プリンセス・プリンス 〜名もなき者たちの戦い〜

四季

文字の大きさ
64 / 141

episode.63 みんなといられたらいいな

しおりを挟む
 愛のキャッスルは今日も今日とて優しい世界。柔らかな色調で構成された空間である。そして、その中にいる愛のプリンセスもまた、一人呑気に自由な時間を楽しんでいる。ちなみに今はというと、ソファのような座に腰を下ろしてハート型の毛先を弄りながらあくびを繰り返しているところだ。

 だが、突如、そんな優しい世界を断つ者が現れる。

「こりゃー、かなり呑気な世界だなぁ」

 突如キャッスル内部に出現した元・剣のプリンスは頭を掻きながら呆れたようにこぼした。

「な……な……何なんですか……?」

 一人の男性の登場に気づいた愛のプリンセスは座から立ち上がり警戒心を剥き出しにする。

「いきなりわりぃな」
「不審者……! こっちへは来ないでください」
「あーあー落ち着けよ。話があってきたんだ。いきなり殺しはしねえから安心してくれよな」

 そう言った直後、元・剣のプリンスは愛のプリンセスの目の前すぐ傍にまで迫っていた。

「聞いてるか?」

 急接近されたことに驚いた愛のプリンセスはその場から跳んで離れる。
 逃げるように距離をとった。

「ったく、逃げるなよ。面倒だろ」
「な、な……名乗ってください! 急に現れた人なんて信頼できません!」
「いきなりだが、お前、俺の仲間にならないか?」

 きょとんとした顔をする愛のプリンセス。

「……ふぇ?」

 束の間、沈黙。
 そして数秒後、元・剣のプリンスがそれを破る。

「こんなところで一生寂しく戦いばかり。いいのかそれで」
「アイアイは……べつにそれでも構わないです」

 日頃はあまりしないような真面目な顔で返す――それから晴れやかな笑みを浮かべる愛のプリンセス。

「それに、寂しくないですよ? だってだって、ここには、たくさんのお友達がいますから! 毎日とっても楽しいですっ。それにー、戦いはですねー、みんなで戦えば怖くないんです!」

 決まった、とでも言いたげな顔をする愛のプリンセスだが、元・剣のプリンスは大きな溜め息を吐きつつ「……はーぁ、馬鹿だな」と呟いた。

 そして。

「だが死にたくはないだろう?」

 元・剣のプリンスは急に剣を取り出してその先端を愛のプリンセスへと向けていた。

「ふぇ!?」
「死にたくないならこちらへつけ」
「そんなぁ……! こんなの……滅茶苦茶、ですぅ……!」
「剣のプリンセスと杖のプリンセスのことは知っているだろう? 二人はそこそこ穏やかに生きている。だからお前もそうなれ。そうすれば死なずに済む」

 キャッスル内には、元・剣のプリンスと愛のプリンセス、その二人だけ。他には誰もいない。元・剣のプリンスは躊躇なく武器を出し、愛のプリンセスはそれに視線だけで抵抗している。

「駄目です。だってだって、二人はみんなを傷つけてます。アイアイはそんなことできません」
「俺に逆らうなら死ぬしかないんだぞ?」
「それでも……それでも……アイアイはみんなの敵になるのは嫌です!」
「そうか、そうかよ!! お前も定めゆえ派かよ!! 分かった分かった、なら――もういい!!」

 元・剣のプリンスは相棒である剣を手に愛のプリンセスに斬りかかる。だが愛のプリンセスはその動きをしっかり捉えていて。即座に床を蹴り身体をふわりと宙に投げる。そして、着地するまで待たず、両手を前へ伸ばした。それによって数本のリボンが発生し、それらすべてがまだ床に立っている元・剣のプリンスへと迫ってゆく。

 リボンは彼の剣を持つ腕に絡む。
 愛のプリンセスの攻撃はそれで終わりではなかった。

「はぁーっい!!」

 叫びと共に、人の上半身ほどのサイズのハートを発射。
 それは見事に元・剣のプリンスに命中した。
 彼が大きな声を発するとほぼ同時に着地する愛のプリンセス。

「ぐ……」
「武器を振り回すのはやめてくださいっ!」
「は……はぁ……甘い、甘い……」
「愛のキャッスルはアイアイを傷つけるために来るところじゃないんですーっ! 帰ってもらいますー!!」

 だが。

「甘いんだよッ!!」

 一分も経たないうちに、元・剣のプリンスは絡みつくリボンをすべて引きちぎった。

「ふええ!」
「こんな可愛いリボンで俺を止められるわけがないだろ」

 元・剣のプリンスは剣を手に再び突っ込んでいく。感情の波が大きくなっていることもあってか先ほどまでよりも勢いが増している。
 そして叩き込まれる一撃。
 愛のプリンセスは咄嗟にハートを出して防御したが、ハートは一度の攻撃だけで壊れてしまう。

「ふぇ……」

 もはや何もできない。
 できることを失った愛のプリンセスの腹部に剣の持ち手の一番後ろの部分が叩きつけられる。

「びゃ!」

 剣の持ち手に腹を殴られた愛のプリンセスは数歩分ほど後ろ向きに飛ばされ地面に倒れ込む。涙で潤んだ瞳を震わせながら口を大きく開けて息を整えようとするが、努力も虚しく呼吸は不規則なまま。そんな状態であるから、当然、素早く立ち上がることなどできない。

