悪の怪人☆お悩み相談室

四季

文字の大きさ
上 下
23 / 116

第二十三回 ズガイクォツゥ(3)

しおりを挟む
「なるふぉど! それなら名乗りの分が無駄にならずに済む!」

 ズガイクォツゥの顔が晴れやかになる。
 それはまるで、雨上がりの空に浮かぶ灰色の雲が流れて消え去った後の空のよう。爽やかな顔色だ。

 少ない知識からの提案だったが、納得してくれたのかもしれない。

「すぉうか! すぉの手があったな!」
「少しでも参考になれば良いのですが……」

 するとズガイクォツゥは、握った片手を前に出し、ぐっと親指を上向きに立てた。

「感謝する!」

 ズガイクォツは張りのある声で言う。

 その表情から察するに、今回の提案は悪くはなかったようだ。僕は内心安堵する。また却下されたら、と多少の不安があっただけに、ほっとする部分も大きい。

「そう言っていただけて、嬉しいです」
「あまり聡明でぬぁい吾輩には思いつかない案だった。相談してみて良かった、と思う」

 何より嬉しい言葉だ。
 少ない知識だけで活動している僕にとっては、特に。

「他にも何かありますか?」

 念のため確認。しかしズガイクォツゥは、首を横に振った。今日相談したいことは一件だけだったようだ。

「では、以上ですね」
「そうだぬぁ!」

 言いながら、椅子から立ち上がるズガイクォツゥ。

「岩山手! いい名前なだけでなく、いい仕事しとぅぇるな! 吾輩、気に入った!」

 ズガイクォツゥは、僕のことを、妙に褒めてくれる。気に入ってもらうことができたようで安心すると同時に、嬉しい。褒められると嬉しくて、自然とやる気に満ちてくる。

「ではな!」
「ありがとうございました」

 帰ろうとするズガイクォツゥに、僕は、礼を言いつつ頭を下げる。

 今、僕の胸は明るい。
 初夏の昼間のような晴れやかな明るさだ。


「岩山手くん、お疲れ様っ」

 ズガイクォツゥの対応を終え、個室から出る。すると、由紀がそんな風に労ってくれた。彼女は自分の机で何やら用事をしているが、僕の動きもきちんと把握しているようだ。

「ありがとうございます」
「さっきの方、岩山手くんのこと気に入ってたね!」

 由紀は紙の束を机にとんとんと当てて揃えている。

「はい、何とか嫌われずにすみました……」
「良いことだねっ」
「嬉しいです。けど、逆に緊張してしまいます」

 すると由紀は、ふふっ、と笑みをこぼす。

「ま、そういうこともあるか」

 言いながら、彼女は、紙の束を持って立ち上がる。そして、机の向こう側——入り口から見て奥の方にあるシュレッダーのところまで、すたすたと歩いていく。

「その気持ちは分かるけど、緊張なんてしなくていいんだよっ」

 由紀は手に持っていた紙の束を、少しずつ分けてシュレッダーにかける。

「は、はい。そうですよね。このくらいで緊張なんて……情けないことです」
「情けない、なんてことはないよっ」
「だけど僕……」
「岩山手くん、それなりに頑張ってるし、真面目だし、何の問題もないよ」

 由紀はいつも僕を励ましてくれる。それに、僕が失敗した時も、彼女は僕を責めなかった。自信がない質の僕にとっては、彼女の存在はありがたい。

 ……もっとも、たまに眩しすぎる時もあるが。

「これからも頑張って」
「は、はい! できるだけ頑張ります!」

 こうして話がひと段落した時、僕は気になっていたことを聞いてみることにした。

「あの……少し質問させていただきたいことがあって」
「ん? 何?」

 聞いたって、怒られはしないはず。

「由紀さんはどうして相談室をなさっているのですか?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

新日本警察エリミナーレ

四季
キャラ文芸
日本のようで日本でない世界・新日本。 そこには、裏社会の悪を裁く組織が存在したーーその名は『新日本警察エリミナーレ』。 ……とかっこよく言ってみるものの、案外のんびり活動している、そんな組織のお話です。 ※2017.10.25~2018.4.6 に書いたものです。

男女比の狂った世界で愛を振りまく

キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。 その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。 直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。 生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。 デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。 本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。 ※カクヨムにも掲載中の作品です。

百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話

釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。 文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。 そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。 工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。 むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。 “特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。 工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。 兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。 工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。 スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。 二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。 零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。 かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。 ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...