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第二十四回 始まりの理由
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由紀が相談室を始めた理由なんて、本当はどうでもいいことなのかもしれない。そんな詮索するようなこと、聞くべきではないのかもしれない。だが、どうしても気になって仕方がないから、僕は質問した。
「え。何? いきなりどうしたの」
紙の束をシュレッダーにかけながら、戸惑ったように返してくる由紀。
「踏み込むようなことを聞いてすみません。ただ、少し気になって……」
僕は正直に言った。
今さら嘘をつくこともない、と思ったからだ。
「この『悪の怪人お悩み相談室』を始めたのは、由紀さん……ですよね?」
「そうだよっ」
「どうして始めようと思われたのかな、と、少し気になって」
紙をシュレッダーにかける作業を終えた由紀は、ばらばらになった紙屑をゴミ箱へ入れ、自身の机の方へと戻ってくる。それから、僕の方へ顔を向けた。
「なるほどね。ま、気になるよね。こんな仕事だし……。いいよ、話してあげる」
由紀は笑顔だった。
「あたし、昔、怪人の知り合いがいたんだ。その彼と色々話してるうちに、怪人には悩みを相談できる場所がないんだって気づいて。それで始めたの」
何とも言えない距離のまま、僕らは話す。
「悪の組織って、仲間同士でも打ち解けきっていないところが多いでしょ? だから、悩みを仲間にも相談できないって人も結構多いんだ。だから、そうやって悩んでる怪人たちのためになることをしたくて」
話している間、由紀はずっと笑顔だった。声自体も、とても明るいもので。
だが、僕は勘ぐってしまう。
彼女の明るさは偽りの明るさなのではないだろうか、と。
きっと、考えすぎなのだろう。僕は根が素直でないから、そんな風に余計なことを勘ぐってしまうのだろう。
そう思ってはいるのだが……。
「ま、そんなくだらない動機だねっ」
「なるほど」
「正直、今『くだらない』って思ってるでしょ?」
苦笑する由紀に、僕ははっきりと告げる。
「まさか! そんなことはありません!」
ここは誤解があってはならないところだ。
だからこそ、いつもよりはっきりと発した。
「くだらなくなんてない! 由紀さんの心、素晴らしいものですよ!」
僕がそう言いきった数秒後、由紀は、ふっと笑みをこぼした。少しばかり呆れたような笑みを。
「……ありがと」
由紀の唇から放たれるのは、お礼の言葉。
小さな声だけれど、そこにしっかりと気持ちが詰まっていることは明らかだった。一
「いいね、岩山手くんは真っ直ぐで」
「え?」
「……ううん。何でもない」
よく分からないことを言われた気がする。
それが少し気がかりだ。
でも、彼女が「何でもない」と言っているのだから、きっと「何でもない」ことなのだろう。
だから僕は、それ以上、何も突っ込まなかった。
むやみに突っ込むというのも問題だろうから。
「じゃあ逆に質問! 岩山手くんは、どうしてここへ来てくれたの?」
う。
予想外の問い。
「ぼ、僕ですか……?」
「そうそう!」
「それはただ、ポストに入っていた求人広告を見て……」
最後まで聞かず、由紀は口を挟んでくる。
「そうじゃなくて!」
「え」
「どうしてここに勤めようって決めてくれたのっ?」
それは僕にとっては難しい問いだ。
なぜなら——完全に偶然だから。
いくつもの選択肢ここを選んだわけじゃない。ただ、職を探そうとしたちょうどその時に、『悪の怪人お悩み相談室』の求人広告を見つけただけ。
「え、あ、それは言えません!」
「えぇー。どうしてよ」
「どうか秘密にさせて下さい!」
「え。何? いきなりどうしたの」
紙の束をシュレッダーにかけながら、戸惑ったように返してくる由紀。
「踏み込むようなことを聞いてすみません。ただ、少し気になって……」
僕は正直に言った。
今さら嘘をつくこともない、と思ったからだ。
「この『悪の怪人お悩み相談室』を始めたのは、由紀さん……ですよね?」
「そうだよっ」
「どうして始めようと思われたのかな、と、少し気になって」
紙をシュレッダーにかける作業を終えた由紀は、ばらばらになった紙屑をゴミ箱へ入れ、自身の机の方へと戻ってくる。それから、僕の方へ顔を向けた。
「なるほどね。ま、気になるよね。こんな仕事だし……。いいよ、話してあげる」
由紀は笑顔だった。
「あたし、昔、怪人の知り合いがいたんだ。その彼と色々話してるうちに、怪人には悩みを相談できる場所がないんだって気づいて。それで始めたの」
何とも言えない距離のまま、僕らは話す。
「悪の組織って、仲間同士でも打ち解けきっていないところが多いでしょ? だから、悩みを仲間にも相談できないって人も結構多いんだ。だから、そうやって悩んでる怪人たちのためになることをしたくて」
話している間、由紀はずっと笑顔だった。声自体も、とても明るいもので。
だが、僕は勘ぐってしまう。
彼女の明るさは偽りの明るさなのではないだろうか、と。
きっと、考えすぎなのだろう。僕は根が素直でないから、そんな風に余計なことを勘ぐってしまうのだろう。
そう思ってはいるのだが……。
「ま、そんなくだらない動機だねっ」
「なるほど」
「正直、今『くだらない』って思ってるでしょ?」
苦笑する由紀に、僕ははっきりと告げる。
「まさか! そんなことはありません!」
ここは誤解があってはならないところだ。
だからこそ、いつもよりはっきりと発した。
「くだらなくなんてない! 由紀さんの心、素晴らしいものですよ!」
僕がそう言いきった数秒後、由紀は、ふっと笑みをこぼした。少しばかり呆れたような笑みを。
「……ありがと」
由紀の唇から放たれるのは、お礼の言葉。
小さな声だけれど、そこにしっかりと気持ちが詰まっていることは明らかだった。一
「いいね、岩山手くんは真っ直ぐで」
「え?」
「……ううん。何でもない」
よく分からないことを言われた気がする。
それが少し気がかりだ。
でも、彼女が「何でもない」と言っているのだから、きっと「何でもない」ことなのだろう。
だから僕は、それ以上、何も突っ込まなかった。
むやみに突っ込むというのも問題だろうから。
「じゃあ逆に質問! 岩山手くんは、どうしてここへ来てくれたの?」
う。
予想外の問い。
「ぼ、僕ですか……?」
「そうそう!」
「それはただ、ポストに入っていた求人広告を見て……」
最後まで聞かず、由紀は口を挟んでくる。
「そうじゃなくて!」
「え」
「どうしてここに勤めようって決めてくれたのっ?」
それは僕にとっては難しい問いだ。
なぜなら——完全に偶然だから。
いくつもの選択肢ここを選んだわけじゃない。ただ、職を探そうとしたちょうどその時に、『悪の怪人お悩み相談室』の求人広告を見つけただけ。
「え、あ、それは言えません!」
「えぇー。どうしてよ」
「どうか秘密にさせて下さい!」
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