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19.出兵
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翌朝、ローズが目を覚ますと、椅子に座って自身を見ている軍服姿のカーライルと目が合った。
「目覚めたか」
カーライルは立ち上がってベッドに腰かけ、ローズの額に口づけた。
「愛い寝顔をずっと見ていた。」
「嫌ですわ。起こしてくだされば…。もう出立されますの?」
「うん、馬の準備ができたら整列させるから、兵を激励して送ってやってくれ。昨夜そなたを独り占めしたいと言ったが、さっそく奴らの前に出さねばならぬ。」
カーライルは冗談とも本気ともわからないことを言って寂しげに笑った。
昨夜交わした言葉のひとつひとつが二人にとっては大事だった。
「侍女を呼んでおく、ゆっくりで間に合う」
カーライルは二人が愛し合った部屋を出ていった。しばらくここには戻らない。
身支度を終えたローズを執事が呼びに来た。
大公邸の前庭にこの皇都の屋敷に置いていた大公の兵団が整列していた。
公爵時代からの領地からも兵団が向かって公国で合流することになっている。
ローズが外に出ると先頭にいた大公が愛馬から降りた。
「では、行ってくる。」
「ご武運を。・・・3年前の光景を思い出しますわ。」
カーライルが軍服の胸から古いハンカチを取り出して見せた。
「この御守りの効果は立証済だから、案ずるな。」
「まあ!」
3年前にローズが刺繍したハンカチであった。
「まだお持ちでしたの?」
「いつも肌身離さず持っている。」
ローズは胸がいっぱいになり、言葉にならなかった。見上げると優し気なカーライルの瞳があった。
大公夫妻として、兵団の前で対面を保たねばならなかったが、本当ならば、抱き合って口づけたかった。
大公が片膝をついてローズの手に口づけた。
普段有事に備えた訓練をしながら大公邸の警備をしている兵団の間でも、大公妃が一時実家の公爵邸に帰り、昨日戻ったという話は伝わっていた。夫婦仲に何があったのかと案ずる者も多かったが、今の二人の間には確実な愛情が見て取れ、一同を安堵させていた。
その兵の中にギルフォードもいた。
昨日帰ったという大公妃が姿を見せたときは、急に消えてしまった姿を再びこの目で見ることが叶い喜んでいたが、夫婦の関係が自分の知らないところで変化したのを感じ胸がじりじり痛んだ。
大公と、その玩具としての大公妃と自分があると思っていた。しかし、今の二人には血の通った夫婦としての愛情が存在している。
混乱した頭でギルフォードは二人を凝視するのみだった。
カーライルが身を翻して軽々と愛馬の高い背に乗った。
ローズは馬の顔を撫でた。
「わたくしの大公閣下を頼みます。」
馬に口づけると、馬もローズに鼻先を押し付けてじゃれた。
「まあ、かわいい。」
カーライルが身を低くしてローズにだけ聞こえる声で囁いた。
「馬まで魅了するとは、置いていくのが心配だ。これから身を預ける馬に悋気を抱かせるな。」
リーズは嬉しそうに笑う。その笑顔に、周りの兵たちが心を躍らせた。
「ローズ、近くへ」
「はい」
高い馬上からかろうじて届くローズの頭に、カーライルが口づけた。
兵たちがざわめき、ローズが顔を真っ赤にした。
「その顔が見たかった。」
「お戯れが過ぎますわ。」
「兵たちを連れて行くから、護衛が減って手薄になる。気を付けてくれ。」
帝都の治安は良い。それでも気遣ってくれるのが、ローズはうれしかった。
一行が去り、馬の蹄の音が遠ざかり、聞こえなくなるまで、ローズはそこに立ち尽くした。
「大公妃殿下、お茶をお淹れいたします。」
侍女が気遣った。
「ありがとう。いただきましょう。」
「目覚めたか」
カーライルは立ち上がってベッドに腰かけ、ローズの額に口づけた。
「愛い寝顔をずっと見ていた。」
「嫌ですわ。起こしてくだされば…。もう出立されますの?」
「うん、馬の準備ができたら整列させるから、兵を激励して送ってやってくれ。昨夜そなたを独り占めしたいと言ったが、さっそく奴らの前に出さねばならぬ。」
カーライルは冗談とも本気ともわからないことを言って寂しげに笑った。
昨夜交わした言葉のひとつひとつが二人にとっては大事だった。
「侍女を呼んでおく、ゆっくりで間に合う」
カーライルは二人が愛し合った部屋を出ていった。しばらくここには戻らない。
身支度を終えたローズを執事が呼びに来た。
大公邸の前庭にこの皇都の屋敷に置いていた大公の兵団が整列していた。
公爵時代からの領地からも兵団が向かって公国で合流することになっている。
ローズが外に出ると先頭にいた大公が愛馬から降りた。
「では、行ってくる。」
「ご武運を。・・・3年前の光景を思い出しますわ。」
カーライルが軍服の胸から古いハンカチを取り出して見せた。
「この御守りの効果は立証済だから、案ずるな。」
「まあ!」
3年前にローズが刺繍したハンカチであった。
「まだお持ちでしたの?」
「いつも肌身離さず持っている。」
ローズは胸がいっぱいになり、言葉にならなかった。見上げると優し気なカーライルの瞳があった。
大公夫妻として、兵団の前で対面を保たねばならなかったが、本当ならば、抱き合って口づけたかった。
大公が片膝をついてローズの手に口づけた。
普段有事に備えた訓練をしながら大公邸の警備をしている兵団の間でも、大公妃が一時実家の公爵邸に帰り、昨日戻ったという話は伝わっていた。夫婦仲に何があったのかと案ずる者も多かったが、今の二人の間には確実な愛情が見て取れ、一同を安堵させていた。
その兵の中にギルフォードもいた。
昨日帰ったという大公妃が姿を見せたときは、急に消えてしまった姿を再びこの目で見ることが叶い喜んでいたが、夫婦の関係が自分の知らないところで変化したのを感じ胸がじりじり痛んだ。
大公と、その玩具としての大公妃と自分があると思っていた。しかし、今の二人には血の通った夫婦としての愛情が存在している。
混乱した頭でギルフォードは二人を凝視するのみだった。
カーライルが身を翻して軽々と愛馬の高い背に乗った。
ローズは馬の顔を撫でた。
「わたくしの大公閣下を頼みます。」
馬に口づけると、馬もローズに鼻先を押し付けてじゃれた。
「まあ、かわいい。」
カーライルが身を低くしてローズにだけ聞こえる声で囁いた。
「馬まで魅了するとは、置いていくのが心配だ。これから身を預ける馬に悋気を抱かせるな。」
リーズは嬉しそうに笑う。その笑顔に、周りの兵たちが心を躍らせた。
「ローズ、近くへ」
「はい」
高い馬上からかろうじて届くローズの頭に、カーライルが口づけた。
兵たちがざわめき、ローズが顔を真っ赤にした。
「その顔が見たかった。」
「お戯れが過ぎますわ。」
「兵たちを連れて行くから、護衛が減って手薄になる。気を付けてくれ。」
帝都の治安は良い。それでも気遣ってくれるのが、ローズはうれしかった。
一行が去り、馬の蹄の音が遠ざかり、聞こえなくなるまで、ローズはそこに立ち尽くした。
「大公妃殿下、お茶をお淹れいたします。」
侍女が気遣った。
「ありがとう。いただきましょう。」
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