異世界の聖杯を拾ったら後輩系彼女ができた件

三色ライト

文字の大きさ
12 / 30

12話 リディアの上司

しおりを挟む
 メゾングレイルの201号室は、俺が唯一使える部屋だ。引き出しの少なさに自分でも失笑する。

 6畳の部屋は、かつてないほどの人数を迎え入れていた。

「質素な生活をしているのだな」

「悪かったな。茶も出せないぞ」

「結構だ」

 オーヴェリアが入ってきてから、リディアの口数は分かりやすく減少した。

 さっさと俺を切り捨て帰られると歓喜しているのか、それとも。

「改めて自己紹介だ。オーヴェリア・シュタイガー。よろしく」

「宮地正輝。フリーターだ」

 絶対フリーターの意味は伝わっていないだろうに、オーヴェリアは無視した。切り捨てていいものだと判断したのだろう。

 つまらない人だ、軽口を叩いても楽しくなさそう。

「単刀直入に言おう。聖杯を返していただこう」

「断る」

「理由は?」

「彼女が欲しいから」

「は?」

 心底理解できないといった表情だ。

 いたって俺は真面目に回答している。だからそんな表情に忖度する必要はない。

 リディアも最初はこんな顔をしていたな。ここまで険しくはなかったけど。

「リディア、この男をなぜ生かしてある」

 オーヴェリアに話を振られ、ようやくリディアは重い口を開けた。

「……正輝さんは聖杯をずっと人質にしているので」

「罰当たりな男だ。聖杯を何だと思っている」

 俺はリディアと出会ってからのことを話した。

 返してと頼むリディアに対し、俺は聖杯を人質にしたこと。それにより、リディアが俺の彼女になったこと。そして今日、俺たちはデートをしたこと。全てを話した。

 途中から頭を抱えるオーヴェリアだったが、一応最後まで耳を傾けていてくれた。

「愚か者が!」

 しかし爆発する心を抑えていただけのようで、立ち上がって激昂した。

 その瞬間、白い小さな猫がオーヴェリアの側に現れる。ここ、ペット禁止なんだがな。

「[アクシス・ハリケーン]」

「オーヴェリア様、それは!」

「ぐっ!」

 名前的にやばい魔法だ。これ、死んだか。

 そう思ったが、白い猫は小さな突風をぷっと吐き出すだけだった。部屋の隅にあったライトノベルが一冊、その風で吹き飛ぶ。これ、見覚えあるな。

「お前、それで俺の昼食を邪魔したな」

「そうだ。俗にいう嫌がらせだ」

「オーヴェリア様、そこまで弱られて……」

 リディアは心配そうにオーヴェリアの肩をさすった。

 オーヴェリアが弱っているという俺の仮説はどうやら正解だったらしい。

「情けない話だ。だが侮るな、ここまで衰弱していようとお前1人殺すくらい造作もないわ!」

 オーヴェリアは魔力を集結させ、銀色の剣を召喚した。

 改めて、本当にファンタジー世界の住人なのだと思い知らされる。聖杯を人質にしたくらいでどうにかなると思っていた自分の浅はかさに乾いた笑いが漏れる。

「ここで終わらせてやる!」

 リュックサックから聖杯を取り出し、ガードしようとした。
 その時だった。

 俺の前に、金髪の美少女が立ち塞がった。まるでオーヴェリアの銀剣から俺を守るように。

 オーヴェリアは銀剣の進行をピタッと止める。剣を中心に風が吹き、部屋の埃を舞い上げた。

「なぜだ。なぜその男を守る!」

 オーヴェリアはリディアに激昂した。

 しかしリディアは、今度は後退りをしない。

「こ、この人は私の彼氏です。殺されるわけにはいきません」

「バカな、こんな男に惚れたか」

 今日俺が1日かけて聞こうとしたこと。それをオーヴェリアの口から飛び出してしまった。

「……わかりません」

「なら……」

「でも、正輝さんは植物園で怖がった私を助けてくれた。何よりも私の心を優先してくれた」

「…………」

 オーヴェリアは銀剣を軽く叩いた。それに応じるかのように、銀剣は銀の粒子になって消え去った。

「正輝といったな」

「あぁ」

「リディアと恋仲であるうちは、聖杯の力を使わない。そう誓えるか?」

「当たり前だ。リディアほど可愛い彼女がいて、さらに他のことを願うほど俺は欲深くない」

「そうか。ならば今日のところは見逃してやる。どうせ私の魔力は空っぽ。リディアにすら勝てないだろう」

