平凡女子高生、美少女に転生する。〜夜会で出会った彼は、蜘蛛好き〜

四季

文字の大きさ
30 / 32

30話「椅子もあります」

しおりを挟む
 屋敷の中へパトリーを招き入れるのは、何というか、少々不思議な感じがする。
 これまで私は、主に、招き入れられる側だった。パトリー側が迎えてくれるというのが普通だったから、こんなに違和感があるのだろう。

「どこで話をするんだ、リリエラ」
「希望の場所はありますか?」
「いや、特にない。どこでも構わん」
「分かりました」

 屋敷内の一室へ、パトリーを案内する。
 その道中、私は緊張のあまり、うっかり内臓を吐き出してしまいそうな心境だった。
 いや、もちろん、内臓を吐き出すなんてできっこないのだけれど。でも、そんな妙なことを起こしてしまいそうなほどの緊張で、とても落ち着いてはいられなかったのだ。

「到着しました」

 扉の前で立ち止まる。
 そして、後ろを歩いてきているパトリーの方へ体を向ける。

「この部屋でも良いですか?」
「私はどこでも構わん」
「ありがとうございます。では、こちらへ」

 今回の一件のためにアナが準備してくれていた部屋。
 きっと気に入ってもらえるはずだ。
 私は扉を開け、先に部屋に入ってゆく。眼球だけを動かして斜め後ろを見ていたら、パトリーも私について入ってきていた。


「ここで……話をするのか」

 室内に入るや否や、パトリーは言った。

 決して広くはない部屋。しかし、窓辺には花の入った花瓶が飾られているし、ほどよい香りが漂っているしで、そこそこ快適な環境には仕上がっているはずだ。彼に気に入ってもらえるかどうかはともかく。

「はい。椅子もあります」

 丸いテーブルを挟むようにして、椅子が二つ向き合っている。

 もちろん、簡易的な椅子ではない。柔らかな触り心地の布が張られ、座る面のクッション性も高い、それなりに立派に見える椅子だ。どちらかといえばソファに近いかもしれない。

「座っていいのか」
「はい。そちらへどうぞ」
「では失礼する」

 私とパトリーはそれぞれ椅子に腰掛けた。
 改めて、向かい合う。
 お互いの瞳に、お互いの姿が映り。距離は少し離れているけれど、視線と視線は重なって、離れるということを知らない。

 広がるのは、二人だけの世界。
 今、私と彼は、第三者が入ることのできない空気の中にいる。

「ここのところリリエラからよく手紙が来るようになり、驚いていたところだ」
「あ、すみません……何回も送ってしまって」

 ひとまず謝っておく。
 すると彼は、首をゆっくりと横に振った。

「いや、それはいい。気にするな」

 五秒ほど間を空け、彼は続ける。

「で、話とは何だ?」

 パトリーは静かな声で問いを放ちながら、じっとこちらを見つめてくる。凝視、と言っても過言ではないくらい、見つめ続けている。

 言うんだ。
 今こそ、言わなくちゃ。

 私は心の中で自分に向かってそう告げる。

 自分で自分の背中を押す——そんな妙な行動をしなくてはならないほど、今の私は緊張に圧倒されている。

 だが、それでも、心を伝えることを諦めはしない。

 一度決めたことだ。それも、誰かに言われて決めたことではなく、私自身が自ら決定したこと。だから、今さら逃げることなどできはしない。前に進む、私にはそれしかないのだ。

「パトリー……私の恋人になってはくれませんか」

 ——ついに、その言葉を発した。

 向かい合うパトリーの瞳が、驚きにより、大きく開かれる。

 彼は言葉を失っているようで、暫し黙っていた。
 ただ、黙っていたのは彼だけではない。私も同じだった。

 築いてきたものを壊してしまうかもしれない一言をついに口から出したが、言ってから反応が怖くなり、それ以上何かを続けることはできなくて。

 彼の言葉を待つことしかできなかった。

 元より静かであった室内が、今は、より一層静かになったように感じる。肌を刺すような、痛いほどの静寂。この部屋の中は、長時間過ごすことなどとてもできそうにない、そんな空間になってしまっている。

