行する方が良いですかね」
「要らないわ! クイーンさんはここにいればいいのよ!」
はっきり言うなぁ。
……いや、彼女は何も間違っていない。
ついていっても足を引っ張ってしまうだろう。足手まといになるくらいなら離れている方が周りのためになるかもしれない。大人しくしておく、無茶しない、危険に飛び込もうとしない――それが私にできる数少ない協力だ。
クイーンの突き飛ばしは一応攻撃にも使えるけれど……でも、それを使ったとしても前線に出られるほどの強さではないだろう。
「それでは、よろしくお願いします」
「任せなさい!」
ミクニはあっという間に出ていってしまった。
この白い静寂は寂しさを掻き立てる。
それでも育ったあの家で一人暮らす寂しさよりかはましだろう――そう考えて自分を納得させる。
あの頃の私には親しい人や味方どころか知人さえ少ししかいなかった。数少ない知人も仲良く話せるような関係ではなくすれ違う時に挨拶する程度。もし何かあっても頼れるような人はいなかった。
でも今は違う。
親しさに差はあれどプリンセスやプリンスという仲間がいて、ミクニやアオのような味方もいてくれる。
私はあの頃とは違っている。
たとえクイーンズキャッスル内で寂しさを感じても……本当の孤独があるわけではない。
一度は落ち着いた。でもいずれまた戦いの幕は上がる。それは変えられないのだろう。プリンセス・プリンス自体が戦い続けることを根とする制度のうえに存在しているから。
それでも、いつも前を向こう。
迫る危機には冷静に対処すればいい。
……とはいえ、盾のプリンスは心配だ。
硬い彼がそう易々と倒れることはないだろうが、敵が使ってくるのが物理攻撃でなかった場合にどうなるかは分からない。
「どうかご無事で……」
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