 元・剣のプリンスは動けない愛のプリンセスに歩いて近づくと、片手で長い髪の一部を掴み、そのまま彼女を強制的につり上げる。

「弱いくせに口だけ立派だなぁ」

 馬鹿にするようなニュアンスで言われた愛のプリンセスは、らしくなく目の前の彼を睨んだ。

「うるさいです……!」
「何だよ可愛くねえなぁ」
「そんなのどうでもいいです! アイアイは絶対屈しませ――びゅぇっ」

 愛のプリンセスは右頬を張られた。

「生意気な女だな!」

 元・剣のプリンスは彼女をさらに引っ張りあげる。そして顔の高さが揃うくらいまで引き上げた。二人の顔面が同じ位置に揃う。愛のプリンセスは男性と顔が近づくことを嫌そうにしていたが、彼は、それを察しながら敢えて顔を接近させる。

「弱いやつがごちゃごちゃ言ってんじゃねぇよ!」

 彼が叫んだ、刹那。

「ふみゅ!!」

 愛のプリンセスは目の前の彼の片耳に噛みついた。

 それは彼女なりの最大の抵抗だった。
 しかしそれが逆鱗に触れてしまって。

「いてぇ! ……もう絶対許さない、許さねぇ!!」

 愛のプリンセスは高い位置から床に落とされる。そして、まだ伏せるようにしているうちに、真上から背中を何度も踏まれた。それを数回繰り返した後、とどめの一発として蹴り飛ばされる。

 一連の流れが終わった時には、愛のプリンセスは気を失っていた。

「ふん。もうくたばったみたいだな。やっぱ弱いなぁ」

 元・剣のプリンスは少し納得したよう一人発して、それから、完全に脱力している愛のプリンセスの身体をひょいと持ち上げる。

「さて、どうやって使うかな」

 そう呟く彼はご機嫌だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

仕事で疲れて会えないと、恋人に距離を置かれましたが、彼の上司に溺愛されているので幸せです!

ぽんちゃん
恋愛
 ――仕事で疲れて会えない。  十年付き合ってきた恋人を支えてきたけど、いつも後回しにされる日々。  記念日すら仕事を優先する彼に、十分だけでいいから会いたいとお願いすると、『距離を置こう』と言われてしまう。  そして、思い出の高級レストランで、予約した席に座る恋人が、他の女性と食事をしているところを目撃してしまい――!?

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました

さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。 王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ 頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。 ゆるい設定です

タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
<もうあなた方の事は信じません>―私が二度目の人生を生きている事は誰にも内緒― 私の名前はアイリス・イリヤ。王太子の婚約者だった。2年越しにようやく迎えた婚約式の発表の日、何故か<私>は大観衆の中にいた。そして婚約者である王太子の側に立っていたのは彼に付きまとっていたクラスメイト。この国の国王陛下は告げた。 「アイリス・イリヤとの婚約を解消し、ここにいるタバサ・オルフェンを王太子の婚約者とする!」 その場で身に覚えの無い罪で悪女として捕らえられた私は島流しに遭い、寂しい晩年を迎えた・・・はずが、守護神の力で何故か婚約式発表の2年前に逆戻り。タイムリープの力ともう一つの力を手に入れた二度目の人生。目の前には私を騙した人達がいる。もう騙されない。同じ失敗は繰り返さないと私は心に誓った。 ※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

裏切られた令嬢は、30歳も年上の伯爵さまに嫁ぎましたが、白い結婚ですわ。

夏生 羽都
恋愛
王太子の婚約者で公爵令嬢でもあったローゼリアは敵対派閥の策略によって生家が没落してしまい、婚約も破棄されてしまう。家は子爵にまで落とされてしまうが、それは名ばかりの爵位で、実際には平民と変わらない生活を強いられていた。 辛い生活の中で母親のナタリーは体調を崩してしまい、ナタリーの実家がある隣国のエルランドへ行き、一家で亡命をしようと考えるのだが、安全に国を出るには貴族の身分を捨てなければいけない。しかし、ローゼリアを王太子の側妃にしたい国王が爵位を返す事を許さなかった。 側妃にはなりたくないが、自分がいては家族が国を出る事が出来ないと思ったローゼリアは、家族を出国させる為に30歳も年上である伯爵の元へ後妻として一人で嫁ぐ事を自分の意思で決めるのだった。 ※作者独自の世界観によって創作された物語です。細かな設定やストーリー展開等が気になってしまうという方はブラウザバッグをお願い致します。

君への気持ちが冷めたと夫から言われたので家出をしたら、知らぬ間に懸賞金が掛けられていました

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
【え? これってまさか私のこと?】 ソフィア・ヴァイロンは貧しい子爵家の令嬢だった。町の小さな雑貨店で働き、常連の男性客に密かに恋心を抱いていたある日のこと。父親から借金返済の為に結婚話を持ち掛けられる。断ることが出来ず、諦めて見合いをしようとした矢先、別の相手から結婚を申し込まれた。その相手こそ彼女が密かに思いを寄せていた青年だった。そこでソフィアは喜んで受け入れたのだが、望んでいたような結婚生活では無かった。そんなある日、「君への気持ちが冷めたと」と夫から告げられる。ショックを受けたソフィアは家出をして行方をくらませたのだが、夫から懸賞金を掛けられていたことを知る―― ※他サイトでも投稿中

処理中です...