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僕にとって必要な人だよ。
しおりを挟む最早恒例となってしまったユーリとのランチタイム。
彼はいつも通り甘ったるい笑みを浮かべて、パスタを食べる私を見つめていた。
「ハンバーグが冷めてしまうわ」
「美味しそうに食べるソフィアを見ているだけで僕も幸せになれるから大丈夫~」
ちっとも答えになっていないような返事を返すユーリに呆れてしまう。
「あなたが幸せでも、ハンバーグを作ったシェフはきっと悲しんでいるんじゃない?」
「それもそっか~。ソフィアは優しいね」
「はあ、早く食べないなら私が食べてしまうんだから」
こんなに美味しそうなハンバーグが目の前にあるのに、つまらない私の顔ばかり眺める彼の神経が知れない。
本当に変な人。
「ソフィアってば大胆なんじゃない?はい、あ~ん」
「……ばか」
一口大に切ったハンバーグを差し出す彼を無視してパスタを食べ進める。
「ソフィアって、本当に美味しそうに食べるよね。僕ご飯を食べるソフィアを見てるの好きだな~」
「本当に美味しいんだから当たり前じゃない。美味しいものを真顔で食べる方が難しいでしょう?」
「そうだけどさ、なんて言うか、ソフィアの幸せそうな顔をずっと見てたいなって思うわけ。ね、やっぱり僕と結婚しない?」
いつも通りの表情で、お決まりのプロポーズの言葉を口にするユーリ。
いつもなら適当に流して終わりだった。
だけど今日は、なんとなく…
「ユーリの言葉は、本気かどうかわからない」
そんなことを言ってみる。
「え~、本気だよ?」
「私のこと、好きなの?」
「あははっ、ストレートだね~」
くすくすと笑い出す彼をじっと見つめていると、ユーリは困ったように眉を下げた。
「ソフィアと結婚したいよ」
「私はユーリの運命の人ってこと?」
「運命なんてよくわからないけど、ソフィアは僕にとって必要な人だよ」
変わらない笑みを浮かべたユーリは、ひどく凪いだ声でそんなことを口にする。
運命ではなく、必要。
必要なんて言われると悪い気はしないけれど、それはどこか冷めた響きだった。
「必要、ねぇ。どうしてそう思ったのかはわからないけれど、質問を変えるわね。ユーリはどんな人と結婚したいの?」
「ソフィアみたいな人だよ」
…私みたいな人?
「僕よりも家柄が良くて、優秀で、きちんとした教養も振る舞いも身についていて…どんなに辛くても折れない強さを持ってる人」
随分と具体的で、それでいて曖昧な条件だと思った。
「そんな人だったら、父さんは納得するかな~」
付け加えられた言葉に、ようやく腑に落ちた気がする。
「変なこと言うのね。私はユーリにどんな人と結婚したいか尋ねたのよ?貴方の父親なんてどうでもいい」
「僕が誰を連れてきたって、決めるのはあの人だから、僕の意思なんてどうでもいいんだよ~」
へらへらと笑うユーリに思わず眉を顰める。
「だったら私は、ユーリとだけは結婚しない。私はあなたが父親に胡麻をするための道具じゃないもの」
「…そっか」
「それに、一定の条件を満たせば誰でもいいなんてつまらない選ばれ方は絶対に嫌よ」
ユーリの言葉には、ちっとも意志が見えなかった。
「自分の気持ちを置いてけぼりにして、素敵な相手が見つかるとは思えない」
「うん、そうだね…」
「ユーリは、婚活を少し舐めすぎてる」
「はい、反省します」
しおしおと萎びてしまった彼に小さく溜息をつく。
「確かに、私たちにとって恋愛結婚なんてあまり身近な話じゃないわよね。私だって婚活を続ける上で一定の基準は設けているし」
それ自体は間違いじゃないと思う。
「それでも、どんなに条件が良くたって、自分に嘘はついちゃダメ。決めるのは自分自身だわ。相手と自分、どちらもちゃんと大切にできるような人を見つけないと」
「…自分を、大切に?」
「こんなこと言って、私だってまだわからないんだけど、ユーリにはその人といると安心できたり、優しい気持ちになれたり…幸せだと思えるような人と結婚して欲しい」
父親や家のためではなく、ユーリ自身のために。
「う~ん、じゃあやっぱりソフィアが僕と結婚してくんない?」
「…話聞いてた?」
「僕、女の子で一番ソフィアといる時間が楽しいって思うよ。ふらふらしてる僕だけど、ソフィアには誰よりも優しくしたくなっちゃうしさ?」
真顔でそんなことを言うユーリ。
少しずつ時間を共有してきた彼とは、最早友人のように親しく接している。
友情と恋情の違いって、なんなのだろう。
それがわからないうちは返事なんてできなかった。
「とりあえず、二番も三番もいる人は嫌」
「ちぇっ」
唇を尖らせるユーリを見つめていると、なんだか一層泥沼に陥ったような気持ちになった。
婚活って難しい。
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