 パトリーはまだ何も言わない。

 一言で構わないから、良い返事でなくても構わないから、何か返してほしいのに、それすら叶わず。

 戦場にいるかのような緊張状態が長く続く。そのストレスといったらかなりのもので、この場から走り去りたい衝動に駆られるほどの苦痛でもある。
 それでも私が投げ出さないのは、自分の意思による行動だったから。
 もしこれが、誰かにそそのかされたり強制されたりしての行動であったなら、とっくに逃げ出していたはずだ。

 ——そんな、ただ呼吸することさえままならぬ沈黙の果て。

「……そうか」

 パトリーはついに口を開いた。
 出てくるのは低い声。

「いきなりすみません……」
「いや、気にするな」

 彼はまだ、何か考え事でもしているかのようだった。
 答えは出ていないのかもしれない。

「……その言葉は、本気か?」
「はい」
「言わされているわけではない、と?」
「はい。自分で考えて伝えようと思いました」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】王宮内は安定したらしいので、第二王子と国内の視察に行ってきます!(呼ばれたみたいなので、異世界でも生きてみます。の続編です)

まりぃべる
恋愛
異世界に呼ばれた佐川マリア。マリア・サガワとしてこの世界で生きて行く事に決め、第二王子殿下のルークウェスト=ヴァン=ケルンベルトと一緒に、この国をより良くしていきます!って、実際は2人で旅行がしたかっただけ? 呼ばれたみたいなので、異世界でも生きてみます。の続編です。 長くなりましたので、前作の続きでは無く新しくしました。前作でしおりを挟んでくれた方ありがとうございました。 読んでなくても分かるようにしております。けれど、分かりにくかったらすみません。 前作も読んで下さると嬉しいです。 まだまだ未熟なので、稚拙ではありますが、読んでいただけると嬉しいです。 ☆前作で読者様よりご指摘が有りましたのでこちらにも記載しておきます。 主人公の年齢は設定としてありますが、読者様が主人公になれたらな(もしくは好きな年齢に当てはめて読めたら)という思いを込めて敢えて年齢を記載していません。

異世界に落ちて、溺愛されました。

恋愛
満月の月明かりの中、自宅への帰り道に、穴に落ちた私。 落ちた先は異世界。そこで、私を番と話す人に溺愛されました。

【完結】召喚された2人〜大聖女様はどっち?

咲雪
恋愛
日本の大学生、神代清良(かみしろきよら)は異世界に召喚された。同時に後輩と思われる黒髪黒目の美少女の高校生津島花恋(つしまかれん)も召喚された。花恋が大聖女として扱われた。放置された清良を見放せなかった聖騎士クリスフォード・ランディックは、清良を保護することにした。 ※番外編(後日談)含め、全23話完結、予約投稿済みです。 ※ヒロインとヒーローは純然たる善人ではないです。 ※騎士の上位が聖騎士という設定です。 ※下品かも知れません。 ※甘々(当社比) ※ご都合展開あり。

今日結婚した夫から2年経ったら出ていけと言われました

四折 柊
恋愛
 子爵令嬢であるコーデリアは高位貴族である公爵家から是非にと望まれ結婚した。美しくもなく身分の低い自分が何故? 理由は分からないが自分にひどい扱いをする実家を出て幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱く。ところがそこには思惑があり……。公爵は本当に愛する女性を妻にするためにコーデリアを利用したのだ。夫となった男は言った。「お前と本当の夫婦になるつもりはない。2年後には公爵邸から国外へ出ていってもらう。そして二度と戻ってくるな」と。(いいんですか? それは私にとって……ご褒美です!)

【本編完結】獣人国での異種族婚

しろねこ。
恋愛
獣人とひと言で言っても多種多様だ。 力の強いもの弱いもの、体の大きいもの小さいもの、違いがあり過ぎて皆が仲良く暮らすというのは難しい。 その中でも変わらず皆が持っているのは感情だ。喜怒哀楽、憎悪や猜疑心、無関心やら悪戯心……そして愛情。 人を好きになるのは幸せで、苦しい。 色々な愛情表現をお楽しみください。 ハピエン厨なので、こちらもそのような話となる予定。 ご都合主義、自己満、それと両片思いが大好きです(n*´ω`*n) 同名キャラにて色々なお話を書いておりますが、作品により立場、性格、関係性に多少の違いがあります。 他サイトさんでも投稿中!

【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件

三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。 ※アルファポリスのみの公開です。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

処理中です...