182年の人生

山碕田鶴

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2039ー2043 相馬智律

57-(2)

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「はい、こちらです」

 リツが戻ってきて会計を済ませる。菓子をポケットに突っ込んで、私は笠原に訊いた。

「お前、今は何をやっているのだ?  売店とはいえNH社の敷地に入るのは簡単ではないだろう?」
「BS社の研究員としてアンドロイドを作っている」

 笠原は、名刺でも出しそうな言い方をした。

「BS社⁉︎」

 驚く私をつまらなそうに見ながら、笠原はうなずいた。

「お前、まさか大村を……」

   瞬時に思い浮かべたのは、消えた大村の遺体だった。BS社の人格移殖実験。被験。イオンのボディ刷新……。

「察しがいいな。人格移殖は成功だ。もちろん、脳を直接臓器移殖して機械の身体に繋ぐような古いことはやっていない。大村のデータを抜き取ってそれらしく再現してみせた。BS社は、その程度で喜んでいたぞ。肉体の死の直後にもコピーが作れると証明したようなものだ。本当なら魂を移してみせるところだが、大村の身体は抜け殻だったから、まあ仕方があるまい」
「魂を移す⁉︎  お前にはできるのか?  BS社のアンドロイドでか?」
「お前が作っただろう?  大村とセットで届いたのがあったぞ」
「イオン……」

 やはり大村の遺体はBS社に送られたのか。ボディ工場に出張したままのイオンは、BS社で使われたのか。

「俺はインチキをしただけだ。データのやりとりだけなら既に技術はあるだろう?  俺は、笠原が知らないはずの大村のプライベートをイオンに語らせて信用された。俺にはお前が見えるから、それくらいどうとでもなる。大村は有名だったのか?  大村が機械の身体で蘇ったとかいう映像を撮っていたぞ。永遠に生きたい人間は多いのか?  機械に入って生き続けるつもりの魂が地上に溢れたら、俺の仕事が増えて迷惑だな」
「機械に入って魂が生き延びるのは、やはり規則違反か?」
「いや」

 笠原はあっさりと否定した。

「俺は魂を無事にあの世へ送るのが仕事だ。今だって義肢や臓器提供された人間はいるだろう?  機械の身体はそれと同じだ。俺は、魂が消えなければそれでいい。ただし、お前はダメだ。この世の在り方に反している」

 既に何度も他人の肉体を乗っ取り、それによって生者の魂を追い出してきた私は規則違反ということか。

「大村の人格のイオンはどうしている?」
「捨てた。実験を成功させて、ついでに大村からイオン開発の情報を全て引き出せばもう用済みだったから、大村は捨てられたぞ。だから、俺は大村のデータに別人格のデータを上書きして、同じ身体に別人格を入れた。機械の身体の再利用だ。これもBS社は喜んだ。コスパが良くてエコらしいな。機械の中で蘇った人間の人権はどうなるのだろうなあ」

 笠原は他人事にように言った。本当に他人事だ。
   死神はこの世のことに関わらない。そう言いながらお前は何をした?  やっておいてその態度か?

「なんだ?  俺は今、人間でもあるぞ」

 そうだ。こいつは、人間の姿で二度私を殺している。

「お前は……何がしたいのだ?」
「暇つぶしだ。お前が言うことを聞かないから、こうして遊んでいる」
「その子はお前の助手か何かか?」
「リツは何も知らない。俺が勝手に利用しているだけだ」

 リツは黙って私たちのやりとりを聞いていた。利用したと言われても、顔色ひとつ変えなかった。
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