「なぜそこまでして来訪を早めたのですか?」

「……グリスティン・ワルディアルがこの世界に来ている」

「なっ!?」

「誰だ、それ」

 今まで聞いたこともない人物名に、俺は首を傾げた。

 対照的にリディアはかなり怯えている。聖杯を持つ俺も話を聞いておく必要がありそうだ。

「グリスティン・ワルディアルは私たちの敵です。聖杯の力を使って、邪神と同じ力を得ようとしています」

「邪神って、異世界を混沌に突き落としたっていう奴か」

「その混沌を、グリスティン・ワルディアルは再現したいようだ。厄介なことに、奴は私と同格の力を持っている。お互い手負いゆえにどちらが勝つかは正直私にもわからん」

 オーヴェリアの弱気な発言に驚いた。絶対的な自信家で、圧倒的な強さを誇っていると思っていた。それほどまでに敵も強いらしいな。

「お前が聖杯を持てば、奴も必ずお前に勘付くぞ。それでもいいのか」

「巻き込まれるのは慣れている。今さらな話だ」

「そうか。では私は休ませてもらおう。この勝負、早く体力を回復した方が勝利を握るだろうからな」

 ……ん? なんかオーヴェリアが俺とリディアが寝る布団に吸い込まれていくんだけど?

 まさか俺の部屋に居座る気じゃないよね。まさかね。

 ……一応確認しておこう。

「あの、オーヴェリアさんはこれからどこで過ごす気なんですか?」

「ここに決まっているだろう。他のどこに行くアテがある」

「ですよねー」

 困ったな、こりゃテコでも動かないぞ。

「それにしてもリディア、本当にいいのか、こんな男で」

「ま、まだ好きになったわけじゃありませんから!」

「失礼な人だな。オーヴェリアさんはどんな男ならいいんだよ」

「ふん、男などに興味はない。私は知的で、学があり、包容力のある女性を望む」

「あらそっちの人」

 否定はしない。そういう時代だからな。

 ……ん、今のやり取りで何かを思い出しかけたぞ。忘れていたような約束、破ると面倒くさそうな約束を。

「……あっ!」

「どうした、大きな声を出して」

「オーヴェリアさん、知的で学があって、まぁ包容力もある女性の家、空いていますよ」

「はぁ?」

 俺はスマホを取り出して、とある人物に電話をかけた。

 ややこしい事情のため、説明に時間を要したが、その人物は話を聞き終えると「すぐに行く!」とだけ言って電話を切った。

 これで何とか我が家の平穏は保たれそうだ。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ずっとヤモリだと思ってた俺の相棒は実は最強の竜らしい

空色蜻蛉
ファンタジー
選ばれし竜の痣(竜紋)を持つ竜騎士が国の威信を掛けて戦う世界。 孤児の少年アサヒは、同じ孤児の仲間を集めて窃盗を繰り返して貧しい生活をしていた。 竜騎士なんて貧民の自分には関係の無いことだと思っていたアサヒに、ある日、転機が訪れる。 火傷の跡だと思っていたものが竜紋で、壁に住んでたヤモリが俺の竜? いやいや、ないでしょ……。 【お知らせ】2018/2/27 完結しました。 ◇空色蜻蛉の作品一覧はhttps://kakuyomu.jp/users/25tonbo/news/1177354054882823862をご覧ください。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』

ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。 全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。 「私と、パーティを組んでくれませんか?」 これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

勝手にダンジョンを創られ魔法のある生活が始まりました

久遠 れんり
ファンタジー
別の世界からの侵略を機に地球にばらまかれた魔素、元々なかった魔素の影響を受け徐々に人間は進化をする。 魔法が使えるようになった人類。 侵略者の想像を超え人類は魔改造されていく。 カクヨム公開中。

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

処理中です...