君と生きる今日という奇跡に出会うため、僕らはもう一度あの日をループする

星川さわ菜

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死亡直前 7月4日6時55分

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 7月4日、朝。
 
朱音あかねー。起きてるのー?」
 
 1階から母の声がする。声色が荒々しい。

 時刻は7時過ぎ。いつもならとっくに食卓についている時間だからだ。
 
「ねぇ、朱音ー! 早く降りてご飯食べなさい」
 
 再び母が1階から声を掛けるが、朱音は無視を貫いた。
 
 起こされる前から朱音はベッドを抜け出し、制服に袖を通していた。
 忙しく手を動かし、髪にブラシを通す。肩まで伸びた髪は、毛先が跳ねてしまい、何度もブラッシングする羽目になる。

 普段通りの朝。でも今朝は特に気分が悪い。
 昨晩は寝付けず、あまり眠れなかった。少しウトウトしたくらいで、新聞配達の音で目が覚めてしまった。

 ぐーっと、お腹が鳴った。
 イライラすると、余計にお腹がすく。でも、食卓には足が向かない。
 
 今頃は「朱音はなにをしているんだ?」と、食卓で父と母が話しているに違いない。

 朱音は時間が気がかりだった。

 父が仕事に行くまで部屋にこもってやり過ごすと学校に遅刻する。
 それなら今すぐ家を出なくては。時間を見計らい損ねて玄関で鉢合わせたら最悪だ。

 朱音は肩に鞄を掛け、部屋を飛び出した。一気に階段を降りる。
 こっそり出ていきたいのに、急いだせいで階段がトトト……と音を立ててしまう。

「あっ、朱音」

 案の定、母がダイニングから姿を現した。
 
「……おはよう。ご飯食べちゃいなさい」

「……いらない。行ってくる」
 
 母の顔を見ることなく、朱音は靴を履いた。もちろん、ダイニングにいる父とも顔を合わせることもなく。
 
「ちょ、ちょっと、朱音? ご飯は!?」
 
 煩わしいものを振り切るように朱音は玄関を飛び出した。背後で扉がバタンと大きな音を立てる。
 
 家を出る瞬間、ふと父の顔を思い出し、苛立ちが募った。そのせいで、早歩きになっていく。
 昔から感情的になるとじっとしていられない。

 前を見る余裕がなかった。いつもの青空も、朝の澄んだ空気も、すべてが忌々しかった。

 朱音は眩しいものから逃げるように俯いた。
 目に入ったのは、走り去っていく黒猫。

 そして車。

 ーーこっちに来る……!

 もう手遅れだった。

 凍りついたように体が動かない。避ける間もなかった。目の前には車のフロントが迫ってきたのだから。

 クラクションの後、朱音の体が宙を舞った。

 その瞬間はスローモーションになり、こんなに軽々飛べるものなんだと、朱音は自分の身に起こった出来事を他人事のように捉えていた。

 体が放り出されてから何も感じない。時間の流れも、感覚もすべてが鈍っていた。
 続いて、タダンと轟音が響き、地面に叩きつけられたのだと悟る。
 
 ーーああ、そうか。車にひかれたのか。

 そこでやっと一連の出来事を理解した。
 理解して、瞳を閉じた。……はずだった。
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